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大澤寛のタンゴ訳詞集

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    「Cafetín de Buenos Aires」(ブエノスアイレスの小さな酒場)
    Letra : Enrique Santos Discépolo (1901-51)              
    Música : Mariano Mores (1918-2016)

    俺は餓鬼の頃 外からお前を眺めていたものだ
    決して手の届かない物を見るように
    冷たい窓ガラスに鼻を押し付けて
    それから後もお前はただ生きようとした
    俺と同じように
    俺がもう少し年長(大きく)なると 驚く俺にお前は教えてくれた
    タバコを 夢を信じることを 愛に希望があることを

    今の俺の嘆きの中に
    どうしてお前を忘れることが出来ようか
    カフェティン デ ブエノス・アイレス
    この世でお前だけが 俺のお袋に似ているのだ
    賢さと命知らずが奇妙に入り混じったお前から
    世渡りもサイコロも博打場も 俺は教わった
    そしてもう自分を信じないと言う残酷な詩(うた)までも

    お前は俺に 数少ない宝みたいな仲間をくれた
    俺の生きている時間を元気づけてくれる連中を
    幻想にとらわれるホセ
    今でも信じて待つマルシアル
    そして痩せのアベルは どこかへ行ってしまったが
    今でも俺の道案内だ
    決してものを訊ねたりしないお前のテーブルで
    ある日の午後俺は 初めて夢を失くして泣いた
    俺は苦しむために生まれた
    年月を呑み暮した
    そして戦わずに敗れた
    邦訳:大澤 寛

    前出の「Barra querida」や「Café la humedad」と似た雰囲気、即ち古い酒場とそこに集まった昔の仲間とそこで覚えた悪いことも思い出す“苦い青春回顧”というカテゴリー。

    匿名
    無効

    「Calla, bandoneón」 (黙ってくれよ、バンドネオン)
    Letra : Óscar Rubens (1914-84)
    Música : Carlos Lázzari(1925-2009)

    黙ってくれよ バンドネオン
    黙ってくれよ 頼むから
    お前を聴くと 俺は再た 悲しくなってしまうのだ
    お前を聴くと 思い出すのだ あの恋を
    黙ってくれよ バンドネオン
    黙ってくれよ 頼むから
    お前が奏でる このタンゴ
    別れに聴いた あのタンゴ

    踊りながら 愛し合い
    踊りながら 誓った愛
    その証人のバンドネオン
    撫でるような呟きで
    二人の心を甘くした
    或る日 その呟きはとても悲しく
    その日 お前は別れを告げた
    とても悲しいタンゴがひとつ
    二人の悩みに寄り添って
    そんな風に踊りつつ
    二人の別れはやって来た

    何時戻って来るのだ お前は?
    何時だ? 早く言ってくれ
    すぐに戻るとお前は言った
    そしてもう俺は 待つのに疲れて歳とった
    黙ってくれよ バンドネオン
    黙ってくれよ 頼むから
    俺の目が 濡れて来るのが判らんか
    今もなお あの恋に悩む俺が判らんか

    邦訳:大澤 寛
    前出の「Bandoneón amigo」などバンドネオンに語りかけるものは多い。

    匿名
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    「A través de los años」(歳月の過ぎ行くままに)
    Letra : Homero Manzi(1907-51)
    Música : Pedro Maffia (1899-1967)

    歌詞 聴き取り 
    (LP RCA-CAMDEN CAL-3096から orq/P.Maffia  c/Félix Gutiérrez gr.04.OCT.1934)

    Ya no habré de encontrarte en la tarde
    Tu canción se apagó en mi destino*         *destino と聞こえるのだが不確実
    Y en la cruz de cansados caminos
    Se borró tu perfil de mujer
    Novia fiel que se fue sin tragedia
    Sombra gris que partió sin rencores
    Te mentí sin maldad y en amores
    Y al final sin dolor te olvidé

    もう私が 昼さがりにお前に会うことは無い
    お前の唄は 私の運命の中に消えた
    疲れた道程の 十字架の中に
    お前の 女らしい横顔は消えた
    嘆き悲しむこともせず立ち去った 誠実な恋人
    恨みを遺すこともなく去って行った 暗い影
    私はお前に嘘を付いた 悪気はなく 愛の最中にも
    そしてついに 悩みもせずに お前を忘れた

    聴き取りと邦訳:大澤 寛

     ここでは短くestribillo 風に歌われているが、Homero Manzi のこの詩はもっと長いものではないだろうか? 
    ご存知の方はお教え下さい。

    匿名
    無効

    「A un semejante」(似たものに)(1973)
    Letra y música : Eladia Blázquez (1931-2005)
    来てよ お喋りしましょう ちょっと座ってよ
    生きていると様々(いろん)な問題がふりかかって来るの* *La humanidad se viene encima
    私たちはもう ねえ狂ってるあんた
    街角で神様を探すことは出来ないのよ
    神様は連れて行かれた 誘拐されたのよ
    誰も身代金は払わないわ!
    来てよ 外は 憐みなど知らない人たちで
    あんなに一杯だわ
    愛なんか無い生き物たちであんなに

    もしあんたも 私と同じように
    庭に降る雨で 薔薇が濡れることに 心が痛むなら
    もしあんたが どんなことにでも 
    震えるほどに 泣きたくなるなら
    言ってよ あんたと私で何をするか
    あんたと私が こんな世の中で何を
    もう花など咲かない
    あんなに痩せた あんな死んだような砂漠で
    愛を探しながら!

    来てよ お喋りしましょう ちょっと座ってよ
    判らない? あんたと私は似た者同士なのよ!
    困ったことに出会ったら 狂ってるあんた
    真っ先に心を救けるのよ
    あんたの肩に寄りかかれるのは感激だわ
    あんたの優しさは 奇跡みたい
    あんたの手を 兄弟の手みたいに感じるのも!
    あんたにはいつも 良いことは良いこと
    悪いことは悪いことなんだって判るのも!
    邦訳:大澤 寛
    *La humanidad se viene encima
    *venirse encima a +人 = 人の身に起きる・ふりかかる
    Se refiere a que en el mundo se nos vienen encima muchos problemas, mucha maldad.  Ese es el sentido de que se nos vienen encima problemas.

    匿名
    無効

    「A unos ojos」 (あの瞳に) (ワルツ)(1949?)
    Letra : Hernán Videla Flores (n/d)               
    Música : Carlos Alberto Montbrún Ocampo (1896-1962)

    私がうっとりと見つめる君の瞳には
    夜明けの光のような輝きと
    愛の優しさがある
    そして恋する甘い眼差しが  あぁ
    そして恋する甘い眼差しが

    だから私はその瞳に憧れる
    そして心の底まで虜になる
    私が泣くと悲しんで泣いてくれるし
    私が唇付けすると愛で満たされる  あぁ
    私が唇付けすると愛で満たされる

    夢見るような君の瞳は
    静かな水面のように穏やかで
    その澄んだ水の底には
    君の心の美しい浄らかさが見える  あぁ
    君の心の美しい浄らかさが見える

    だから私はその瞳に憧れる
    そして心の底まで虜になる
    私が泣くと悲しんで泣いてくれるし
    私が唇付けすると愛で満たされる  あぁ
    私が唇付けすると愛で満たされる

    覚えておいて欲しい
    君の瞳が私の生きがいであることを
    私の喜びも苦しみもその瞳の中にある
    怒って見つめられると私は苦しむし
    優しく見てくれると幸せで満たされる  あぁ
    優しく見てくれると幸せで満たされる

    邦訳:大澤 寛
    「A unos ojos」 の不定冠詞unos の邦訳が難しい。“語り手が惹かれているあの優しく輝く瞳” なのだがこのunos の訳出は困難。辞書から拾った例文に Tiene unas formas pronunciadas (彼女はとてもグラマーだ)というのがある。“とても” “なんともいえない” といったニュアンスになるのだろうか。

    匿名
    無効

    「Abandono」 (荒れた心)(1937 ?)
    Letra : Homero Manzi (1907-51)
    Música : Pedro Maffia (1900-67)

    (Mercedes Simone が歌うテキストで訳した。女歌として訳したが男性も歌っている。Oscar Alonso + Carlos García, Héctor Farrel + Pedro Laurenz など)

    あの想い出の風が吹いて来る
    私の荒れた心の片隅に
    そして風が立てる昔の埃の中に
    あなたの愛も戻って来た
    私は知らない あなたが幸せに暮らしているのか
    世間に負けて 
    生きる気持ちを失くして
    死ぬことの安らぎを求めているのか

    何故あなたが居ないのか それは私が悪いのか
    思い出さねばならない苦しみ
    私を咎める昔の夢を
    許してはくれない叱責*を                           *mano : 叱責・罰、 (一連の)殴打
    あなたの影と一緒に居ることのいつもの*苦しみを         *amigo : 慣れ親しんだ・癖になった・いつもの
    あなたが良い人だったと知った後悔を
    幸せな過去(むかし)からしつこく戻って来る疲れた声が
    あなたを呼ぶのを遠く聴く苦しみを

    私はもう 私の壊れた人生に
    あなたが帰って来る夢は見ないし
    あなたの心の動きの中へ
    歩いて行く気にもならない
    ただ私が願うのは もしあなたも
    荒れた心の重荷の中に居るなら
    その重荷の中に私を忘れて欲しいことだけ
    つまるところ 今の私を見て欲しい

    あなたが居ない 戻っては来ない苦しみ
    あなたが来ない苦しみ
    私の荒れた心に届くたびに
    私を咎める声を聞く苦しみ
    あなたの影と一緒に居ることのいつもの苦しみを
    あなたが良い人だったと知った後悔を
    幸せな過去(むかし)からしつこく戻って来る疲れた声が
    あなたを呼ぶのを遠く聴く苦しみを

    私は知らない あなたが幸せに暮らしているのか
    世間に負けて 
    生きる気持ちを失くして
    死ぬことの安らぎを求めているのか

    邦訳 : 大澤 寛

    「Abandono」 というタイトルは邦訳し難いもの。
    辞書的には“放棄・放置、遺棄”、“自暴自棄”、“投げやり・だらしなさ・荒み” などがある。ここは“荒んだ・荒れた心” として置く。

    (使用した原詩はTodotangoから)
    Llega el viento del recuerdo aquel
    al rincón de mi abandono
    y entre el polvo muerto del ayer
    también volvió tu querer.
    Yo no sé si vivirás feliz
    o si el mundo te ha vencido
    viviendo sin querer vivir
    buscás la paz de morir.

    Duda de tu ausencia y de mi culpa
    pena de tener que recordar
    sueño del pasado que me acusa
    manos que no quieren perdonar,
    dolor amigo de estar con tu sombra
    remordimiento de saberte buena
    dolor lejano de oír que te nombran
    las voces muertas que se obstinan en volver.

    Ya no sueño que retornarás
    al fracaso de mi vida
    ni tampoco que en tu palpitar
    tendré un afán para andar.
    Sólo quiero que si estás también
    en la cruz del abandono
    sepas olvidarme en su perdón…
    Total, mirá lo que soy.

    Pena de tu ausencia sin retorno
    pena de saber que no vendrás,
    pena de escuchar en mi abandono
    voces que me acusan al llegar.
    Dolor amigo de estar con tu sombra
    remordimiento de saberte buena
    dolor lejano de oír que te nombran
    las voces muertas del ayer feliz.

    Yo no sé si vivirás feliz
    o si el mundo te ha vencido
    viviendo sin querer vivir
    buscás la paz de morir.

    匿名
    無効

    「Abran cancha」(どけ、場所を空けろ) (ミロンガ)
    Letra y música : Hilario Alberto Mastra (1909-76)
    abrir cancha (ラ米)場所を空ける、道をつける
    場末の町のミロンガよ
    お前は 嫉妬深くて陰気なタンゴの女だ  
    カンジェンゲの夜に 
    キャラコを纏ったお前の身体を見て
    お前を部屋に連れ込んだタンゴ野郎を騙したな * engrupir : (lunf.) = engañar, mentir
    あいつはリズムを整えて
    お前をミロンガと呼ぶことにした
    そしてお前が動きの激しいケブラダ* を *quebrada : タンゴの踊りの動作のひとつ
    学んで身につけた時
    踊れる酒場に連れて行った
    *meta y ponga : (l.p.) = Modismo que indica una acción intensa y sostenida
                      俗語で激しい動作を持続させること
    お前は川筋の町では とても人気物になり
    外国人がひとり現れて お前の様子が気にいって
    フォックストロットで話しかけ 随分金を費って
    或る晩 闇にまぎれてお前を町から連れ去った

    場末の町のミロンガよ
    お前は哀れなタンゴをあっさり見捨てたな   
    向かいの角で待っているお前の情夫(いろ)と     
    浮気心でタンゴを持ち上げるふりをして    
    *dar dique = alardear, buscando imprecionar o seducir a alguien
                  誰かに自分を印象付ける・誘惑するために見せびらかす・自慢する
    そして自分がタンゴと別れてしまって
    苛立ち 悩み ぐいぐい呑んで 船に乗り 
    まっすぐヨーロッパに行ってしまった
    ポスターを一枚 地べたに散らして

    お前は川筋の町では とても人気物になり
    外国人がひとり現れて お前を不幸へ連れて行った
    そして栄光に包まれてタンゴがリズムに乗って戻って来たのを見て
    後悔に苛まれて 場末の町にお前も戻って来た
    邦訳:大澤 寛
    故芝野史郎さんから随分以前に教わったのだが「Abran cancha」という題名の同名異曲は多い。タンゴで作詩 José Panizza作曲 Rosendo Mendizábal のもの、ミロンガで作曲 Héctor Varela & Alberto Nery のものなど。

    匿名
    無効

    「Absurdo」 (馬鹿な俺) (1958) (ワルツ)
    Letra : Homero Aldo Expósito (1918-87)  
    Música : Virgilio Hugo Expósito (1924-97)
    昨日 俺は思い出していたんだ
    お前の家 俺の家
    ¡お月さんも 待ちくたびれた玄関
    植え込みでは 時が匂いながら
    流れた!
    そして二人とも歳をとり 
    さらに孤独になった今
    お前のピアノで泣くワルツが聞こえて
    ふと俺は考える
    愛を嘆いているのではないかと

    あの馴れ初めの頃だった
    目のふちの隈が消えて
    頬に赤みが差してくる
    あの夜の ¿覚えているかい? 唇付けが
    桜の木の下で
    ふたりの愛を刻んでいたのを
    愛は絆になれたかも知れないが
    戦いに勝てただろうか
    片や貧しく 片や富む家
    すぐに分かることだ
    絆にはなれなかったと

    こうして 俺は思い出に泣くのだ
    お前の家 俺の家
    お前の愛は 金庫の中で汚れて
    破れた俺の愛は とうとう
    炎(ひ)を消した
    二人とも歳をとり
    全てが虚しくなったとき
    お前のピアノで泣くワルツが聞こえて
    ふと俺は考える
    愛を嘆いているのではないかと                                 邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「Abuelito」 (お祖父ちゃん) (1926)
    Letra : Eduardo Salvador Trongé (1893-1946)
    Música : Carlos Ponciano Cabral (1887-1960) y Alberto Nicolás Laporte (n/d)

    もう飲まないでくれよ お祖父さん 酒はやめてくれ
    もう飲まないでくれよ お祖父ちゃんよ 辛いから
    近所の人が 祭りの時に 
    このテーブルにやって来たぜ 俺たちを慰めに
    もう飲まないでくれよ そしてあの話をして欲しい
    好きな娘(こ)が生きていた頃の話をさ
    あんたの椅子の傍に寄って 俺は 今度は何も言わずに 
    静かにして 聴くからさ

    そして 俺の頼みを聞き入れて 
    可哀そうな祖父は
    俺を火の傍に座らせ 悲しみをこらえて 
    こんなふうに話し始めた

    戸を閉めて 灯りも消してくれ
    暗がりから わしのあの娘(こ)がやって来るから
    あの娘(こ)は或る日 もう随分昔のことだが
    わしの心に 喪服を着せたんだ
    お前に判るかな 
    黒い瞳(め)の 颯爽としたクリオージャ*だったよ
    微笑(にこにこ)して 甘ったれで
    色が白くて 優しくて 喋るのが好きな
    ああ わしの想い出の中の
    花咲く愛のカーネーション
    *criollo/a は普通“南欧出身の父母を持つラ米生まれの男女”を指すが、ここでは“土地っ子                     の意味だからそのままクリオージャとして置く

    お前に判るかな 
    わしが どれほどあの娘(こ)を愛したか
    二人で どれほど愛し合いながら 塒(いえ)を作ったか
    しかし或る夜 運命の手は あの娘(こ)を 
    わしの手元から 神様の許へ連れて行った**       **斜線部分には別の歌詞がある
    わしは 今では 歳月に打ちのめされ
    老いて 疲れて 傷ついてる
    死が待ち伏せているし
    死にたい気にもなっている
    判っただろう 孫よ 
    この辛い話を この世でわしは隠してきた 

    こんなふうに 或る夜 俺の可哀そうな祖父は 
    悲しく 辛く 俺を泣かせたんだ

    邦訳:大澤 寛

    ** Mas ella, cruel, destrozando mi alma, un día,
    con mi mejor compañero me engañó.
    だけど あの娘は酷いことに 或る日 私の心を粉々にして
    私の一番の親友と一緒に 私を裏切ったんだよ

    Altivo : 傲慢な・横柄な、  高い・聳え立つ
    Risueño : 微笑む・にこにこした・楽しげな、  有望な・期待の持てる、 楽しい・和やかな
    Tez : 顔面・顔の皮膚、 顔色
    Acecho : acechar = 待ち伏せる、  観察する・注意して見る・見張る、  忍び寄る

    匿名
    無効

    「Cambalache」 (古道具屋)
    Letra y música : Enrique Santos Discépolo (1901-51)

    この世は昔も将来(これから)も 汚れっちまったものなんだ
    そりゃあ とっくに 判ってる
    西暦506年にも 2000年にも同じこと
    いつも盗人はいたもんだ
    権謀(マキャ)術数家(ベリアン)に ゆすりにたかり
    満足してるやつらに 苦しむやつら
    値打ちのあるのや 紛いもの
    だけどなあ 20世紀と言うものは
    無礼な悪が拡がるばかり
    そうじゃないとは誰が言う
    俺たちは 乱痴気騒ぎに巻き込まれ
    泥にまみれて生きるのさ 誰もかれもが汚れっちまって

    今はこうしたものなんだ
    どんなに正しく生きたって 裏切り者と同じこと
    無教育でも 賢くても 泥棒でも
    寛大(やさしく)ても あるいは詐欺師でも
    みんな同じで マシなものはない
    驢馬も大教授(だいせんせい)も同じこと
    少し遅れている奴も無いし
    上手く出世をする奴も無い
    俺たちゃみんな不道徳
    誰かが威張って生きてたら
    別な奴が足を引っ張る
    つまりは同じことなんだ 司祭だろうと
    布団屋だろうと インチキカードの親玉だろうと
    厚かましかろうと 浮浪者だろうと

    尊敬なんて無いなあ!
    理性は踏みにじられるだけだ!
    誰でも旦那に成れる!
    誰でも泥棒に成れる!
    ごちゃ混ぜになるのはスタビスキー*1
    ドン・ボスコ*2に あのミニョン*3
    ドン・チーチョ*4にナポレオン
    カルネラ*5にサン・マルティン*6
    みんな同じさ 古道具屋の
    愛想の無い陳列棚では
    人生はごちゃ混ぜにされ
    安もののサーベルで傷つけられて
    見ろよ 湯沸かし器の前で聖書が泣いている

    20世紀は 古道具屋さ
    問題ばかりで 熱に浮かされ
    泣かない奴は 飲まないし
    盗みをしない奴はヒモ
    やれ行け! それ行け!
    向うの熱い竈の中で 会おうじゃないか!
    これ以上お前は考えるな
    どこかへ座れよ
    お前の生まれが良くたって 誰にも何の意味も無い
    どちらも同じことなんだ
    昼も夜も 牛みたいに働く奴も
    誰かにたかって生きてる奴も
    人殺しも 医者も
    法に外れて生きてる奴も

    邦訳:大澤 寛

    *1 Alexandre Stavisky = 国際的な詐欺師
    *2 San Juan Bosco = サレジオ会(カトリック)の創設者
    *3 フランス語でquerida (愛しい・可愛い女性) nena (可愛い子ちゃん)
    *4 アルゼンチンのマフィアの首領だったJuan Galiffi の仇名
    *5 1933-1934年のヘビー級チャンピオンだったイタリア人ボクサーPrimo Carnera
    (*1~*5 はLetra-D から)
    *6 サン・マルティン将軍=スペインから南米が独立する独立戦争の立役者の一人

    Cambalache は正統スペイン語でも口語で 1.交換・取り換えっこ 2.(ラ米)古物商
             Cambalachear : 交換する・取り替える
    Porquería : 1.汚いもの 2.値打ちの無いもの 3.くだらない話・つまらない冗談 
    4.卑劣なこと・汚い手
    Estar hecho una porquería : El niño esta hecho una porquería con el barro.
    Chorro : = choro = ladrón
    Dublé : 金張りの・金メッキの品物
          (口語):doblado, en el sentido de reproducido, falsificado
    objeto falso que se ha fabricado imitando a otro legítimo
    Insolente : 無礼な・傲岸な・傲慢な・横柄な
            insolencia = arrogancia,
    Revolcar : ひっくり返す
    Merengue : (ラ米)喧嘩・騒ぎ Se armó un meringue. bronco, pelea
    Escalafón : 1.(等級・階級・勤続年数などを記した)職員・従業員・兵員などの名簿
             2.順位・等級・序列
    Impostura : 1.他人になり済ますこと・詐欺・騙り 2.悪口・中傷
    Colchonero : 寝具の製造業者・寝具商
    Basto : 1.馬の荷鞍 2.(トランプ)棍棒の札
    Caradura : 厚かましさ・恥知らず・ずうずうしさ
    Polizón : 1.密航者 2.放浪者、怠け者
    Atropello : 無視・蹂躙・侵害
    Sable : 2.(金を巻き上げる)手練手管・算段
    Remache : リベット・鋲、釘などの頭をつぶすこと  (ラ米)頑固・強情
    Calefón : (南米)湯沸かし器
    Mamar : emborrachar, embriagar
    Afanar : hurtar, robar en general
    Maquiavelo : Nicolás Maquiavelo (1469-1527) 「君主論」

    匿名
    無効

    「Callecita de mi barrio」(私の町の小路)
    Letra : Enrique Pedro Maroni(1887-1957)   
    Música : Alberto Nicolás Laporte (n/d) + Otelo Gasparini (n/d)
    私の町の 小さな通り
    私の愛を知ってる小路
    良い時代には そこは楽しみ 
    私の 唯一のあこがれだった
    私は今 お金持ちの気分だが
    運命に 逆らってばかりいる
    お前に会うために戻って来た
    下町の 私の小路よ

    タンゴと酒に 過ごした夜に
    私の心は 幾度思い出したことだろう
    人に語るほどの悩みも無しに生きていた
    あの頃のことを
    贅沢に暮らしていたけれど
    ひと刷けの 悲しみの雲が 
    私を泣かせたものだった

    流しの詩人の弾くギターが
    愛の全てを 飾り格子に撒き散らす
    そしてあの町の とても古い家には
    深い想いが 息づいている
    今は懐かしい街灯の灯りで
    物言わぬ影に占う
    私の心を夢で満たす
    盗まれた愛の噂を

    私の町の小路よ
    いつでも誰にも優しかった
    私に不幸を招く場所の灯が
    私にお前を捨てろという
    だけど別れる前に
    じっと静かにお前を見つめて
    悲しくて泣きながら出て行こう
    私の小路よ あの下町の                   邦訳:大澤 寛

    Cortada :Calle corta, de una o muy pocas cuadras. Generalmente son angostas.
    Bacana : Fem. de bacán en los siguientes casos.// Mujer, por antonomasia. // Concubina, respecto de su hombre.
    Antonomasia : 換称・代称、普通名詞・形容詞などを固有名詞の代りに用いること、またはその逆  Sócrates = el Filósofo un hombre cruel = un Nerón
    por antomasia : 言わずと知れた・まさに、 とりわけ
    a golpes : 叩いて・ぶつけて、 無理に・力づくで、 断続的に・ひと塊りずつ
         andar a golpes : けんかばかりしている・逆らい続ける

    匿名
    無効

    「Caminito」1926(小径)
    Letra : Gabino Coria Peñaroza (1889-1975)
    Música :Juan de Dios Filiberto (1885-1964)

    時は流れ 消えた小径
    昔二人で 歩いた小径
    ここに来るのは これが最後
    運の悪さを 話しに来たの
    あの頃は 小径よ お前も
    色んな花に囲まれていた
    お前もすぐに影になる 
    わたしみたいな 影になる

    あの人が居なくなってから
    私は淋しく暮してるの
    ねえ 小径よ
    わたしも行ってしまうわ
    あの人は居なくなって
    二度と帰って来なかった
    わたしも後を追って行く
    小径よ さよなら

    昔いつも午後になると
    愛を歌って歩いたもの
    もしあの人が戻ってきても
    お願いだから 言わないで 
    わたしが泣いて歩いていたことを

    時は流れ 消えた小径
    今は薊が生え茂り 
    どこだったかも判らない
    おまえの傍で死にたいわ
    一緒に 時が消してくれたらいい

    邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「Campo afuera」(平原の彼方へ)
    Letra : Homero Manzi (1907-51)                   
    Música : Rodolfo Biagi (1906-69)

    判ってる 私を忘れてしまったね
    判ってる 遠くへ行ってしまったね
    判ってる もう私はお説教してお前を引き戻そうとはしないよ
    判ってる 唯一つの運命は 全ての柵を開けて平原の彼方へ
    駈け出すことだけなのだよ 忘れるために

    判るだろう
    お前の眼が 私を騙して悲しませているのを
    判るだろう
    お前の孤独を耕して 私が収穫したものは悩みだ
    判らない
    私から遠く離れて お前は後悔しているだろうか
    判らない
    だけど お終いには私を思って泣くだろうと思う

    お前に忘れられたのだと 気が付いたとき
    お前が居なくなったと 分かったとき
    お前を私の人生に 夢の革ひもで縛りつけたかったよ
    お前が他人で 私の道連れではないことを知ったとき
    私は平原の彼方へ向かおうとした 愛を欺くために

    「お前なんか忘れた」と
    大声で触れ回ったりはしたくない
    判ってる
    眼に見えない恨みのように お前が私の傍に居ることを
    だけど もし昔を思い出すという罰があるなら
    背負わねばならないその罰は 二人して受けよう

    邦訳:大澤 寛

    Homero Manzi の美しい詩。最終節の「お前なんか忘れたと 大声で触れまわったりはしたくない」と言う気分は「Que nadie sepa mi sufrir」(知られたくない私の悩み)等にも出て来る。

    匿名
    無効

    「Caña 」(カニャ酒)
    Letra : Enrique Esviza + Julián Arujo
    Musica: Enrique Mónaco

    マスター! もっとカニャを
    グラスの縁まで満たしてくれ
    俺の人生が失敗だとしたら
    今日は気晴らしをしたいのだ 
    caña = tafia = 代表的にはサトウキビから作る蒸留酒・焼酎・ラム酒
    他人(ひと)から俺はやくざ者だと言われる
    不機嫌な 気の荒い                
    道を踏み外したやくざ物だと
    だけどどうしてそうなのかは 他人(ひと)は知らない
    二日酔いで今日目覚めて 他人(ひと)に笑われても
    俺の心に巣食う苦しさを消し去るためなのだ

    カニャよ
    喉が焼けるようなお前を連れて
    俺は心の傷を引き摺り
    苦しみに耐えて行くのだ
    カニャ酒よ
    人はお前を毒だという
    人生だって毒じゃあないか
    愛が息づくことがなければ
    俺はカニャ酒で酔い痴れたい
    忘れることが出来るように
    人を嫌うのが人生だったら
    思い出すのは辛いことだ

    他人(ひと)から俺はやくざ者だと言われる
    飲み続け 飲み続けて 
    どこかの飲み屋のカウンターの隅に
    若さを捨てて行こうとしている
    だけど 他人(ひと)は知らない
    俺の機嫌が良いとき 塞いだ俺の心が
    どんなにあの愛を想っているか                    邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「Canción desesperada」 (絶望の歌)
    Letra y música : Enrique Santos Discépolo (1901-51)

    俺は絶望の歌なんだ
    激しいにわか雨に狂った木の葉だ
    お前の愛のせいで 俺の誠意(まこと)は道に迷い
    俺の心を粉々にして 沈んで行った
    俺は 俺の中で 自分を見失った
    夢を失くして泣き疲れて 眼が見えなくなった
    俺はしつこい質問なんだ
    自分の悩みと お前の裏切りを 叫びたてる

    何故だ?
    俺に愛することを教えたのは
    愛が 夢を意味も無く海に捨てることなら
    愛が 苦悩(なやみ)をかき立てて 泣くことを教える
    古い敵(かたき)であるのなら
    俺は訊ねる 何故だ?
    そうだろう! 何故俺に愛することを教えたんだ?
    お前を愛することが 俺の愛を殺すことなら
    全てを与えて 得るものが無いとは ひどい侮辱だ
    そして 別れの果てに 泣きながら
    目覚めるとは、、、!

    神は何処に居たんだ? お前が行ってしまった時に
    太陽は何処にあった? お前を照らさずに
    女は何故決して理解しないのか?
    男が愛を捧げ 全てを与えることを
    別の運命があることを信じさせるのは誰だ?
    あれほどの夢を ああやって壊すのは誰だ?
    俺は絶望の歌なんだ
    自分の悩みと お前の裏切りを 叫びたてる

    邦訳:大澤 寛

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