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大澤寛のタンゴ訳詞集

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    「Baldosa floja」(緩んだ敷石)
    Letra : Dante Gilardoni (1921-2000)
    Música : Florindo Sassone (1912-82) + Julio Bocazzi (n/d)

    俺の身体にゃ踊りの血
    それを運命(さだめ)と受け止めて
    俺の暮しは踊ること
    これしか進む道はない
    恋も長くは続かない
    だからこうしてひとり者
    カルタの手札は切ったから
    負けたら払って出て行くさ

    縁(えにし)などには背を向けて
    恋の鎖も俺を縛らず
    さすらう雀のようなもの
    昔の俺にはやる気があった
    世の中全部を向こうに回し
    誰かに足を踏まれたら
    緩んだ敷石と同じこと
    泥をはね上げてやるだけさ

    知らねえな 愛なんて
    俺の女は 去(い)っちまったさ
    俺は踊り続けるんだ
    サイコロ(*1)がどんな目を出すか

    時々なにかの悲しみで
    俺の瞳が曇るとき
    忘れてしまった記憶から
    いつでも紅いあの唇が
    ふと蘇って来るときは
    鍔広帽子(*2)をしっかり被り
    真っ直ぐキャバレーに向かうんだ
    俺の暮しは踊ること
    踊りながら死ぬんだろう                   邦訳:大澤 寛

    *1 taba : かかとの骨=距骨  
    骨投げ遊び(羊の距骨を投げて遊ぶ=大人は金を賭ける)
        適当な日本語訳が見つからないのでサイコロとしておく
      darse vuelta la taba : 運・つきが変わる 通常悪い方に変わることを言う

    agarrar : (ラ米)~に向かう Agarro para Córdova Agarró por esta calle
    ambición : やる気・意欲

    *2 chambergo :鍔弘の帽子 カルロス2世時代のチャンベルゴ禁衛隊の兵士が被った

    匿名
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    「Bandoneón amigo」 (我が友バンドネオン)
    Letra : Homero Manzi (1907-51)
    Música : Osvaldo Fresedo (1897-84)

    なあ バンドネオンよ
    お前の鍵(ボタン)には 悩みも喜びも住んでいる
    なあ バンドネオンよ
    お前の蛇腹には 俺の時間が詰まっている
    覚えてるだろう 俺がお前の甘い声を聴いた日を
    歳月(とし)が過ぎたなあ
    そしてお前は 俺の行くところへ
    お前の歌を 吐き出し続ける
    俺のバンドネオン

    いつかある夜 あの古い通りの
    薔薇の咲く街角で
    昔のように一緒に探さないか 
    ゼラニウムの咲くあの家の垣根格子*を
    薔薇の庭を 藤棚を

    お前も俺も 暗がりと花に酔って
    お前は昔のように 苦しい恋の数々を語るだろう
    そして 魔法のようなあやかしの奇跡が起きて
    いつかと同じように お前も俺も二十歳(はたち)の昔に帰れるだろう

    邦訳:大澤 寛

    *reja :現在のreja は全くの防犯用。先端を鋭く尖らせたりガラス瓶の割れたのを貼り付けたり。昔の映画に出てくるような叙情はない。

    匿名
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    「Bandoneón arrabalero」 (場末のバンドネオン)
    Letra : Pascual Contursi (1888-1932)
    Música : Juan Bautista Deambroggio (“Bachicha”) (1890-1963)

    場末のバンドネオンよ
    古くて もう使われない蛇腹よ
    俺はお前を見付けたんだよ
    母親に捨てられた子供みたいなお前を
    壁に塗装もされていない
    とあるコンベント*の入口で      *convento は修道院のことだが、ここはconventillo=共同住宅・長屋を指す
    夜になると 小さな街灯の明かりが
    お前を照らしていたなあ

    バンドネオンよ
    俺が淋しくて もう歌うことも出来ないのが
    お前に見えるから
    俺には心に刻み込まれた悩みがあるのを
    お前は判るだろう

    俺はお前を 俺の部屋に連れて来た
    俺の冷たい胸で お前をあやしたものだ
    俺も捨てられて この小部屋にいたのだよ
    お前は 俺を慰めようとしてくれたなあ
    しわがれた声で
    だけど お前の悲しそうな音色が
    俺の苦しい恋の思い*をかき立てたものだ   *berretín は代表的な語義は浮気・移り気=capricho のことだが多義であり頑固・偏執・執着、強い愛情などをいう

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Barra querida」(懐かしき仲間たち)
    Letra : César Felipe Vedani (1906-72)
    Música : Carlos Alberto Sánchez (1904-39)

    泣きたくなるんだ なあ 友よ
    生まれた街に戻って来ると
    餓鬼の頃を思い出すと
    全部(みんな)失くした お袋も 家も
    遠くなった若い頃を思い出すぜ
    夢が 太陽みたいに輝いていた
    タンゴが 俺たちを 天国へ運んでくれたし
    さもなければ 縺れた愛が俺たちを繋いだ

    残酷な時間から逃れて
    も一度若い頃の暮しに戻るなんて
    誰が出来る
    どこかの玄関で 甘い愛を唄うことなど
    誰が出来る
    もう今では 街に流れたあの口笛 
    仲間の古い合図だった 集まる時間を告げる口笛を 
    聴くこともない

    もう行くぜ 友よ 行くあてはないけど
    あの酒場には 必ず寄って行く
    俺たちがいつも集まって ぺルノーを飲みながら
    自慢話をするのを見ていた あの酒場には
    さあ 友よ もっと飲もうぜ
    俺がこの街に戻ってくることは もう決してないのだから
    そんなことより 乾杯したい 決して戻っては来ない
    昔の仲間のために

    邦訳:大澤 寛
    男は長く不在にしていた町に戻って来た。若い頃には戻れない。古い酒場に立ち寄ってから再た去って行く。
    このテーマの曲もタンゴには数多い。

    匿名
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    「Barrio de tango」 (タンゴの町)(1942)
    Letra : Homero Manzi (1907-51)
    Música : Aníbal Troilo (1907-75)
    街区(まち)のひとかけら ポンページャ辺りの
    鉄道が走る土手の傍らで 眠っている
    踏切では 灯りがひとつ 揺れている
    そして 汽車が産み出す別れの謎
    月に吠える犬たちの声
    玄関の扉に隠れた恋
    そして 沼では 声を張り上げる蛙たち
    遠くに聞こえるバンドネオン

    タンゴの町 月と謎
    遠い昔の通りは どうなっている!
    今では覚えていない 古い仲間たち
    どうしているんだ! 何処にいるんだ!
    タンゴの町 あの頃の
    ホアナ 金髪の 俺があんなに愛した
    別れたあの午後から あいつを思って
    俺が苦しんでるのを知ってるだろうか!
    タンゴの町 月と謎
    思い出の中から お前に再た会おう

    口笛が重なる 向うの街角辺りで
    倉庫には 肉*が詰まっている              *codillo は豚肉とくに膝から上の部分
    もう決して汽車を見に出て来ない
    蒼い顔した近所の女の嘆き
    こんな風に思い出すぜ お前の夜を タンゴの町よ
    空き地に入って来る荷車のある
    月が水溜りで水しぶきを上げている*    *chapalear は(水の中で) パチャパチャ・ピシャピシャ音を立てる、 
    そして 遠くに聞こえるバンドネオン                     (何かが緩んで)カタカタ音を立てる

    邦訳:大澤 寛
    1940年代の幾つかのタンゴの歌詞、例えばCátulo Castillo の 「Tinta roja」 と同様に、この歌詞も思い出を呼び醒ますために、権威づけられた伝統的な文学的命題である所謂Ubi sunt (¿Dónde están? 「彼らは何処へ行ったのか」「今何処にいるのか」)に訴えている。 (Eduardo Romano 「Las letras del tango」 p-319 から)

    匿名
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    「Barrio pobre」(貧しき町)
    Letra : Francisco García Jiménez (1899-1983)            
    Música : Vicente Belvedere (n/d-1946)

    過去(むかし)の遺物(なごり)のこの町の
    とても貧しい町角の
    もう閉ざされたあの小窓
    昔そこにはあったのだ
    愛の香りの籠められた
    カーネーションの一輪が

    その町の何か嬉しい出来事を
    祝う集いの中庭で
    語りかける人の輪の中で
    私はギターを手にとって
    優しい言葉で歌っていた

    あの町よ 私の燃えるような夢があった
    人々の着ているものも貧しかったけれど 
    私には あらゆる豊かさを残してくれた
    私がお前に最後の別れを告げたとき
    悲しんで霧雨が降っていた

    あの町よ 貧しい町よ 私はお前と共に居る
    再たお前に歌いかけるために 古い友よ
    許して呉れよ 私の歌に失望(がっかり)しても
    あのときから 私は泣いて もう声が潰れてしまったのだ

    この街角を通って うっすらと夜が明けるとき
    しっかりした足取りで 仕事に向かったものだ
    私の時間は優しく素朴に過ぎて行った
    母の愛 恋人の愛 いつも愛があった
    この街角を通って 寒くて嫌な或る晩に
    昔の 汚れの無い良い世界(ところ)から私は出た 
    角を曲がり 何を失くしたかを考えることもなく
    二度と戻らぬために あても無く立ち去ったのだ           邦訳:大澤 寛

    cual : 物事の性質を示す関係形容詞としての用法
    Una situación tan conflictiva, cual es la que vivimos ahora, require soluciones drásticas.

    huraño/a : ひどく人嫌いな・非社交的な  ref:misántropo/a

    匿名
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    「Barrio viejo」(古い町)
    Letra : Eugenio Cárdenas (1891-1952)              
    Música : Guillermo D. Barbieri (1894-1935)

    俺の美しい町があった街路(とおり)
    俺の昔の夢が未だある街路
    木の葉のこだまを歌に乗せて
    雲雀のように俺は帰って来る
    忘れないでほしい 
    帰って来るときに
    俺は幸せを全て持って来た
    だから俺は 帰り着いたら
    俺の歌が持つ幸せを
    置いて行きたいんだ

    お前の窓の下まで帰って来た
    愛する女が休憩(やす)んでいるのを
    心地良い歌で目を覚まさせた
    幸せだった頃の朝を思い出そうと
    今日お前の街路(とおり)を歩き廻りながら
    俺は自分を愛で満たしたい
    目が眩むような 溢れる光の下で

    俺の町よ 俺は決して忘れなかった
    どんなに長い間離れていても
    俺が楽しんだ町 町の端(すみ)っこ
    俺の 遠い昔の日々の
    輝きを探しに来たんだ
    判ってほしい 
    太陽に包まれたこの街路(とおり)から離れては
    俺は生きられない
    何故ならいつもここにある陽の輝きが
    俺の愛を生き返らせてくれるのだから

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Barro」(泥)
    Letra : Horacio Basterra (Horacio Sanguinetti の本名) (1914-57)
    Música : Osvaldo Pugliese (1905-95)

    何のために生き続けるのだろう
    生きることが泣くことなら
    泥をかけられて 俺の心は傷ついている
    忘れることが俺の願いだ 忘れることだけが
    神様が俺につけた名前は 
    悩みと孤独の“こぼれ花”*      *Flores という姓にmustias = しおれた・しなびた という形容詞。

    この残酷な男の戦いの中で
    俺は惨めさと苦しみに耐えた
    昨日のことだが女がひとり 嘲りながら
    俺の名前を泥で汚した
    俺が友情を求めても 出会えたのは偽ものだった
    カーニバルの作り物の高笑いの後で
    俺が見つけたものは

    愛の奇跡だけが 俺を生き返らせるかも知れない
    扉を閉ざした俺の心に もし訪れる心があれば
    悲しむ俺の白髪に 差し伸べられる手があれば
    白髪を消してくれるだろう
    それが無ければ死ぬ方がましだ

    俺の青春は酒びたりだった 悩みを鎮めたくて
    俺がよろめき歩くとき
    俺の心も気持ちも鎮まっていると誰が思うだろう
    何のために思い出すのだ 忘れる方が良い
    俺の人生の全ては 場末のタンゴのように
    いつも泥沼だったのに 

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Bien frappé」
    Letra : Héctor Marcó (1906-87)
    Música : Carlos Di Sarli (1903-60)

    なあ ボーイさんよ 持って来て注いでくれよ
    caña* の強いのでも grappa* でも ウイスキーの
    上手くフラッペにしたやつでも
    こんな悩みを消し飛ばすためにな
    焦々して 喉が渇いて
    俺の血管を詰まらせる悩みを
    そして 俺が思い出に取り憑かれても
    あんたは構わずに
    俺のために思い出を殺してくれよ
    グラスが一杯になって
    毒で覆われるまで注いでくれよ
    俺みたいな毒でな
    *caña 南米で砂糖黍から作った安い蒸留酒のこと
    *grappa イタリア語 スペイン語ではgrapa 南米で一般的に安ものの蒸留酒のことをいう

    思い出の害悪(わるさ)を根こそぎにするために
    俺はアルコール漬けになりたい
    弱気な愛が
    心を捉えて
    俺の太陽を消すから
    そして 飲んで飲んで
    俺が正気を無くしても
    俺のグラスにずっと注いでくれよ
    それほど俺の愛の渇きは
    深くて 狂ってるのだから

    なあ ボーイさんよ 持って来て注いでくれよ
    caña の強いのでも grappa でも 
    苦しむためのウイスキーでも
    20年の付き合いの思い出の太陽が
    俺を騙して 焼き焦がしたのだから
    俺の人生も 俺の愛も
    嘘を付く 薔薇色をした
    思い出の唇の中で
    俺は苦い苦しみに酔ったのだから
    そして今 思い出は消えない
    俺は忘れたくて ウイスキーが欲しい
    上手くフラッペにしたやつを

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Boliche “El Cuco”」(クコという名の酒場)
    Letra : Atilio Supparo (1871-1942)
    Música : Manuel Costas (n/d)

    博打の好きな連中の天国と
    言われた とある下町で
    そこでは灯りは石油のランプ
    “クコ”*という名の居酒屋が                 *Cuco はEnrique の愛称
    店を開いて昼間から
    おっ始まるのはインチキ賭博* *trucoもmonteもトランプを使うカードゲーム
    夜になったら扉を閉めて
    誰かが“上がり”と叫んだら
    その馬鹿を皆でぶん殴る

    そこにいるのは酔っ払い
    酔っ払ってる 飲んだから
    酔っ払ってる スったから
    店の親爺まで酔っている
    マドリード生まれのお巡りが
    角で立ち番しているが
    毎晩毎晩トラピチェ*を   *ワインの銘柄のひとつ
    半リットルも飲み続け
    その居酒屋でやっている
    インチキ賭博はお目こぼし

    酔って赤い鼻をした
    毛むくじゃらの大男に向かって
    ひとりのイタ公が大きなくしゃみ
    まるで手榴弾が爆発したみたいな
    グラスからはワインがこぼれ
    赤い雫が点々と拡がる
    その豚みたいなイタ公は
    べろんべろんに酔っていて
    でっかい鼻*を拭こうとして *naso はnariz grande 大きい鼻
    隣の男の鼻を拭く  

    本気で喧嘩が始まった
    馬鹿と思われないために
    吊りランプの火は消され
    Limeta* を飲んでた連中が         *limeta は瓢箪に似た形の瓶 安酒をいれていたもの
    滅多矢鱈に*歩き出し         *meta y meta = meta y punga は激しい・連続したアクション
    ピストルやナイフを持ち出した
    結局大したことにはならず
    刑務所行きが8人で
    38人病院へ
    馬鹿が8人井戸の中

    周辺(あたり)は全て静まり返り
    賭けてた連中は逃げて行く
    居酒屋に賭け屋*の影はなく       *ここではpasador は掛け金を受け取って胴元に渡す役のこと
    内側(なか)の明かりも消えている
    間もなく廊下のひとつから
    突然飛び出す男がひとり
    それが誰だか判るかね? お巡りだ!
    雨水溜めより酔っていて
    “止まれ! 誰だ!”と怒鳴った相手は
    正面にあった郵便ポスト
     
    邦訳 :大澤 寛

    Cuco : Enrique の愛称
    trucoもmonteもトランプを使うカードゲーム
    encajar : (ス)(口語)投げつける、殴る
    mameluca 売春婦 mameluco (口)馬鹿、おどけ者

    gil : 間抜け、頓馬
    limeta : 1.フラスコのような瓶  2.広い(抜けあがった)額、禿頭=pelado
    meta y meta : = meta y punga
    sacar : poner a alguien fuera de sí hacer perder el conocimiento y el juicio
    bufo : おどけもの、道化役  (Arg.)ホモ、男色者
    filoso/a : (ラプラタ)鋭い・尖った  (中米)空腹の
         (ル)filosa=dísese de toda arma blanca
    peludo : 1.毛深い、毛むくじゃらな   2.(ラ米)泥酔
    soberbio/a : 1.尊大な、傲慢な 2.立派な・素晴らしい 3. 極度の 4.大きな・巨大な
    estornudo : くしゃみ   estornudar : くしゃみをする
    mamado/a : 酔っ払った  mamarse : 酔っ払う
    esparo : (ル)aspamento =exageración afectada de un sentimento o un estado de ánimo
         (ス)aspaviento :大袈裟な身振り・感情の表出
         (ル)ayudante de punguista
    empinar : 大酒を飲む  empinarla = 酔っ払う・飲み過ぎる
    naso : =nariz grande (ルではない)

    espiantar : 1.irse, escapar, huir, fugar 2. Despedir, dejar cesante, echar
    3. robar, hurtar, quitar
    pasador : 密輸業者
    mamado/a : =ebrio, borracho
    aljibe : 1.雨水溜め=cisterna  2.タンカーbuque aljibe          

    匿名
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    「Brindemos compañeros」(乾杯しよう 仲間たちよ)
    Letra : Enrique Cadícamo (1900-99)
    Música : José Luis Padula (1893-1945)

    オルケスタのタンゴが華やいで
    娼婦(おんな)たちが寝室(ベッド)の睦言を真似るとき
    古い仲間よ 君たちと
    シャンパンの宴を続けよう
    人生の茶番を追いかけて

    今夜ここには四人の仲間
    忘却のかなたから 過ぎ去ったときを取り返そう
    昔と同じタンゴの調べが 俺たちに思い出させる
    マリアの スサナの あの悲しい物語を
    優しいシャンパングラスの底から
    忘れられた顔が仲間入りしに来る

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Brindis de sangre」(血の乾杯)
    Letra : José Ramón Suárez (n/d)
    Música : Abel Fleury (1903-58)

    鳴きやまない蝉の声 真昼
    小屋には繋がれた馬が十匹
    その雑貨屋には血と恨みの匂い
    理由(わけ)はと言えば 今朝早く
    あいつが戻って来ていたのだ 
    マリアを拉致(さら)って村を出たあの金髪の男が
    先住民の血が混じるクルスは
    既に知っていた 恋敵が戻ってくることを

    とうとう今日がその日になった
    繋がれた鹿毛の馬にクルスは気付く
    恋人を乗せて連れ去った馬に
    クルスは今もマリアを忘れられずに
    思い出の中に包んでいる
    静まり返った雑貨屋に 
    馬から下りたクルスが入る 
    先の尖った木の葉のように

    (語り)
    俺がマリアの男だ
    おい店番、カニャ酒を二杯くれ
       なみなみと注がれた杯を挙げ
       昔の恋敵に向かって
    乾杯、お前か俺かどちらかが倒れる
    決闘(ナイフ)に乾杯だ
    そして間髪を入れず 
    手荒な突きが始まる 

    突いたり引いたりの応酬(やりとり)があり
    着ているポンチョや馬の柵には
    どちらのナイフも触りはしない
    運命の神が決着をつける
    厄介者の金髪が倒れ そしてまもなく息絶える
    戦いの済んだ雑貨屋の前では
    金髪のガウチョの身体が冷えて行くのに
    鹿毛の馬が鼻を寄せる
    その傍らで身を起こしつつ 
    クルスはなおも自分に問いかける
    どうして自分を殺(や)らせなかったのか
    死ねば忘れられたのに マリアを

    邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「Cada día te extraño más」 (日毎募る想い)
    Letra : Carlos Bahr (1902-84)
    Música : Armando Pontier (1917-83)

    俺の日常(くらし)から お前を消してしまいたかった
    そう考えるたびに 何時も心にお前が現れる
    俺の気持ちを黙らせたかった
    何でもない振りをしながら
    お前の思い出を追い払いながら
    俺が隠している この愛の叫びを
    強い願いを込めて 押し殺そうとして来た
    しかし いつも夜が来ると 俺の努力は空しく
    俺の心の声が 俺を黙らせて置かなかった

    日毎に強く お前に対する愛が募る その中でお前を呼ぶ
    日毎に強く どうしても お前に居て欲しくなる
    過ぎて行く日の中で 残酷な執拗(しつこ)さで
    お前の姿が大きくなる 大きくなって遠ざかる
    判っている もう遅過ぎるのだ 俺は独りになった
    傍に居るのは 自分(おのれ)が犯した過ちだけだ そして日毎に強く お前に居て欲しくなる

    行き当たりばったりに 彷徨(さまよ)い歩いて来た
    無駄なことだが お前を忘れてしまおうと 
    自分(おのれ)の夢を騙したかった
    お前の想い出に繋がれてはいないと嘘をつきながら
    何でもない振りをして 俺の心を 良心を
    押し殺そうとして来た
    しかし今夜 お前を思い出して泣きながら
    心を黙らせることは出来ないと判った

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Café de los Angelitos」(天使たちのカフェ)(店の名前)
    Letra : Cátulo Castillo (1906-75)
    Música : José Razzano (1887-1960)

    思い出すぜ 生活に埋もれているけど
    今 燻る煙に包まれて
    煙草を吸いながら 心地よい想い出と
    濃い珈琲を前にしていると
    リバダビアとリンコン*の あの古い街角                    *どちらも通りの名前
    昔の仲間たちが帰って来る
    そこにあるテーブルに
    歳を取ったとふざけながら
    昔の夜の騒ぎを思い出しながら

    天使たちのカフェ!
    ガビーノ*やカソン*が居たバー!          *Gabino Ezeizaも Higinio Cazónも当時の高名な吟遊詩人
    リバダビアやリンコンの通りで
    騒いで叫んで楽しかったぜ
    カルリートス*の居た頃        *Carlos Gardel を指すのだろう
    皆 どんな夢を追いかけて去(い)っちゃったのかな?
    どの星に住んでいるのだろう?
    昨日やって来て 通り過ぎて 消えた声は
    何処に居る?
    どの街角を通って帰って来るのだろう?

    雨が降って寒い夜には
    俺は 昔の決まった場所に戻って来る
    すると今度も ベティノッティ*が傍に座って         *José Betinotti この人も当時の高名な吟遊詩人
    喉を震わせて歌うのだ
    俺のものだった あの心地よい片隅で
    人生は退屈して欠伸をする
    誰も あの昔のテーブルに
    俺を招んではくれないし
    何もかもが不在で 別れなのだから

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Café la Humedad」(“ラ・ウメダー”という名の酒場)
    Letra y Música : Cacho Castaña (1942-)

    湿気 小ぬか雨 それに寒さ
    古い酒場の青いガラスに 俺の気も弱くなる
    ここでどれほど待ってるかは 訊かないでほしい
    コーヒーはとうに冷めて 吸い殻の山
    相手が決して来ないのは判っていても
    雨が降ると 俺はこのカフェまで走って行く
    じゃれて俺の靴の紐を解(ほど)こうとする
    猫だけが俺の仲間

    Café La Humedad*よ ビリヤードと仲間たち
    俺はひたすらお前に感謝しないといけない
    そこで夜毎教えて貰ったことで 死ななくて済んでるのだから
    土曜日 カードのトリック “いいなあ”
    Café La Humedadよ ビリヤードと仲間たち
    胴元が勝つカードのトリック “いいなあ”
    俺はただ感謝する そこで夜毎学んだ数々の詩が
    若い日の俺に教えてくれたことに

    独り身の孤独 
    夢見ることに疲れた30年の歳月
    だから俺は 変わらない仲間たちを求めて
    Gaona と Boyacá の角*の この酒場に戻って来るのだ
    仲間の数はもう多くはないけれど
    “さあ みんな 今夜は思い出そう
    過ぎた昔に仕出かした騒ぎをひとつずつ
    そしてLa Humedad という名で呼ばれた酒場を”

    (注-1)Café La Humedad どう訳すか? “湿り気・湿度の高い酒場”ではしっくりこないのでそのままにして置く。
        humedad にはラ米での用法に“結末・顛末を知る・察知する”がある(sentir la humedad)がこのタイトルとの関係は判らない。
    (注-2)Gaona 通りとBoyacá 通りの交差点にCafé La Humedad はあった。親しみとからかいが混じり合った”Boliche a los comercios”とも呼ばれていたという。
    邦訳:大澤 寛

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