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大澤寛のタンゴ訳詞集

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    「Sentimiento gaucho」(ガウチョの心)
    Letra : Juan Andrés Caruso (1890-1931)
    Música : Francisco (1888-1964) y Rafael Canaro (1890-1972)
    パセオ通りの 古い飲み屋には
    神を信じる心を失くした者たちが集まる
    或る日そこで俺は 暗い片隅に座っている
    汚れ切って 襤褸を纏った酔っ払いを見付けた
    その男を見て 深く心を動かされた
    その男が 心に悩みを隠していると思ったから
    傍に座って話しかけた
    するとその男は こんな風な嘘の無い告白(はなし)をした

    よく聞いてくれよ あんた
    判るだろう 苦しむことは男である条件なんだ
    俺が心から愛した女は 口説きが上手い男の
    後を追って去(い)ってしまった
    あいつは 俺の愉しみを奪い去ったけれど
    決してあいつに会いたいとは思わない 
    あいつは幸せにしてくれる男と
    楽しく暮らせばいいんだから
    どうなるか俺には判らんけどなあ!
    俺があいつに抱いていた愛情の全てを
    裏切りと言う刃(ナイフ)の一刺しで殺したんだから

    無駄なことだな 忘れようとしても駄目なんだ
    俺の愛の たったひとつの対象だった女の想い出を
    あいつにとって俺は 生えていても引っこ抜かれて
    匂いがするクローバーみたいなものでないといけない
    あいつが 何時かひょっとして 
    再た俺のところに戻って来たいと言うなら
    許してやらないといけない
    男が嫉妬に狂って他人(ひと)を殺しても
    許されるだろう どんな女に対するものでも
    その愛がとても深いものであったら

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Sentimiento malevo」(悪(わる)の気持ち)(1929)
    Letra : Enrique Cadícamo (1900-99)                         
    Música : Antonio Buglione (1899-1978)

    ねえあんた
    心の中に住んで あんたを酔わせているあの悪魔
    それが心と言うものだよ
    あんたは強いけど 腹の中まで捕まっちまったねえ
    素直な愛の持ち主で ちょい悪(わる)で さみしがり屋の

    あんたの気持 悪で怠け者の
    タンゴの嘆き節と あんたにまとわりついたあの女の間で
    花を咲かせたんだよ

    あんたこの頃変わったねえ 
    町にはいいことだよ 働きものになって 
    悪(わる)で 濁った あんたの気持も
    愛することで 偉いものになったよ

    何もかも
    ポリ公の笛にびくついた 暗い 追い詰められた
    あんたの暮らしを
    あんたの怠けた心に 甘い悩みを遺した
    一かけらのあの気持ちが
    変えてくれたんだよ

    邦訳:大澤 寛

    Engayolar : meter en gayola / apresar, encanar / guardar / atrapar a alguien amorosamente / comprometer en casamiento / casar / atrapar en general
    Atrapar = 素早く捕える・捕まえる、 手に入れる・獲得する、 罠にかける・欺く
      Gayola=cárcel, jaula = ポルトガル語のgaiora
    Achura : (ス)1.(牛などの)臓物 2.(とくにペルーで)鉱脈の中心部
    Achurar / acurear : 臓物を取り出す、刺し殺す  (ラ米・ラプラタ)分け前にあずかる
    Compadre : 2.友人・仲間・相棒  3.(ラ米・ラプラタ) 見栄っ張り・威張り屋・自慢屋
    Rante : apócrifo de atorrante = vago, ocioso,haragán / escaso. insignificante /
    ordinario, vulgar, común
    Malevo=スペイン語のmalévolo から=malevaje, malevo/a, malévolo/a, malevolencia
    Sobresalto = どきっとすること、恐怖
    Chifle : (ス)呼子・笛、鳥寄せの笛  2.(角製の)火薬入れ

    匿名
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    「Será una noche」 (いつの夜か)
    Letra : Manuel Ferradás Campos
    Música : José Tinelli

    私にはわかります 私の人生*に *existencia : 2.生涯、生活、人生
    いつか 幸せな夜が来ることを
    それは 私の愛が実る夜
    あなたが 生きるのに疲れて
    戻って来る時
    私にはわかります 或る夜あなたが
    私の許にやって来るのが

    私は唇に頬笑みを浮かべて
    優しい眼差しには光りを宿し
    全ての唇付けに命を籠めるのです
    あなたの苦しみを和らげるために
    あなたが戻って来る夜には
    私の魂は*1 星の光を纏い
    私の心は*2 愛の露に濡れる
    花になるでしょう

    だから 私は待つのです
    だから 夢を見るのです
    私にはわかります 遠くであなたが
    私の想い出に 神のお加護を祈るのが
    そしてあなたが 悩みに耐えかねるとき
    そのとき あなたは 懐かしくなって
    私の許に帰って来ることが
    邦訳:大澤 寛

    *1のalma も*2 のcorazón もどちらも“心”と訳せる。alma は“魂・精神、人・中心人物・首謀者、真髄・核心“。corazón には臓器の”心臓“ があり、さらに”心・愛、勇気・熱意、中心“という精神的な内容では殆んどalmaの意味と重なる。

    Manuel Ferradás Campos にはOlga という女性を歌った「Nieve」 (雪)という美しい作品がある。作曲はAgustín Magaldi.

    匿名
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    「Shusheta」(1944)(気取り屋)
    Letra : Enrique Cadícamo (1900-99)
    Música : Juan Carlos Cobián (1896-1953)

    フロリダ通りで皆が見る
    ニッカボッカにとんがり帽子 そしてステッキ抱えた姿
    その昔 若い頃 あいつは
    昔のブエノス・アイレスの 大物ドン・フアン
    ジョッキークラブの入口で
    ボタン穴にはいつもカーネーションを挿していた

    フロリダ通りで皆が見る
    ニッカボッカにとんがり帽子 そしてステッキ抱えた姿
    上流家系に生まれ落ち
    どんな集まりでも人気者
    ご婦人たちに囁きかけて
    心を捉えてしまうのだった
    パレルモの午後を 馬車に乗り
    駆け廻ったものだった
    そして 
    このブエノス・アイレスっ子の征服者は
    新たな出会いを求めに行くのだった

    ああ あのプチ・サロンの日々
    青春の狂気の数々よ
    ああ アルメノンビルの
    シャンパンタンゴのコーナーのひと時よ

    みんな去(い)ってしまった
    思いの籠った束の間のひと時のように
    今に残るのは 君の心の思い出ばかり
    フロリダ通りで皆が見る
    ニッカボッカにとんがり帽子 そしてステッキ抱えた姿

    邦訳:大澤 寛

    (注)
    “shusheta*”の意味はlunfardo の辞書によれば
      remilgado = (形)上品ぶった、偉そうな・偉そうにした
    petimetre = (名・古語 女性はpetimetra)めかし屋、おしゃれ
    cajetilla = (名・男女同形 ラ米 侮蔑的に)気取った、気障な
    さらに
      名詞でsoplón = 密告・タレこみ・告げ口(をする人)
      形容詞でelegante = エレガントな
    (「Diccionario del lunfardo」 Athos Espíndola による)
    (注)
    *Armenonville 1911年創業の高級キャバレー。ブエノス・アイレスに於けるこの業種の草分けである。常連客からは ”Armenón” の愛称で呼ばれていた。1913年からガルデル=ラサーノが出演。Roberto Firpo が「Alma de Bohemio」 をここで初演した。Juan Maglio ”Pacho” に同名の曲「Armenonville」がある。
    (Horacio Salas の「El Tango = Una guía definitiva」から)

    匿名
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    「Siempre es carnaval」
    Letra : Emilio Fresedo (1893-1974)
    Música : Osvaldo Fresedo (1897-1984)

    何と多くの人々が 仮面をかぶって生きていることか
    仮面を付けていたことを忘れて
    何と多くの人々が 笑うことなしにいることか
    この世は 我々を消滅させる
    長編映画の一こまなのだ
    結局 どれだけの嘘がつかれるのだ
    確かなものは何も無い
    賭け事のひとつなのだから
    “奥様はお具合が悪いので” やら
    “少し前にお出かけになりました”
    そして主人は死んだことになる
    勘定を取りに来た時は

    そしてカーニバルは続くのだ
    紙テープは散って行く
    太いのも 細いのも
    我々をよろめかせて
    そしてお前の仮装から
    仮面が無くなると
    お前の無邪気な子供の顔には
    年がら年中カーニバル

    そして万歳! カーニバル!
    お前にはいつも光りが輝き
    お前は永遠の可愛い仮面
    人を騙して喜んでいる
    そしてお前の仮装から
    仮面が無くなると
    お前の無邪気な子供の顔には
    年がら年中カーニバル

    お前には 何と運が付いていたことか
    お前の揺り籠は金で出来ていた
    幾らかかる? 知ったことか!
    男と女は お前の愛で
    天に昇る
    お前のせいで 他にももっと沢山のことが起きる
    お前が家柄を語るとき
    過ぎた大昔のことなのだが
    お前は王様のようだったのだ
    俺に教えて欲しいのだが
    これは暫く措くとして
    お前が勘定払ったとしても
    お前は俺に幾ら借りてる?

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Siempre se vuelve a Buenos Aires」(人はいつもブエノス・アイレスへ帰る)
    Letra y música : Eladia Blázquez (1931-2005)

    この街は 知らずに魔法に掛っている
    帰って来たいと思わせる 魅力のある魔法に
    良いことなのか 悪いことなのか 判らないけど
    帰って来るのは 魔法の儀式
    私はここの生まれ 他の場所ではあり得ない
    帰って来る習慣の中に自分が居る!
    自分を見直して そして失くしたものの値打ちを測るために
    過ぎ去った人生の!

    帰って来て 再た立ち去る時が来ている
    もう行くのだけど 行きたくない気持ち
    私自身の心の街角を曲がって 理解したい
    誰もが 自分が生きていることの運命論に逃げ込まないことを
    敷石に足を踏み下ろす
    帰って来いと誘う薔薇が咲いている敷石に!

    この街が本当にあるのだろうか こんな風にして
    詩人の誰かが 私のためにこの街を創って呉れたのか!
    この街は女みたいなもの 予言者で 
    最後まで生贄を求める 宿命の女
    だけど同時に 別の声 別の肌がある
    カフェのテーブルには開けっ広げな空気がある
    花への思いと 兄弟のような優しさのある手
    そしてどの家の入口にも 愛の顔がある

    私がこの町で生まれたのは 偶然ではない
    ちょっぴり悲しく さびしがり屋の私
    バンドネオンがひとつ 私たち二人がさよなら!を言うための
    葬送の歌を弾いてくれるのも 偶然ではない
    あなたにさよならを言うなんて 判るでしょう あり得ないことだと
    本当にいつも いつもあなたが居るから 私は帰って来る!

    人はいつも あの憂鬱な愛の形を求めて
    ブエノス・アイレスに帰る
    そのことが判るのは 望郷の思いに病んで生きねばならなかった
    もう殆んど死に瀕した人だけなのだ

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Siete mujeres」(7人の女)
    Letra : Ernesto Cardenal
    Música : Américo Viglione

    一週間の毎日に
    俺には女が7人いる
    俺には女が7人いる
    月曜日には楽しいロサ
    俺の心を飾ってくれる
    火曜日に張りきって待っているのは
    あのルデシンダ・アルバラド
    去年のカーニバルで
    人魚の扮装してたのを
    コリエンテスとアンチョレーナの角で
    魚みたいに釣ってやった

    水曜日には俺は華やぐ
    金持ち気取りの女の子
    金持ち気取りの女の子
    小ずるい手練手管を使い
    俺の気を引こうとしたが
    俺はロメオの役を演(や)り
    一番上手いやりかたで
    第1コーナーを曲がったところで*         *el primer codo競馬用語の“第1コーナー” 普通この            勝負をこちらのものにした                               段階では未だ勝負は判らない
    俺の素敵なお姫様は
    完全に俺に参ってしまったさ    

    木曜日には特別公演
    天才的な気配りで
    天才的な気配りで
    日本娘に狙いを付けた
    マラビアとグアテマラの角で
    金曜日には俺の評判は挙がる
    ブエノスアイレスのドン・ホアンとしての
    タダで*食ったり飲んだりしながら              *de arribeño (俗語)タダで・金をかけずに
    女の子を口説いていると
    夢から覚ます一人の女
    それは居酒屋の女(お)主人(かみ)なのだ

    土曜日には この男は
    ミロンガに向かうのだ
    ミロンガに向かうのだ
    焼きもちやいてぶつくさ言う
    婚約者殿と連れだって

    さて栄光の日曜日
    これで暦は停まるのだ
    これで暦は停まるのだ
    この日の俺は集中するのだ
    俺の一番大事なひとに
    日曜日は 仲間よ
    日曜日はお袋のためにある
    日曜日に俺をお袋から引き離す女はいないのだ!
    邦訳:大澤 寛

    (todotango 収録の歌詞と、実際に歌手のHernán Salas=楽団はCuarteto Ricardo Cleriが
                     歌っているものを比較して置いた)
    Pa’ los días de la semana
    yo tengo siete mujeres,
    yo tengo siete mujeres,
    los lunes Rosa Placeres
    mi corazón engalana.

    Los martes me espera ufana
    la Rudecinda Alvarado,
    que en el carnaval pasado
    se disfrazó de sirena
    y en Corrientes y Anchorena
    la enganché como un pescado.

    Los miércoles me floreo
    con una chica bacana, 原歌詞ではchica はninfa となっている
    con una chica bacana
    que con fina filigrana
    quiso laburarme feo. laburarme は trabajarme
    Pero yo me hice el Romeo,
    apelando al mejor modo
    y al llegar el primer codo llegar は doblar
    del filo cumplí la proeza,
    mi distinguida princesa
    se metió con pata y todo.

    Los jueves, función de gala,
    con genial delicadeza
    con genial delicadeza
    me apuntó una japonesa apuntó は apunté a
    en Malabia y Guatemala.

    Y los viernes se apuntala
    mi fana de Don Juan porteño, fama は don
    con una que quita el sueño
    y es dueña de una cantina
    y mientras afilo la mina mientras afilo は en tanto afilar
    que morfo y chupo de arribeño. morfo は como

    Los sábados, este mozo
    rumbea pa’ la milonga
    rumbea pa’ la milonga
    con la oficial que rezonga
    porque la voy de celoso.

    Llegó el domingo glorioso Llegó は Llega
    y se plantó el almanaque plantó は paró
    ahí concentro mi ataque
    con mi más dulce pareja.
    El domongo, amigos, el domingo, amigos, が付け加えられている
    el domingo es pa’ mi vieja
    ¡No hay mujer que me lo saque!

    gala : lucimiento, alarde, jactancia
    función de gala : 特別公演
    de arribeño = de arriba (l.p.)gratis, gratuitamente de garrón, de gorra

    匿名
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    「Siete palabras」(1930) (七つの言葉)
    Letra : Alfredo Bigeschi (1908-81)
    Música : Juan Maglio “Pacho” (1880-1934)

    お前には判るかな
    どんな苦しみ 悲しみが
    俺の心に残ったか 俺の忠実な悩める心に
    お前が俺を捨てて行った
    あの日から
    俺の人生は
    つまらない 悲しいものになった
    お前はなんという仕打ちをしたんだ
    偽りなく 愛を持って
    お前を愛することが出来た俺という男に
    そしてお前は 全てを忘却の彼方へ投げ捨てた
    お前のために生きて来た俺の全てを

    俺は全く考えもしなかった
    お前があれほどの仕打ちをするとは
    俺が愛をこめてお前に尽くした
    全てに向かって
    俺はお前を街から救い出した
    お前が病むのを見たくなくて
    そしてお前は 俺のこの貧しい小部屋で
    悩みと病を癒して 俺が頼りになる男で
    お前に 塒の温もりと 着るものと食べるものを
    与えることが出来るのが判ったのだ

    お前には 口に出して言うだけの
    勇気が無かったのだ “さよなら 行くわ
    もっと男らしい別の男と
    あんたにはもう飽きたから” と
    テーブルの上で 俺は見付けた
    紙に書かれた七つの言葉
    お前からの残酷な別れを告げる言葉

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Silencio」(静寂)
    Letra : Alfredo Le Pera (1904-35)
    Música : Carlos Gardel (1890-1935)+ Horacio Pettorosi (1896-1960)

    夜のしじまに 全てが和む
    力は眠り 猛き心は休息する
    揺り籠をゆすり 歌う母ひとり
    心に沁みる愛の歌
    その揺り籠に 願いが宿る

    五人の男の子に母は聖母
    毎朝五つの唇付けが
    優しく母の髪の毛に
    優しい母の白い髪
    仕事場に向かう五人の兄弟

    夜のしじまに 全てが和む
    力は眠り 猛き心はうごめく
    戦(いくさ)の鐘が鳴り響き 祖国危うし!
    戦争の叫びに 殺し合う男たち
    フランスの野を血に染めて

    戦の済んだ野には今 草木は青く蘇る
    耕作の歌は 人生の賛歌
    白髪の増えた母は独り
    五つの勲章(メダル)を手に ただ独り
    祖国(くに)が贈った五つの勲章(メダル)
    五人の英雄(ヒーロー)を讃えつつ

    夜のしじまに 全てが和む
    力は眠り 猛き心は休む
    遠く聞こえる母たちの合唱(うた)
    揺り籠に紡ぐ新たな希望(のぞみ)
    夜のしじま 心の安らぎ
    邦訳:大澤 寛

    第一次大戦のヨーロッパを歌った大曲。 他にも 「El marne」 (マルヌの戦い)などがある。
    始めと終わりの部分に短いが美しい女性コーラスが入る。
    古い子守り歌
    Arrorró mi niño, arrorró mi sol     お寝み 我が子よ、 お寝み 私の太陽よ
    arrorró pedazo de mi corazón,      お寝み 私の心のかけらよ
    の前半部分がコーラスに取り入れられているもの。

    匿名
    無効

    「Silueta porteña」(ブエノス・アイレスの影法師)
    Letra : Orlando D’Aniello (n/d) + Ernesto Nolli (n/d)
    Música : Juan Ventura Cuccaro (1915-n/d)+ Nicolás Luis Cuccaro (n/d-1973)

    歩道に靴音響かせて 君が街を歩く時
    街をぶらつく 遊びの好きな あのミロンガのリズムを刻む
    美しく流れるようなあのリズム
    君は行ったり来たりして まるで踊っているみたい
    だから皆に見て欲しい 皆に君を見て欲しい
    何故なら君の身体には ブエノス・アイレスの娘たちの 
    誇りと見事な身のこなしがあるからだ

    それは地元の昼下がり 
    雲を織り込んだ 美しい空
    君の髪には 国旗の色のヘアバンド
    それは全く君の誇り
    そして君の両の瞳(め)が
    どんなに輝いていることか

    男たちは君を冷やかし 声を掛ける
    君が通ると花を投げる 
    拾って 髪に挿して欲しいと
    君の髪を飾るそのヘアバンドと一緒に
    君の身体は告げている 君の誇りとそのリズム
    歩道に響く靴音も告げている 
    “私は地元の心の影法師(シルエット)”
    すると皆は君のことを 一番きれいで 
    一番ブエノス・アイレスの土地っ子らしいと持て囃す

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Sin barco y sin amor」 (俺には船も恋もない)
    Letra : Enrique Lary (n/d-1970)                       
    Música : Erma Suárez de Varela (n/d)

    波止場 狭い通り 昔のパリ
    赤い灯 船乗り 小さな居酒屋
    女たち どのテーブルでも恋の囁き
    そして俺は飲む いつものように隠れて
    何処に 俺は何処に居る あの女のせいで
    悲しみに沈む俺は テーブルの染みだ
    寄りかかって悩んで 俺の歌を歌う

    船乗りの歌
    港港に恋ひとつ
    歌おうぜ 飲もうぜ
    郷愁にかられて
    明日 俺たちは船出する
    海に向かう 別の土地に向かう
    俺は船乗り
    俺には 船も恋もない

    故郷(くに)に帰る気も
    あいつを探す気もない
    何のために探す 悩むだけだ
    来なよ ナナー* 俺の腕をとってくれ *Naná は女性の名前
    暫らく一緒に居たいのだ 古傷を忘れたい
    唇付けはもういいよ 飲もうじゃないか
    あいつだ 俺のグラスにあいつが居る 見えないか
    そして お前のグラスには 俺の船がある
    泣くから 放っといてくれ

    邦訳:大澤 寛

    Borrón : インクの染みや滲み、  汚点・傷・不名誉、  下手な文章・なぐり書き
    Tirado/a : (ス)堕落した男・女の意あり

    匿名
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    「Sin palabras」(言葉も無く)
    Letra : Enrique Santos Discépolo (1901-51)
    Música : Mariano Mores (1918-2014) 

    お前から生まれたのだ
    二人を結びつける唄を探していたとき
    今判るのだが
    俺がお前に与える罰が 
    残酷なそして多分獣じみた罰が
    この音楽は言葉も無くお前を傷つける
    どこへ行こうと
    お前の俺に対する裏切りがこの唄を聴くとき
    お前が笑うとき お前の夢が泣くとき
    夜は一段と馬鹿げた 昼は一段と悲しいものになる

    許して欲しい
    もしも最後にお前を罰することを望んだのが神であるなら
    もしもこれほど人を責めることが出来る嘆きがあるなら
    もしもお前の愛から生まれたこれらの言葉があるなら
    とどのつまりそれらは 歴史の傷跡を拡げる苦行僧の下帯なのだ
    拷問なのだ 遺言の補足文書なのだ
    お前がこの唄を聴くたびごとに 
    傷ついた気取り屋の俺の苦しみは深まる

    お前から生まれたのだ
    希望に任せて運命を欺きながら
    今判るのだが
    俺がお前に与える罰が
    残酷なそして多分獣じみた罰が
    そのことを口に出さずに この歌はお前の名を呼ぶ
    そのことを口に出さずに 俺はお前の名と共にいる
    恐れで殆ど眼は見えなくなり
    お前を失う恐れと それでも死なずにいる恐れに
    隣り合わせで

    邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「Sirva otra copa」(もう一杯)
    Letra : José Rótulo (1905-65)
    Música : Arturo Gallucci (1909-78) 

    もう一杯頼むよ バーテン
    幾青春の年月を
    捨てて去ろうとしてる俺
    その年月を思い出す
    酒は助けになるものだ
    もう一杯やってくれ 我が友よ
    話と話の合間には
    この若い衆に世の中の
    耐えねばならぬ物ごとを
    語り聞かせることになる

    較べるものの無いほどの
    美しい瞳を持っていた
    あの娘の瞳に唇付けた
    較べるものの無いほどの
    美しい唇の持ち主に
    その唇はギンダ酒の暗い紫     guinda : 黒サクランボウ / マラスキーノ・チェリー
    花の盛りのセイボの色 ceibo : アルゼンチン・ウルグアイの国花
    どんなに語り続けても
    つまりは気にもされはせぬ
    耐えねばならぬ物ごとは
    神の定めたものばかり
    そして男というものは
    悩んで 歌って そして時々
    愛を夢見て生まれて来た

    もう一杯頼むよ バーテン
    俺は思い出したくない
    愛は男を傷つけて
    悩みを深くするばかり
    もう一杯やってくれ 我が友よ    
    もし俺の目に涙が見えたなら      
    人生に起きる物ごとが         
    耐えねばならぬ物ごとが                     
    あるのを告げているばかり
    もう一杯頼むよ バーテン
    俺は泣くのを見られたくないから
    邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「Sobre el pucho」(1922)(煙草の吸殻)
    Letra : José González Castillo (1885-1937)
    Música : Sebastián Piana (1903-94)

    ポンページャ*の横町のひとつ      *Pompeya はブエノスアイレスの地区の名前
    街灯が水溜りを光らせ
    不良(わる)がひとり煙草を吸っている
    流しのオルガンからタンゴが生まれる
    貧しい生活(くらし)よりも
    あのミロンガの音に合わせて
    あの不良(わる)が物思いに沈んで
    嘆きの歌を思い出している

    愛しいタンゴよ
    もう永遠に去(い)ってしまった
    今はただ吸殻みたいになった
    俺の人生の喜びを
    煙草が吸ってしまったように
    愛しいタンゴよ
    もう永遠に去(い)ってしまった
    あの時誰が言ってくれただろう* *このdiría は反語的な用法で “誰も言ってくれなかった” の意味
    俺のただひとつの夢を
    お前が持ち去って行くことを

    俺がコラーレス*のあの不良(わる)なんだ            * Corrales は地名。現在のParque de los Patricios
    ― 幾つもの恋をしたカーニバルがあった ー
    よく出来た甘い言葉で
    お前の美しさを輝かせた
    だけどお前は狂った移り気で
    お前の唇から俺を引き離した
    味も匂いもしなくなった吸殻が
    捨てられるように 邦訳:大澤 寛
    (注1)
    “Tango” という銘柄の煙草メーカーが主催するコンクールに参加するのに際してJosé González Castillo はこの曲を ”Sobre el pucho” と名付けたと言う。ちなみに sobre el pucho は南米の口語で “すぐに” “即座に” = en seguida, immediatamente, al tiro の意味だが、ここでは命名の由来から “吸殻” “煙草” として置く。
    (注2)
    多くの歌手が取り上げている。現在CDやYouTube で聴けるものの中でTita Merello や Adriana Varela が歌っている歌詞を訳した。Floreal Ruiz が歌うバージョンは第3連の hizo brillar tus bellezas con las lindezas de sus primores を le hizo perder la belleza y la pureza de mis amores となっている。さらに tu inconstancia loca は mi に、me arrebató de tu boca が te arrebató de mi boca となっている。

    匿名
    無効

    Soledad (孤独)       
    Letra : Alfredo Le Pera (1904-35)
    Música : Carlos Gardel (1890-35)

    私は誰にも言って欲しくない
    お前がお前の優しい命を 私からもう奪い去ったことを
    私は嘘が欲しい お前のあり得ない電話を待つために
    私は誰にも考えて欲しくない
    私の永遠の孤独がどれほど苦く深いものかを
    時は過ぎ去る 時計の長針はゆっくりtic tac しながら
    悪夢をすりつぶしていく

    私の部屋の嘆きの暗闇の中で
    多分戻って来ないあの足音を待つとき
    時々その歩みは止まる しかし入っては来ない そんな気がする
    だけど誰もいないし あの娘(こ)も来ない
    みんな私の夢が作った幽霊なのだ
    あの娘(こ)の姿は 消え去る時に
    私の心に灰を残して行く

    銀色の文字盤の中では
    時は苦しんで 進みたがらない
    嘲笑うような眼差しで私を見つめる
    奇妙な姿の人たちの行列
    それは終わりのないキャラバンだ 
    不気味な顰め面をして 忘却に沈んでゆく
    私のものだったあの唇が 
    その行列と一緒に去って行く
    私に残るのは 私の不幸の苦しみだけだ

    邦訳:大澤 寛

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