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大澤寛のタンゴ訳詞集

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    「La número cinco」 (背番号5番のシャツ)
    Letra : Reinaldo Yiso (1915-78)
    Música : Orestes Cúfaro (1906-72)

    ある土曜日の昼下がり 
    クラブのサロンでチームの主将に 封筒が一通渡された
    封を切り 読んだ主将は胸を打たれる
    少し変わったその手紙 青い用紙のその手紙

    “あなた方は明日 リーグの大きい試合ですよね
    その試合を競技場で観られたら 僕の好きな色を
    好きなチームのあの色を そこで叫べたら 死んでもいいなあ
    だけど それは出来ないんです 僕はここに居るんだから
    もう2年ほど前から 僕はこのムニス病院に居るんです
    試合はラジオで聴いてます だから僕の好きなチームが勝ってることも
    全部知ってます 
    もしも もしも出来るなら あなた方が明日の試合で使う
    あの背番号5番のシャツを 僕に呉れないかなあ
    それは僕には 何よりもいい治療法(くすり)になります 
    そしてね 死んだお袋だって あの青い空から感謝すると思います
    ロベルトって訊いて下さい 僕のベッドは14番です 
    月曜日に待っています 来て貰えるかどうか判らないけど”

    手紙はそこで終わってた 
    思わず頬に流れる涙 いかつい身体の主将の頬に

    次の日 日曜の競技場で聞こえる声は 
    いいぞそれ行け!「フィオラヴァンティ」!

    そして翌日月曜日 その病院の二号棟
    当番医はとても驚いた 
    そこで見たのは男たち 11人の男たち 
    そして5番のシャツを抱き 泣いて喜ぶ男の子

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「La pulpera de Santa Lucía」(サンタルシーアの雑貨屋の娘)

    Letra : Héctor Blomberg (1890-1955)
    Música : Enrique Maciel (1897-1962)

    金髪で その娘の瞳は
    その日一日の輝きを映していた
    そして 小鳥*のように歌ったものだ
    サンタルシーアの雑貨屋の娘
    *calandria は鳥の名で“クロエリコウテンシ” 馴染みの無い名なので“小鳥”として置く

    古いお客*の間では その娘は花のようだった
    その娘を好きでないガウチョが居ただろうか?
    幾つもの兵舎の兵隊たちも
    雑貨屋に来て溜息をついたものだ
    *parroquia は “教区教会” “教区の住民” だが “(集合的に)顧客・常連・得意先” の意がある

    マソルケーロ*の吟遊詩人が語りかけた
    甘いギターの呟きで
    ジャスミンの匂う格子戸のなかで
    マツリカ*の匂う中庭で
    * mazorqueroマソルケーロはアルゼンチンの建国時代の独裁者ホアン・マヌエル・デ・ロサスJuan Manuel de Rosas (1793-1877  連邦主義派の指導者で、中央集権・統一国家に反対の立場を貫いた) の私兵・暗殺者集団La Mazorca の団員のことだが後にはRosasの信奉者・ファンの意にも用いられた
    *diamela はgemela ともいう。茶に入れて香りをつけるマツリカ(茉莉花)

    “心から貴女を愛します お嬢さん
    いつか貴方は私のものになるのです
    サンタルシーアの町の夜が
    ギターの音色で埋まっている間に”

    ラバージェの吟遊詩人が あの娘を連れて去(い)った                 *脚注参照
    1840年*が暮れる頃に
    あの娘の青い瞳が
    サンタルシーアのお客に向かって輝くことはなくなった

    ロサス将軍の軍楽隊は
    ビダーラやシエロを歌いに戻って来なかった
    雑貨屋の格子戸の中では
    ジャスミンが嫉妬(やい)て泣いていた
    マソルケーロの吟遊詩人は戻って来た
    誰も居ない中庭で
    川風に消されてしまう
    悲しい最後のセレナーデを歌いに

    “何処に居るんだ? 青い瞳をしたお嬢さん 
    私のものにはならなかった
    どんなにギターが泣くことか!
    サンタルシーアのギターが”

    邦訳:大澤 寛

    *この歌に歌われている時代背景はどういうものだったか?
    スペインから独立して建国の時代(アルゼンチンの公式独立宣言は、1816年7月9日)。連邦主義派と中央集権主義派の争いの中、連邦主義派が勝利した19世紀前半のアルゼンチンでは、約30年ほどの間、中央政府不在の時代が続いた。当時のpulpería は雑貨屋でもあり居酒屋でもあった。連邦主義者も中央集権主義者もお客として同じ扱いを受けていただろう。歌詞に出て来る1840年末頃は激しい内戦状態にあった。この歌に歌われる雑貨屋の娘pulpera は多分連邦主義派(即ちRosas側)の吟遊詩人が好きだったのだろう。しかし激しい内戦で反対派(中央集権主義派)が優勢になった時に、心ならずもその反対派に属する吟遊詩人に連れ去られて行ったのではないだろうか。

    同じテーマを歌ったワルツがある。
    作詞Enrique Cadícamo 作曲 Juan Carlos Howardの 「Trovador Mazorquero」

    匿名
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    「La solita」(淋しい女(ひと))
    Letra y música :
    Enrique Cantore (1905-82), Edmundo Rivero (1911-86) y Víctor Buchino (1920-?)
    人は言う
    あの女(ひと)には何も悲しむことがないと
    誰かを思って 泣いたこともないと
    誰かを思って 泣いたこともないと
    苦しみ抜いて 歳をとり
    泣くことにさえ疲れたと

    一人ずつ 人は皆
    墓に埋められ 天に召される
    あの女(ひと)は 独り残されたけど
    泣いたことはないと人は言う

    人は言う
    あの女(ひと)には何も悲しむことがないと
    誰かを思って 泣いたこともないと

    来る日も来る日も門に立ち 空を眺めて 
    決して聞くことのなかった あの言葉を
    聞かせてくれと 乞い願ったと言う

    あの女(ひと)に 希望は嘘を繰り返し
    幾度となく 空しい旅路に旅立たせた
    だがあの女(ひと)は泣かなかったと人は言う

    人は言う
    あの女(ひと)には何も悲しむことはないと
    誰かを思って 泣いたこともないと

    あの女(ひと)の髪は 白くなったけれど
    ずっと男を待ち続けた
    ずっと男を待ち続けた
    仲間の女たちは皆結婚したけれど
    あの女(ひと)の門口で 荷を下ろす男はいなかった
    いたずらな風が あの女(ひと)の窓を叩いた
    あの夜 そして別の夜も ゆっくりと
    そして風は見た 
    あの女(ひと)が泣くのを 泣き続けるのを

    人は言う
    あの女(ひと)には何も悲しむことはないと
    誰かを思って 泣いたこともないと

    邦訳:大澤 寛

    naide = nadie
    (この歌と「Milonga triste」とは曲想が似ている?)

    匿名
    無効

    「La última copa」(最後の一杯)
    Letra : Juan Andrés Caruso (1890-1931)  Música : Francisco Canaro (1888-1964)

    なあ おい いいから注いでくれよ
    シャンパングラスの縁まで
    今夜は馬鹿騒ぎして楽しんで
    俺の心の中の悩みを絞め殺してやりたいんだ
    俺の人生の 去ってゆく人生の
    最後の馬鹿騒ぎなんだ
    もっと言うなら 俺の愛が判らなかったあの女の
    後を追って行ってしまった人生の

    俺はあいつを愛したんだ なあ皆(みんな) 今も愛してるよ
    そして決して忘れることはないだろう
    今日はあいつのために酔うんだ
    あいつが何をしてるか知るもんか
    なあ ボーイ もっとシャンパン
    俺の悩みを全部 飲んで絞め殺すんだ
    もしあいつを見かけたら なあ皆(みんな) 言ってやってくれ
    俺の人生がもう終わったのは お前にやった愛のせいだってな

    いいから飲もうぜ 最後の一杯だ
    多分 あいつも今 誰かと乾杯してるんだろう
    その幸せな誰かが あいつにキスをするんだろう
    なあ おい いいから注いでくれよ
    シャンパングラスの縁まで
    俺の人生は 俺の愛が判らなかったあの女の
    後を追って行ってしまったのだから

    邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「La última curda」 (最後の酔い)(1956)
    Letra : Cátulo Castillo (1906-75) Música : Aníbal Troilo (1907-75)

    バンドネオンよ お前は俺の心を
    しわがれた底意地の悪い呪いの言葉で傷つける
    お前のラム酒のような涙は 俺を連れてゆく
    泥の跳ね上がる 深い心の奥まで
    判ってる もう言うな お前が正しいんだ
    人生なんて馬鹿げた傷跡なんだ
    何もかもあんなにはかなく消えてしまう
    俺の告白なんて酒の酔いでしかないんだ

    お前の罪を話せ お前の不幸を語れよ
    俺を傷つけた苦しみが判らないか?
    あっさり話そうじゃないか 
    あの終わってしまった恋を
    もう忘れたことのかけらみたいに
    判ってるよ お前は俺には害になるんだ
    判ってるよ 俺は飲んでぐだぐだ言って
    お前の気持ちを傷つけてる
    だけどそれは バンドネオンよ 
    酔わせてくれる酒を求めて
    震える昔の恋なんだ
    酔いはいつかは醒める 
    心にカーテンを下ろすように

    お前のゆっくりした弾き方のぼやきは
    小出しにして来るなあ 思い出と嫌な気分を少しずつ
    お前の酒には悪酔いするぜ 最後の酔いがまわるときに
    左手が牛の群れを追い払う
    窓を閉めてくれよ 夢の中の足の遅いカタツムリが
    日に焼けてしまうじゃないか
    判らないか? 俺はアルコールを追いかけて
    いつも灰色の忘れられた国から来たんだぜ

    邦訳;大澤 寛

    匿名
    無効

    「La vi llegar」(あの娘(こ)が来た)
    Letra : Julián Centeya (1910-74)
    Música : Enrique Mario Francini (1916-78)

    あの娘が来るのを見た
    あの娘の手の束の間の愛撫
    あの娘が来るのを見た
    雪を蹴って飛び去った雲雀(ひばり)
    お前の愛は  そう言ってもよかった  
    二人のために泣いてくれる 
    あの優しいタンゴの謎に
    溶けてゆくと

    そしてバンドネオンが
    苦く呟きながら 
    深い霧の中で壊れたその声を嘆く
    そして俺は
    途方もなく残酷な絶望の中で
    別れの言葉もなしに 
    あの娘が去って行くのを見た

    それは俺が夢見た世界だった
    そのことを俺の心は知っていた
    夢の世界の過ちを
    未だにいつも覚えていて
    それは俺が夢見た世界だった
    そしてその夢は消えた
    苦しみの影の中に俺を包んで
    終わりのない夜に亡霊が住む
    俺の沈黙の中で踊る亡霊が住む
    それはあの娘の声の想い出
    脈打つようなあの娘の歌の
    あの娘が俺を忘れて悔恨(くや)む夜の

    あの娘が来るのを見た
    軽い足音の囁き
    あの娘が来るのを見た
    雪に消されたオーロラ
    暗闇の中で 俺の足取りは重く
    深い悩みの道で あの娘を探す

    そしてバンドネオンが
    呻きながらその名を呼ぶ
    忘却の中からあの娘を呼んだあの声で
    そして俺を責めるこの残酷な幻滅の中で
    別れの言葉もなしに 
    あの娘が去って行くのを見た

    邦訳:大澤 寛

    Alondra : ひばり
    Fundirse :溶ける
    Extravío : 1.紛失  2.(主に複数形で)過ち、正道を踏み外すこと 3.厄介なこと、面倒
    Extraviar : 1.道に迷わせる・人の心を惑わす  2.紛失する

    匿名
    無効

    「Lejana tierra mía」 (遠き故郷)
    Letra : Alfredo Le Pera (1904-35)     Música : Carlos Gardel (1890-35)

    私の遠い故郷よ
    お前の空の下で
    お前の空の下で
    いつか死にたいもの
    お前に慰められて
    お前に慰められて
    いつも懐かしむお前の鐘の 
    金色の音を聴きながら
    お前の許に帰りついて
    お前を見つめて
    笑ったり泣いたり出来るだろうか

    私の村の静けさを破るのは
    ロミオの熱いセレナーデだけ
    穏やかな銀色の月の下
    花咲くバルコニーでは
    愛の苦しみの噂と共に
    そよ風が運んできた
    誓いの言葉の囁きが聞こえた

    そのバルコニーは今もある
    花も 太陽も
    しかしあなたは居ない
    居ないのは あなただけ! 私の恋人よ
    私の愛の遠い故郷
    眠れぬ夜に どんなにお前を呼ぶことか
    私の小さな星よ つぶらな瞳で言ってくれ
    私の願いは叶うと
    そして間も無く 愛する故郷に帰れると

    邦訳:大澤 寛
    Cuita : = pena 心配、苦労、悲しみ・苦悩  Las cuitas del joven Werther(「若きウェルテルの悩み」)
    Asombro : 3.感嘆・驚嘆すべき事柄 4.(口語)幽霊・亡霊・お化け=aparecido

    匿名
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    「Lejos de Buenos Aires」(ブエノスアイレスは遠く)
    Letra : Óscar Rubens (1914-84) Música : Alberto Suárez Villanueva (1913-80)

    苦しさに顔をゆがめ 老いて 悲しく 価値(ねうち)の無い俺
    歩みは遅く 悩みを背負って行く
    若い俺が華やぐのを見た あの町から遠く離れて
    知らない町で 俺の心は暗くなる
    俺の最期を看取るものはいない 誰も俺の悩みに構ってはくれない
    誰も俺に親しくはしない 俺には苦しみがあるだけだ!
    こうして俺は 戻って来た日から 果てしなく彷徨い歩く
    狂った夢を求めて 何もかも全て捨てたとき

    当てもなく彷徨いながら 
    ふとあのタンゴのレコードを聴いた
    ガルデルがよく歌っていた “おい もう一杯持って来てくれ” というやつを
    そいつを聴いたら 昔のことを全て思い出した
    あんなに楽しかった若い日
    お袋 親しい仲間たち
    捨てた可愛い女の子
    思い出を連れて来るタンゴ!
    俺のブエノスアイレス 泣きたくなるぜ!

    ブエノスアイレスよ 俺の町よ お前の情緒(くうき)が懐かしいぜ
    今 再た思い出すと 俺の心は痛むのだ

    置き去りにすることが 捨てることが どうして俺に出来たのか!
    優しさと安らぎを呉れた あの町の温もりを
    俺が幸せに育つのを見ていた 親の小さな家を
    俺に芽生えた恋心を カフェに集まる仲間たちを
    甘い想い出の中に 全てが蘇る
    そして 俺が捨ててきた物事を思うと
    大粒の涙が零れてくる

    だから 俺の心は震えるのだ
    あのタンゴのレコードを聴くと
    ガルデルがよく歌っていた “おい もう一杯持って来てくれ” というやつを
    そいつを聴いたら 昔のことを全て思い出した
    あんなに楽しかった若い日
    お袋 親しい仲間たち
    捨てた可愛い女の子
    思い出を連れて来るタンゴ!
    俺のブエノスアイレス 泣きたくなるぜ!

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Lo han visto con otra」 (誰かさんと一緒だったぜ)
    Letra y música : Horacio Pettorossi (1896-1960)

    彼氏が他の女と一緒だったよって
    昼ごろそう言われたな そう他の女と居たんだよ
    あんたは彼を愛してなかった 高慢ちきな振りをしてさ
    今になって 本気で愛してたなんて言ってもなあ
    判るだろう あんた あんたは何時も態度悪かったんだ
    昨日だって 気の毒な彼氏のことを嘲笑ってたじゃないか
    だけど今日 あんたは仲間からはっきり言われたんだぞ
    彼氏が他の女と一緒だったよって あんたは苦しんで泣くんだ

    タンゴよ あの娘(こ)の愛の忠実な友だったタンゴ
    タンゴよ 今お前の助けが要るんだ あの娘の悩みを和らげてやるのに
    タンゴよ お前は何処にでも現れるけど タンゴよ 今夜こそ
    あの娘の家の格子戸に 悲しいバンドネオンの嘆きを
    響かせてやってくれよ

    俺も心の奥に 
    悪い女を忘れられない悩みを抱えている
    そいつのとても黒い瞳が 俺の心を奪い
    俺は秘かに悩むのだ 泣くことも出来ずに
    判るだろう 俺にも愉しみなんかない
    だから あんたが嘆くのを見るのが辛いんだ
    俺も 悲しくて寒い夜には
    時間ばかり長くて 眠れないんだ

    邦訳:大澤 寛

    Ref : 「La he visto con otro」 (1926)
    Letra : Pascual Contursi Música : Antonio Scatasso

    匿名
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    「Lo que vale una mujer」(女の値打ち)
    Letra : Eugenio Cárdenas (1891-1952) Música : Rafael Rossi (1896-1982)

    軒場の影に 村人が集まっていた
    きつい野良仕事のことを 機嫌良く話しながら
    山からの風に乗って ローズマリーの香りがした
    馬車曳きたちの歌声が 平原に響き渡るとき

    夜になり 星は輝きを撒き散らした
    土地っ子の即興(うたい)詩人(手たち)が さっそく歌を競い合った
    ギターの音を合わせて 優しく魅力のある調子で
    安らぎも苦しみも その歌の中に散りばめた

    ちょっとした言葉遣いに 気に障る嘲笑(からかい)があって
    とたんに祭りの雰囲気から それまでの華やぎが消えた
    その後は エスピニージョ*の木の下で刃物が光った                   *(植物)マメ科の木
    そしてポンチョ*がナイフの動きを遮っていた
    *決闘するときなどに片手にナイフ片手に防御のための布(ここではポンチョ)を巻く
    土地っ子の可愛い娘が
    争う二人の男のどちらかの恋人だったが
    激しく争う二人を見て
    勇敢にも その二人を引き離した
    その娘を褒めて 村人たちは頷き合った
    そして手を伸べ合った よかったなあと言うように

    邦訳:大澤 寛

    alero : 軒、庇
    alborozado : alborozar = 大喜びさせる
    comentar : 噂をする・取り沙汰する
    romero : 1.=peregrino 2.(植物)万年草・ローズマリー
    arriero : 荷車引き・荷馬車屋
    fulgor : 輝き
    derramarse : 零れる・散らばる
    al punto : ただちに・すぐに
    afinar : (音楽)調律する・音合わせをする
    tormento : 1. = tortura 2.(肉体的・精神的な)激しい苦しみ
    hiriente : 癪に障る・感情を害する
    espinillo : (アルゼンチン 植物)マメ科の木
    acero : 刀剣 sacar el acero
    vibrar : 刀を小刻みに動かす bivrar la espada
    en prueba de ~ : ~の証として

    匿名
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    「Los mareados」(酔いどれたち)
    Letra : Enrique Cadícamo (1900-99) Música : Juan Carlos Cobián (1896-53)

    おかしな 火がついたような
    お前はそんな飲み方をしていたよ
    綺麗で 破滅的(こわれそう)な
    シャンパンを抜く音にまみれて飲んでいた
    泣くといけないから 狂ったように笑いながら
    お前に会ったのは辛かった
    お前の瞳が輝くのを見たからだよ
    電気に撃たれたように激しく
    俺があれほど愛した あの美しい瞳が

    今夜は なあお前 二人とも酔ったんだ
    他人に笑われたって 酔いどれと言われたって
    構うものか
    誰にだって辛いことはある 俺たちもそうだ
    今夜は飲もう もう二度と会うことはないのだから

    今日は おれの過去に入って来いよ
    過ぎ去った俺の人生に
    俺の傷ついた心には 三つのことがある
    愛と 悩みと 苦しみと
    今日は 俺の過去に入って来いよ
    そして今日 俺たちは互いに別の道を行こう
    俺たちは何と深く愛し合ったことだろう
    だがしかし ああ 分るだろう
    何が残っているか
    邦訳:大澤 寛

    Cadícamo + Cobiánによるこの曲もまた昔の女に再開し別れるという内容。原タイトルは「Los dopados」(麻薬中毒者)だったが検閲で変更された。

     タンゴの歌詞に対する検閲が行われた時代があった。
    Pedro Pablo Ramires 政権 (1943-44)下で始まったもの。名目は“国語すなわちスペイン語の浄化”で、具体的にはルンファルドの使用が対象となり、ラジオ放送が禁止されることとなった。しかし隠された目的は反政府運動や組合活動などの文書が流布されるのを妨害することにあったとされる。
     題名まで変更させられたものに
    Chiqué (Elegante)
    Elegante papirusa (Elegante porteñita)
    Tal vez será mi alcohol (Tal vez será su voz)
    Pa’mi es igual (Siempre amigos)
    などがあり、歌詞の内容からは、例えば
    Al pie de la Santa Cruz 
    が、ストライキを呼び掛けるものとして取り締まりの対象になったという。 
    検閲が行われたことで格調の高い歌詞を持つタンゴが作られることになったという半面がある。

    匿名
    無効

    「Los pájaros perdidos」 (彷徨える鳥たち)
    Letra : Mario César Trejo (1926-2012) Música : Ástor Piazzolla (1924-92)

    私は愛する 彷徨う鳥たちを
    あの世から戻って来て
    空に溶け込んでしまって
    もう決して取り戻せない鳥たち
    私が捧げた青春の
    想い出が再た蘇る
    私が愛して失くしたものの幻が
    海の向こうからやって来る

    みんな夢だった 鳥たちや海を失くしたように
    私たちが失くした夢
    鏡には映らない
    時間のような 短い 昔の夢だった

    それから私は 他の大勢の女の中に
    お前を忘れようとしたけれど
    どの女にも求めたのはお前だけだった
    最後にやっと気が付いたのは
    いつ別れが本当の別れになるのか
    私が孤独に呑みこまれて
    二人が別れてしまったたことだ

    夜の鳥たちが戻って来る
    目も見えずに海を越えて飛びながら
    夜そのものが 鏡になって
    お前の孤独を連れて来る
    私は彷徨う鳥に過ぎない
    あの世から戻って来て
    空に溶け込んでしまって
    もう決して取り戻せない鳥

    邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「Los paraguas de Buenos Aires」 (ブエノスアイレスの雨傘)
    Letra : Horacio Ferrer (1933-2014)       
    Música : Ástor Piazzolla (1924-92)

    ブエノスアイレスに雨が降っている 雨が降る
    家路につく人々のことを 私は思う
    貧しく小さな劇場の演し物のことを
    雨に唇付けをする果物売りのことを
    傘さえ持たない人たちのことを
    私の傘が空に向かって開くのを感じる
    “風は吹いてなかった 今も風はない” 私は言う
    私の傘が急に空へ飛び出すとき
    そして随分昔に降った雨に出会うとき
    最後に君の悲しい顔を濡らしたあの雨
    私たちの最初の抱擁を祝ったあの雨
    それより前は 私たちを知らなかったあの雨
    私たちは沢山の 沢山の雨を空に返した
    新しい雨がすぐに生まれるから “さあ行こう”
    空に向かって雨が降っている 雨が降る
    ふたりと一緒に 私たちの傘が昇ってゆく
    あんなに高いところまで “ねえ 君”
    大きな空に向かって 空の端の方に雨がある
    そして晴れた日々が始まろうとしている
    その高いところで 雨は私たちを溶かして
    二人をただひとつにする ひとつに
    ひとつになって永遠に 永遠に
    ひとつに ひとつに ひとつになったものだけを 私は思う
    家路につく人のことを 私は思う
    果物売りの喜びを思う
    そして今も ブエノスアイレスに雨が降り続いている
    私は傘など持っては来ない 雨が降る 雨が降る

    邦訳:大澤 寛

    “私の傘が急に空へ飛び出して行き 随分昔に降った雨に出会うとき” と言う様なシュールで都会的な内容

    匿名
    無効

    「Luna」(月)
    Letra : Homero Manzi (1907-51) Música : Lucio Demare (1904-74)

    月よ  月よ
    お前の光る粉末(こな)のような雨で 私の心は悲しみに包まれる
    あの人の愛の歌を 私が聴くことは もう決してないだろう
    月よ
    私の愛を照らした月よ お前の光りをくれないか
    去ってしまったあの光りにかえて 私にはない明りをくれないか
    月よ
    お前は知っている 私の悩みの暗さを
    あの人が 泣き続けたのを
    私は あの人が死ぬのを見た
    あの人は決して 私が苦しむのを知らなかった
    あの人の想い出は 長くて暗い影
    あの人の想い出は 傷跡
    月よ
    私が失くした炎を貸してくれないか

    あの人は
    雲  鳥の羽根  雨の気配  海の味
    夜明けのそよ風  揺り籠の歌  昔のロンド*             
    壊れやすい鳥の巣**   命と夢  果実と花            
    カードテーブルの色をしたジュース***   
    雪の白さと炎の熱さ            
    これがあの人の全てだった
    そして今はもう そうではない
    忘れ去られるだけではない

                
    *ronda:(南米)子供が輪になって遊ぶ遊戯
    **nido de cuatro ramas = 4本の小枝の巣  鳥は巣を沢山の小枝を組み上げて作る  僅か4本では壊れやすい
    一般的に数字の4は “少ないこと” を意味することがある
    ***Fue jugo de verde brama (難解) jugo でなくjuego ならverde brama はトランプのゲームの一種だ が Raúl Berón は明らかに jugo と歌っている

    月よ  月よ
    蒼い とても蒼い顔をした お前の肌の光りは雪の色
    遠くで 私から遠くで眠る 私の言葉が呼んでるのを知らずに
    月よ
    お前が降らす灰が庭を濡らす
    そしてあの人は決して 私の許に帰ることはない
    もういない恋人 凍りついた影 あの人の眠りは深いのだ
    さよなら さよならと言って そして黙った
    あの人が居なくなり 私は泣き続けた
    あの人の匂いは 薔薇とジャスミンの間に
    あの人の影は 沼に
    月よ
    決して 決してあの人は 私の許に帰ることはない

    邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「Madame Ivonne」 (マダム・イヴォンヌ) 1933
    Letra : Eduardo Pereyra (1900-73) Letra : Enrique Cadícamo (1900-99)

    イヴォンヌは 旧いモンマルトルの綺麗な街区(まち)の
    Les Quatre Arts*(1) のパーティーを
    盛り上げる 陽気でしっかりもの*(2)で
    格好(スタイル)の良い女の子だった
    詩人たちの心をくすぐる
    ラテン区*(3)の女の子だった
    しかし或る日 一人のアルゼンチン人が
    やって来て 彼女の心を捉えたのだった

       イヴォンヌ小母さん
       南十字星*(4)は 運命のようだった
       イヴォンヌ小母さん
       あなたの幸せを決める運命のようだった
       あなたは灰色の雲雀(ひばり)
       あなたの苦しみは私の胸を打つ
       貴方の悲しみは雪のようだ
       イヴォンヌ小母さん

    フランスを船で離れて10年が過ぎて
    イヴォンヌは 今はもう普通の小母さんになった
    遠くに残して来た全てを思って とても悲しい眼をして
    シャンパンを飲む小母さんに
    今はもう ラテン区の女の子ではない
    今はもう 貧しいフラ・ダ・リ*(5)ではない
    もう何も残っていない タンゴとマテ茶で誘って
    パリから引き離した あのアルゼンチン人も
    邦訳:大澤 寛

    *(1) Les Quatre Arts (造形美術?)と言う名のダンスホール 毎年パリの美術学校の生徒のためのパーティを催した
    *(2) griseta = ふつうはcosturerita(お針子)の意だが、しっかりした・独立心のある・男に誘われるのを好むが自堕落ではない女の子のことを指す
    *(3) Barrio Latino = Quartier Latin (カルティエ・ラタン)パリの学生街
    *(4) もちろんこの南十字星はやって来たアルゼンチン人
    *(5) flor de lis = 紋章模様に用いられるユリの花  lis=lirio
    ●1935年にメデジン空港で亡くなるGardel が、生前ブエノスアイレスで最後に録音したのがこの曲。
    Gardelはmadame をmadama と発音している。 南米風にしたのだろう。Todotango で聴ける。
    ●Madame Ivonne は多くの貧乏なアーティストたちが暮らしたモンテビデオの安宿の主人。 作詞のCadícamo も作曲のPereyra も特に彼女と恋愛などの深い関係はないとされている。(Eduardo Romano “Las letras del Tango”より)
    ●Julio Sosa がLeopoldo Federico のオルケスタ伴奏で歌ったものには冒頭に語りが入っている(下欄参照)。CDではColumbia CD 2-461764などがある。

    (Julio Sosa の歌の語りの部分)
    Ivonne, yo te conocí en el viejo Monmartre cuando el cascabel de plata de tu risa era un
    refugio para nuestra bohemia, y tu cansancio y tu anemia no se dibujaban aún detrás de
    tus ojeras violetas.
    Yo te conocí cuando el amor te iluminaba por dentro , y te adoré de lejos sin que lo
    supieras y sin pensar que confesándote este amor podía haberte salvado.
    Te conocí cuando era yo un estudiante de bolsillos flacos y el París nocturno de entonces
    lanzaba al espacio, en una cascada de luces, el efímero reinado de un nombre,,,,,
    Mademoiselle Ivonne,,,,,

    (邦訳)
    イヴォンヌ、旧いモンマルトルで俺がお前を知ったのは、お前の銀の鈴のような笑い声が、俺たちのさすらう心の隠れ家だった頃だ。 お前の紫色の眼の隈の影にさえ、お前が疲れていることも貧血症であることも現れてはいなかった。
    俺がお前を知ったのは、愛がお前を内側から輝かせていた頃だ。俺は、お前が知るわけもないが、お前を遠くから憧れた。俺の愛を打ち明けることでお前を助けることが出来たなどと考えることもしないで。
    お前を知ったのは、俺が銭の無い学生だったころだ。その頃のパリの夜は、滝のような光りの中で、ひとつの名前に支配された儚さを空に放っていた。その名前はマドモアゼル・イヴォンヌ、、、                              (邦訳:大澤 寛)

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