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匿名
無効

「Fuimos」(昔の二人)
Letra : Homero Manzi (1907-51) Música : José Dames (1907-94)

(タイトルの邦訳を“昔の二人”としたことについて。スペイン語の動詞の活用時制のひとつである点過去には “昔は・以前にはそうだった・そう言うことをした” けれど “今は・現在はそうではない” という状態を表す作用がある。このタイトルも “昔恋人同士だった二人” だが “今はもうそうではない” という気持ちをあらわすものだろう)

お前の人生の 残された時間の中で
俺は 吸いがら*と疲れを運ぶ雨みたいなものだった     *cenizaは複数形で“死体”“遺体”の意もある
こぼれた酢の雨だった 
お前の全ての傷に とどめを刺すように撒き散らされた酢の雨
俺のせいで お前は雪の中の燕だったし
雨を降らさない雲のせいで お前は汚れた薔薇だった
お前と俺は 決して実現しない希望(ねがい) いつも何か足りない
穏やかな午後を夢みることの出来ない希望(ねがい)だった
お前と俺は 許しを請わない旅人だった 祈りを捧げることもしない
泣くこともしないで ふと死んでしまった旅人だった

出て行けよ!
判らんのか? お前は自殺するようなものだ
判らんのか? 俺がお前に訴えていることが
出て行けよ! 
お前のことで嘆いている俺に キスなんか要らない
もうお前のことで嘆きたくはないんだ!
判らんのか? 
俺の悩みなんかは 
俺の最後の愛から逃げたお前の愛と一緒に
捨てられてしまえばいい
出て行けよ!
判らんのか? 俺はお前を救おうとしている
判らんのか? 俺はお前を今 愛している
俺について来るな! 俺の名を呼ぶなよ! キスなんかするな!
俺のことで嘆くな! もう俺を愛することなどない!

お前と俺は 行き止まりの道を
夜に歩く予感に怯えた
愛と人生の荒波に揉まれた
難破船に残された 青白い死体
お前と俺は 荒れ狂う風に押しつぶされた
古い過去から戻って来る影の その二つの影みたいなものだった

お前と俺は 決して実現しない希望(ねがい) いつも何か足りない
穏やかな午後を夢みることの出来ない希望(ねがい)だった
お前と俺は 許しを請わない旅人だった 祈りを捧げることもしない
泣くこともしないで ふと死んでしまった旅人だった

邦訳:大澤 寛