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「El último organito」 (最後の手まわしオルガン*)
Letra : Homero Manzi (1907-51) Música : Acho Manzi (1933- )
*(「辻音楽師は行く」という先人の名訳あり)
最後の手回しオルガンの泥に汚れた車輪が
痩せた馬と 足萎えの男と 小猿と
キャラコの衣装の女の子たちのコーラスを連れて
黄昏の下町を流しながらやってくるだろう
覚束ない足取りで月の光とバーの灯が混じり合う
街角を探し当てるだろう
その街角の 聖像を飾る壁がんの裏側で
青ざめた公爵夫人と青ざめた公爵に
ワルツを踊らせようと
最後の手回しオルガンは
近くに住んでいた死んだ女の
愛するのに疲れたあの女の家に辿りつくまで
門ごとに物乞いをして回るだろう
そしてその家で あの盲目の老人を泣かせる
タンゴを奏でるだろう カリエゴ*の詩に出てくる
門口に座って煙草ばかり吸い続ける
やるせないあの盲目の老人を
最後の手回しオルガンには
白い箱が付いてるだろう
そこから出るメロディーは秋の喘息のよう
その箱は天使たちの顔で飾られていて
出て来るピアノの響きは別れの言葉のよう
その唄の後を追うようにブラインドを開けて
家から出して貰えない娘たちが挨拶を送るだろう
最後の手回しオルガンはどこへとも無く消えて行き
下町の心は声も無く佇むだろう
邦訳:大澤 寛
*カリエゴという詩人の名前がタンゴによく出てくる。
Evaristo Carriego (1883-1912)
詩人。タンゴの作詞はひとつもしなかったが、下町の日常生活を描く詩の創始者として
タンゴの歴史の中に地歩を築いている。この意味で、1930年に彼の伝記を書いたボルヘス(Jorge Luis Borges)の指摘によれば、“ブエノスアイレスの貧しい下町を観察する第一人者、即ち発見者・発明者”であった。カリエゴは1908年に“異端のミサ”(Misas herejes)
を発表、そして死後1年経ってバルセローナで発見された“下町の歌”(Canción del barrio)
がある。カリエゴの作品は多くのタンゴの作詞家たちに影響を与えたが、中でもオメロ・マンシ(Homero Manzi 1907-1951)に対しては、マンシが作詞したタンゴ“Viejo ciego”(盲目の老人)や“El último organito”(最後のオルガニート)が、この道の先輩カリエゴに直接捧げる形の献辞であることに見られるとおり、特別なものがある。
(Horacio Salas “El tango, una guía definitiva” p-63 より)
Tango “A Evaristo Carriego” instrumental 作曲Eduardo Rovira (1925-1981)