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「El gordo triste」 (嘆きの太っちょ)
Letra : Horacio Ferrer (1933-2014) Música : Ástor Piazzolla (1924-1992)
ポマードをつけた雀みたいな詩人風の外見のせいで
隠してあった料理を見つけた猫みたいな声のせいで
謎めかしたワインが彼の眼を撫でるし 悩みが彼の襟元にも
星たちにも香りを送る
彼の指に留まる悪戯な鷲が
夢の最中の息子たちに呼びかけて
涙を一杯ためた風みたいに泣かせようとする!
誰もがするようにミロンガや葬送の歌を歌わせようとする!
大天使と悪漢の腕の中から
ふたつの水溜りみたいな眼鏡をかけて
静かな橋みたいなピチューコ*は *高名なバンドネオン奏者Aníbal Troilo の愛称
藤の花が誰のために嘆いているのか調べに行く
毎晩死んでるのだから
彼には 決して本当の死は来ない
星たちは 決して彼には気を抜かない
市場でミサを行うようなピチューコには
この男はどんな難解なルンファルドから抜け出して来たのだろう
一本の燐寸で 積もる不幸を見て来た男
捩れた譜面台に まっすぐ向かって行く男
暗い夜の犬たちに 集まる広場を作ってやる男
彼ほど 立ち枯れる木々の悲しみを抱いて
徹夜の朝に慣れたポルテーニョは決して居ないだろう
誰がこの血を継げるだろうか? 他に無いこの血を
そうなのだ 仕事も生き方の全ても誰が真似ることが出来るか?
下町の兄貴分として
彼は 他人の誰にも気前良くして来た
時代もまた寛大なのだ そうは見えないけれども
中庭みたいに大きな手のピチューコには
そして今 水は静かに流れ
彼のバンドネオンの中で 子供たちは歌う
思い出に 夢に 命に 素晴らしいGordo*!
我々に慕われて 我々に
*gordo は“デブ”“太っちょ”の意でこれもAníbal Troilo の綽名
邦訳:大澤 寛