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「El aguacero」 (にわか雨) 1931
Letra : José González Castillo (1885-1937)
Música : Cátulo Castillo (1906-75)
淋しい大地の広がりを 遠くへ遠くへと* *legua は昔の距離の単位 1legua = 約5572m
前足で地面を掻く*ように歩く運命に逆らうように *trenzar は馬術用語で“前足を掻くように歩む”
きしんだ音を立てて 牛車は道を辿って行く
白い卵の殻*を敷いたような道を *cascarrón の含意は不明
牛車の車体がきしむ時
それは嵐が来る予兆(まえぶれ)
冷たい風が吹いて 荒れた土地が騒ぐ
鳥たち*は騒いで 嵐は大きいと告げる *hornero はセアカカマドドリ 馴染みが薄いので“鳥たち”とした
そして 大草原(パンパ)は
空から吊り下ろした
太陽に向けて拡げた 緑のハンカチ
人生が 時々 そうなるように
影も無く 傷も無く
悩みも 愛も無い
峡谷(たにあい)から吹いて来る風は
濡れた地面を喜ばせる
そして 老いた牛飼いの歌には
アンデスの冷たい風*が *pampero はアンデスからパンパに吹く冷たい西風
悩みを吹いているようだ
突然 嵐が来た
そして雨は
際限(かぎり)なく拡げたカーテンのようだ
牛たちは 埃っぽかった道で
満足した声を上げる 歩き出したいと言うように
鳥*の歌は *tero も鳥の名 タゲリの一種 これも馴染みが薄いので鳥として置く
にわか雨への歓迎*の挨拶 *Bien haiga は俗語でBienvenido
今はもう 道を辿る淋しさは それほどではない
牛車の梶棒を握って
牛飼いは歌い出したくなる
ランガライ* 背中が斑(まだら)の老いた雄牛 *Langalay は牛の名前か?
同じ苦しみを持つ
押し黙った相棒* *aparcero は“小作人”だが道連れ・相棒・仲間
俺たちは同じ頸(くび)木(き)で繋がれた
歩いて 歩き続ける重い運命の道に
何処へ行く? 斑の雄牛よ
牛飼いに 後を追われないようにな!
そして大草原(パンパ)は
空から吊り下ろした 泣き出しそうな
緑のハンカチ
邦訳 : 大澤 寛