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「Cuando tallan los recuerdos」(思い出を紡ぐとき)
Letra : Enrique Cadícamo (1900-99)
Música : Rafael Rossi (1896-1982)
雨が降る 場末の町に雨が降る
この部屋に ここに独りでいると
不思議な想いにとらわれる
それは 独り居の辛さなのか あるいは
俺の灰色の憂鬱を 心の疼きに変えた
つれなく寒い午後
ここにあるのは 昔の俺の誇り
俺の昔のバンドネオン
もう二度と取り出さないように
物置部屋に投げ込んだ 古い蛇腹よ* *fueye 蛇腹=バンドネオンを指す
昔を思い起こさせるような午後には
お前の黄ばんだボタンは音を出さず
俺は お前の繰言を聞くことも無い
俺の愛しい蛇腹よ
俺も お前の運命を辿って行こう
俺とお前が過ごした時間は
忘却の彼方 死の影に包まれて
俺の悪仲間だった古い蛇腹よ
俺も今は お前と同じように腹を決めている
俺の心は お前の音色の中に
永久に 埋め込んだのだから
今日も午後は 思い出に浸る雨模様
バンドネオンよ だから俺は思い出すのだ
俺の栄光の日々を ある日*気持ちの昂りの中で *arremango “腕まくりをして” 弾いた
お前を高く掲げた まさにそのときお前は俺に tango と韻を踏ませてある
タンゴをひとつ生んでくれた 素晴らしい勝利者のタンゴを
また或るとき あの娘が鬱でやきもちを焼いたのを
お前は あの鼻にかかった音色ですすり泣かせた
俺の思い出のバンドネオンよ コールテンで包まれた
古い蛇腹よ 今俺はとても とても泣きたいんだ
(邦訳:大澤 寛)