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「Temblando」 (震えながら)1933
Letra : Charrúa (1876-1962)
Música : Alberto Acuña (1893-1975)
あの娘(こ)は綺麗だった あの娘を見た*日の午後 *ver の古形(ラテン語videreから) vi と歌う歌手もある
あの娘の家の中庭は落ち着いていて
何もかも素晴らしいと思ったけど
口には出せずに 私はずっと震えていた
これまでに見たことが無いくらい綺麗だった
柔らかな更紗の服を着て
解いた髪を肩に垂らして
家の中に天使が居るみたいだった
あの娘も私も どちらも何も言わなかった
あの娘のつぶらな瞳は 私を燃やし続けていた
持っていた箒を手から離して
話したそうにしたけれど ずっと震えていた
初恋の思い出だった
幼い二人に芽生えた恋は
一晩で生えてくる
野の花のようだった
あの娘の父親の質素な家の
煉瓦(アドベ)*造りの中に隠された恋 *adobe = 日干し煉瓦
中庭のオンブー*の木の幹に *ombú = 南米産の大樹 幹は柔らかい メキシコヤマゴボウ
ナイフの先で彫り付けた恋
私は背を向けて そっと歩きだした
落とし穴を怖がるひとのように
思い出も感情(きもち)も 縞模様の
ポンチョの中に包んで
どうしたのか判らない 馬に跨った
全速力で駆け出した
思い出も感情も何もかも 包んであった
縞模様のポンチョから取り出して
あの娘は綺麗だった あの日の午後
あの娘の家の中庭は落ち着いていて
何もかも素晴らしいと思ったけど
口には出せずに 私はずっと震えていた
邦訳:大澤 寛