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「Sobre el pucho」(1922)(煙草の吸殻)
Letra : José González Castillo (1885-1937)
Música : Sebastián Piana (1903-94)
ポンページャ*の横町のひとつ *Pompeya はブエノスアイレスの地区の名前
街灯が水溜りを光らせ
不良(わる)がひとり煙草を吸っている
流しのオルガンからタンゴが生まれる
貧しい生活(くらし)よりも
あのミロンガの音に合わせて
あの不良(わる)が物思いに沈んで
嘆きの歌を思い出している
愛しいタンゴよ
もう永遠に去(い)ってしまった
今はただ吸殻みたいになった
俺の人生の喜びを
煙草が吸ってしまったように
愛しいタンゴよ
もう永遠に去(い)ってしまった
あの時誰が言ってくれただろう* *このdiría は反語的な用法で “誰も言ってくれなかった” の意味
俺のただひとつの夢を
お前が持ち去って行くことを
俺がコラーレス*のあの不良(わる)なんだ * Corrales は地名。現在のParque de los Patricios
― 幾つもの恋をしたカーニバルがあった ー
よく出来た甘い言葉で
お前の美しさを輝かせた
だけどお前は狂った移り気で
お前の唇から俺を引き離した
味も匂いもしなくなった吸殻が
捨てられるように 邦訳:大澤 寛
(注1)
“Tango” という銘柄の煙草メーカーが主催するコンクールに参加するのに際してJosé González Castillo はこの曲を ”Sobre el pucho” と名付けたと言う。ちなみに sobre el pucho は南米の口語で “すぐに” “即座に” = en seguida, immediatamente, al tiro の意味だが、ここでは命名の由来から “吸殻” “煙草” として置く。
(注2)
多くの歌手が取り上げている。現在CDやYouTube で聴けるものの中でTita Merello や Adriana Varela が歌っている歌詞を訳した。Floreal Ruiz が歌うバージョンは第3連の hizo brillar tus bellezas con las lindezas de sus primores を le hizo perder la belleza y la pureza de mis amores となっている。さらに tu inconstancia loca は mi に、me arrebató de tu boca が te arrebató de mi boca となっている。