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「Mocosita」 (モコシータ)
Letra : Víctor Soliño (1897-1983)
Música : Geraldo Hernán Matos Rodríguez (1897-1948)
打ちひしがれて 心は痛み
希望(のぞみ)はなく 生きることに嫌気がさして
痛む心に安らぎはなく
哀れなパジャドール*は
その小部屋ですすり泣いている
*payador : payada(パジャーダ)=ボリビア・チリ・ラプラタ地域で即興的に歌われる民謡を歌うガウチョのこと。
吟遊詩人、流しの歌い手、などと訳される。
ギターは片隅に見捨てられ
釘に掛けてある
もう そのパジャドールには
ギターの音などどうでもいいのだ
ベッドに横たわって 泣くだけだ
時々 こんな歌が聞こえるだけだ
俺のモコシータ*よ
俺を死なせないでくれ
この部屋に戻って来てくれ
俺は生きて行けないのだから
判るかなあ 俺が何度
再たお前が傍に居る夢を見たか
俺のモコシータ*よ
そんなに邪険にするなよ
俺を捨てないでくれ
もう一度お前に会いたい
モコシータ*よ 俺を捨てないでくれ
お前に蔑(うと)まれると 俺は少しずつ死ぬのだ
*mocosita: 女性・女の子の俗な愛称のひとつ。moco は南米の俗語で鶏冠(とさか)とか取るに足りないものを指す。そのmoco の縮小辞
共同(コンベン)住宅(ティージョ)は静かに眠りについて
夜の静けさを破るものはなかった
その時聞こえた 遠くの暗がりで
一発の銃声が
隣人たちは 心配して駆け付けた
あのパジャドールのドラマの結末(なりゆき)を
予感していたから
そして見付けた
あのパジャドールが血にまみれて
ベッドに倒れているのを
そして誰かが聴いた
パジャドールが死ぬ前に
こんな風に歌うのを
俺のモコシータ*よ
俺を死なせないでくれ
この部屋に戻って来てくれ
俺は生きて行けないのだから
判るかなあ 俺が何度
再たお前が傍に居る夢を見たか
俺のモコシータ*よ
そんなに邪険にするなよ
俺を捨てないでくれ
もう一度お前に会いたい
モコシータ*よ 俺を捨てないでくれ
お前に蔑まれると 俺は少しずつ死ぬのだ
邦訳:大澤 寛