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「Madame Ivonne」 (マダム・イヴォンヌ) 1933
Letra : Eduardo Pereyra (1900-73) Letra : Enrique Cadícamo (1900-99)
イヴォンヌは 旧いモンマルトルの綺麗な街区(まち)の
Les Quatre Arts*(1) のパーティーを
盛り上げる 陽気でしっかりもの*(2)で
格好(スタイル)の良い女の子だった
詩人たちの心をくすぐる
ラテン区*(3)の女の子だった
しかし或る日 一人のアルゼンチン人が
やって来て 彼女の心を捉えたのだった
イヴォンヌ小母さん
南十字星*(4)は 運命のようだった
イヴォンヌ小母さん
あなたの幸せを決める運命のようだった
あなたは灰色の雲雀(ひばり)
あなたの苦しみは私の胸を打つ
貴方の悲しみは雪のようだ
イヴォンヌ小母さん
フランスを船で離れて10年が過ぎて
イヴォンヌは 今はもう普通の小母さんになった
遠くに残して来た全てを思って とても悲しい眼をして
シャンパンを飲む小母さんに
今はもう ラテン区の女の子ではない
今はもう 貧しいフラ・ダ・リ*(5)ではない
もう何も残っていない タンゴとマテ茶で誘って
パリから引き離した あのアルゼンチン人も
邦訳:大澤 寛
注
*(1) Les Quatre Arts (造形美術?)と言う名のダンスホール 毎年パリの美術学校の生徒のためのパーティを催した
*(2) griseta = ふつうはcosturerita(お針子)の意だが、しっかりした・独立心のある・男に誘われるのを好むが自堕落ではない女の子のことを指す
*(3) Barrio Latino = Quartier Latin (カルティエ・ラタン)パリの学生街
*(4) もちろんこの南十字星はやって来たアルゼンチン人
*(5) flor de lis = 紋章模様に用いられるユリの花 lis=lirio
●1935年にメデジン空港で亡くなるGardel が、生前ブエノスアイレスで最後に録音したのがこの曲。
Gardelはmadame をmadama と発音している。 南米風にしたのだろう。Todotango で聴ける。
●Madame Ivonne は多くの貧乏なアーティストたちが暮らしたモンテビデオの安宿の主人。 作詞のCadícamo も作曲のPereyra も特に彼女と恋愛などの深い関係はないとされている。(Eduardo Romano “Las letras del Tango”より)
●Julio Sosa がLeopoldo Federico のオルケスタ伴奏で歌ったものには冒頭に語りが入っている(下欄参照)。CDではColumbia CD 2-461764などがある。
(Julio Sosa の歌の語りの部分)
Ivonne, yo te conocí en el viejo Monmartre cuando el cascabel de plata de tu risa era un
refugio para nuestra bohemia, y tu cansancio y tu anemia no se dibujaban aún detrás de
tus ojeras violetas.
Yo te conocí cuando el amor te iluminaba por dentro , y te adoré de lejos sin que lo
supieras y sin pensar que confesándote este amor podía haberte salvado.
Te conocí cuando era yo un estudiante de bolsillos flacos y el París nocturno de entonces
lanzaba al espacio, en una cascada de luces, el efímero reinado de un nombre,,,,,
Mademoiselle Ivonne,,,,,
(邦訳)
イヴォンヌ、旧いモンマルトルで俺がお前を知ったのは、お前の銀の鈴のような笑い声が、俺たちのさすらう心の隠れ家だった頃だ。 お前の紫色の眼の隈の影にさえ、お前が疲れていることも貧血症であることも現れてはいなかった。
俺がお前を知ったのは、愛がお前を内側から輝かせていた頃だ。俺は、お前が知るわけもないが、お前を遠くから憧れた。俺の愛を打ち明けることでお前を助けることが出来たなどと考えることもしないで。
お前を知ったのは、俺が銭の無い学生だったころだ。その頃のパリの夜は、滝のような光りの中で、ひとつの名前に支配された儚さを空に放っていた。その名前はマドモアゼル・イヴォンヌ、、、 (邦訳:大澤 寛)