コロナに負けずタンゴのライブが帰ってきた

 2020年7月12日、銀座“リベルタンゴ“で京谷弘司トリオのライブが開催された 。この数か月というもの、例のコロナウィルス感染予防のためとかで、外出自粛が呼びかけられ、ライブやコンサートはほぼ全面的に中止となり、タンゴだけではなく音楽は自宅できくべし、映画やドラマはテレビかDVDで見るべしというお達しならぬ一種の申し合わせが、いつの間にか蔓延していたが、そのようなことが長続きする筈はなく、漸く制約はある中ライブが復活したのであった。

この日“リベルタンゴ”を訪れたタンゴ人は検温、両手アルコール消毒の後、普段より少ない席数におよそ30名(これでほぼ満席)が陣取って開演を待った。窓は開けたまま、扇風機が風を送り、昼間の明かりの中といった、どうみても本来のタンゴが演奏される雰囲気の中、マエストロでバンドネオンの京谷弘司、ピアノの淡路七穂子、ビオリンは吉田篤の3名が登場し、先ずは“QUEJAS DE BANDONEÓN ”続いて“EL HURACÁN”を力強く演奏した。

第1部のステージでは古典曲を中心にしていたが、4曲目に京谷トリオがしばしば取り上げている日本の“月の砂漠”を淡路七穂子のピアノを主にして披露し、これも立派なタンゴになるという証を示してくれた。

15分休憩の後、第2部に入り、最初は京谷弘司の自作曲を3曲演奏した。何でも、今回のコロナ騒ぎによる外出自粛で演奏活動が出来なくなっていた間に、自宅で新曲を手掛けていたという説明がついていた。その中の“TANGO ARRABAL”という曲はタンゴ本来の時代的背景を構想して曲作りを行ったそうで、確かに「新曲」とはいえ、どこか古き良き時代の名残を漂わせていた。とかく新曲とか自作曲というと敬遠される向きがあることを京谷弘司本人がよく分かっているような気がした。

自作の3曲の後は“EL CHOCLO”を入れてリスナーを一息つかせる工夫を施していたのは流石

あったが、その後で「今日ももしかすると嫌がられるかも知れませんが」と断って、京谷弘司としては矢張り避けては通れないアストル・ピアソラを「今日のステージの最後はこれで」とピアソラの中ではよく知られている名曲3曲“LO QUE VENDRÁ”“CHIQUILÍN DE BACHÍN”“ADIÓS なNNONINO”を「どうですか、ピアソラも好いでしょう」と訴えるように演奏していた。これで演奏者3名を再度紹介して「終わり」なのであるが、そこは勿論「オートラ!」で最後の最後は“CANARO EN PARÍS”で打ち上げとなった。

昨今どこのライブハウスも休業を余儀なくされ、演奏家ともども苦しい毎日を送る羽目に追い込まれてきているが、この“銀座リベルタンゴ”も嘗てのように大々的にミロンガで集客することは難しくなっていた訳であるが、こうしてライブを催行して「聴かせる」方の努力をしてくれているのは誠に有難いことで敬意を表すべきと思っている。

久々に京谷トリオのライブを満喫したところで、気が付いたことに、普段京谷ライブならもっと大勢来る筈の本来の?タンゴ人は3‐4名と寂しい人数で、いかにコロナによる感染予防とか外出自粛のさなかとはいえ、折角のベテランのライブで、然も銀座の真ん中だというのに勿体ないというか何か演奏者や会場に申し訳ないような気がしたのであった。