大澤寛のタンゴ訳詞集

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  • 大澤 寛
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    「Trenzas」(お下げ髪)
    Letra :Homero Expósito (1918-87)
    Música : Armando Pontier (1917-83)

    trenza は髪については“三つ編み”を指すが、ここでは古くから使われている邦訳の「お下げ髪」とする。

    お下げ髪
    柔らかな絹のようだった お前のお下げ髪
    お前の肌も お前が居ないのも 陰に隠れた月のよう
    お下げ髪
    お前の愛のくびきに 私をしばりつけた
    お前の微笑(ほほえみ)と声は くびきとは言っても
    柔らかなくびき
    とある街角で見つけたお前の心は
    私の日々の暮らしへの 優しい思いやり
    私の暗い気持ちを和らげてくれた
    濃いマテ茶の色をした お下げ髪

    野の花のようなお前の愛は何処へ行った?
    お前を慈しんだあと 何処へ? 何処へ?
    私の心は 多分お前を失うことになっていたのだろう
    そして お前を探し求めて私の孤独は深まるばかり
    そして お前を失くして 私は泣いている 
    泣き疲れて 切ない願いの込められたお下げ髪の
    お前の命に編みこまれて 不安に包まれて お前が居なくて
    私は何故これからも愛さなければいけないのだろう?
    最後(おわり)は別れなのに

    辛いなあ
    私の古い悲しみと
    私をつなぐ途切れたお前の声
    恨みではない言葉で私を満たしてくる悲しみ
    愛の炎でお前を呼ぶ熱い想い
    お下げ髪
    柔らかな絹のようだった お前のお下げ髪
    お前の肌も お前が居ないのも
    陰に隠れた月のよう
    お下げ髪
    無慈悲な鞭のような おそろしく強い絆で
    お前の 声のない別れに
    私を縛り付けたお下げ髪                        

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Tristezas de la calle Corrientes」(コリエンテス通りの悲しみ)
    Letra : Homero Expósito 1918-87()
    Música : Domingo Federico (1916-2000)

    通りは パンを買う小銭の谷のよう
    川は わき目もふらずに流れ そこで街は嘆く
    (コリエンテスよ)お前の街灯のなんと悲しく青白いことか
    お前の看板は 十字架の墓標 
    お前のポスターは 段ボール箱の高笑い

    笑いは アルコールとのつながりを求め
    涙は 唄に変わる 私たちに愛を売るための
    悲しいはしゃぎのマーケット
    幻滅をぶら下げた愛撫の大騒ぎ! 
    悲しい ねえ!
    (コリエンテスよ)お前が 私たちのものであるのは
    悲しい ねえ!
    (コリエンテスよ)お前は 夢をみるから
    お前の喜びは 悲しみに変わり
    待つことの痛みが お前を貫く
    そしてお前は 青白い街灯の下で
    嘆きながら泣きながら 生きている
    悲しい ねえ!
    (コリエンテスよ)お前が 私たちのものであるのは
    悲しい ねえ!
    (コイエンテスよ)お前が 十字架の墓標を夢見るのは

    流れ者たちは
    渡る世間のへつらいに満ちて
    貧しきものたちは
    のし上がることへの願望のほかには財産もなく
    居酒屋の卓について 苦いコーヒーの染みついた血で
    希望へのはやる気持ちを静めている

    通りは パンを買う小銭の谷のよう
    川は わき目もふらずに流れ そこで街は嘆く
    (コリエンテスよ)お前はキリストのように売られ
    オベリスクの剣で とめどなく血を流す             邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Tristeza marina」 (海の男の悲しみ)
    Letra : Horacio Sanguinetti(1914-57)
    Música : José Dames (1907-94) + Roberto Flores (1907-81)

    “あなたは私より海が好きなのね”
    あの娘(こ)は悲しげにそう言って
    あの娘の澄んだ声は消えた
    俺は 何度も繰り返し*思い出している    *obsesión: “強迫観念・憑きもの” だがここは “何度も繰り返して”
    あの娘の夕日のような眼差しと
    あの言葉を
    “あなたの海と私の愛と どちらを取るのか決めて”
    “それは出来ない” と俺は言った
    するとあの娘は “さよなら” と
    あの娘はマルゴという名前で
    青いベレーを被って
    胸に十字架を掛けていた

    海よ
    海よ お前は俺の兄弟だ
    海よ
    お前の果てしない海原に
    俺の船*と一緒に           *barco carboneroは “石炭運搬船” だがここでは “船” としておく
    囚われ人のような俺の運命も
    俺の孤独な悲しみも
    沈めてしまおう
    海よ
    俺には誰も居ない
    海よ 
    もう愛する人も無い
    何時か或る日 港についても
    マルゴが待っていてくれることはない

    俺の苦しみは
    恐ろしい嘆きの風を伴って
    心に襲って来る嵐だ
    俺はあの娘を決して忘れない
    何時も繰り返して あの娘のあの言葉を聴くだろう

    “あなたの海と私の愛と どちらを取るのか決めて”
    俺は悲しく “それは出来ない” と言った
    そしてあの娘の “さよなら” を聞いた
    あの娘はマルゴという名前で
    青いベレーを被って
    胸に十字架を掛けていた

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Tu pálida voz」 (君の細い声)
    Letra : Homero Manzi (1907-51)
    Música : Charlo (1906-90)

    君が さよなら さよならと言うのを聞いて
    私は眼を閉じて 痛みを隠した
    君の足音が その日の午後を通り過ぎてゆくのを感じた
    臆病な私の手は 君を止めようとはしなかった
    私の心は 愛に泣いて
    静けさの中に 君の声が谺した
    愛しい君の声 遠くに消えた声
    私のものだった声 君の細い声

    風の吹き荒れる悲しい夜に
    星たちが 悔いるように冷たく光る
    私は 君が 忘れたことも時間も取り戻して
    再た戻って来る筈だと 自分を騙している

    君の足音が いつもの小道を通って
    帰って来るのを感じる
    疲れ切って私を呼ぶのが聞こえる
    そんなことが何になる 無駄だと判っているのに
    決して 決して君は戻って来ない

    君が立ち去るのを見た さよならと言って
    私は苦しみに震え 痛みを隠した
    やがて 君が戻ることはないのだと思い
    追いかけようとしたが 君はもう私のものではない
    私の心は 愛の血を流した
    そして想い出の中に 君の声が谺した
    愛しい君の声 遠くに消えた声
    凍えるような君の声 君の細い声

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Tu vuelta」(あなたのお帰り)
    Letra : Aníbal González Casalla (n/d)
    Música : Alberto Hilarión Acuña (1893-1975)

    (語り)
    あの男の遠い故郷から
    近くの食料品屋に宛てて
    マリアの手紙が届いたのです
    その手紙はあの男の手の中で
    震えています

    (唄)
    貴方(あなた)のお帰りを待ちながら
    私は暮しています
    お帰りがどんなに遅くなっても
    貴方(あなた)がずっと私を愛してくれているという
    希望を抱き締めています
    夜になって 馬の駆ける音が聞こえると
    私は十字架を握り締めます
    そして 灯りに群がって落ちる虫が
    貴方(あなた)の煙草の吸殻に見えて来ます

    私は時々母さんが涙を拭いているのを知っています
    私が引き籠りがちで ベッドでひどく咳をするからです
    貴方(あなた)の口笛が聞こえたと思って
    近頃大草原から吹き付ける風の中を 上着を着ないで外に出て
    馬鹿みたいに風邪を引きました 

    私の黒い三つ編みが 貴方(あなた)が沢山唇付けしてくれたあの長い髪が
    私のお友達のお月さまが 貴方(あなた)を待っていたいつかの夜に呉れた
    間違って銀の糸と呼ばれる 上着の銀色の房飾りに
    貴方(あなた)が居ないのに 貴方(あなた)の唇付けのことを話しかけます

    私には時々戸口がバーの止り木に見えます
    私が我慢し切れなくなって 苦いお酒に酔って歩いています
    貴方(あなた)を困らせるつもりはありませんが
    今日は決心して手紙を書きました 何故なら
    母さんと私が二人で貴方(あなた)を待っていることを
    知らせたかったのです

    邦訳:大澤 寛

    T-T Julia Vidal con guitarras (佳品)


    大澤 寛
    参加者

    Un baile a beneficio (La podrida)  (慈善のためのダンスパーティ)
    Letra : José Alfredo Fernández (n/d)            
    Música : Juan Carlos Caviello (1923-2016)

    背高のっぽのパンタレオン、胡瓜みたいなペピーノに、少し頭の狂ったフアン
    毛むくじゃらのサンティジャン、ティトに、びっこのラモンを加えて
    どうでもいいような踊りの場所に 出かけるつもりで外に出た
    それはDevoto* の刑務所に 盗みの罪で捕まっている
    悪い男を保釈(うけだ)す金を集めるための踊りの場所へと
    *Devoto :ブエノス・アイレス市 の Villa Devoto にある刑務所を指す
    ティトと 酔っ払っていて口もきけない毛むくじゃらを連れて
    飲むものを取りにビュッフェに行ったら いかす女がぐいぐい*やってた
    そこには渾名が仔猫*のギター弾きアウグストに 一文無しのポルタンカ
    見たら誰でも驚くほどに酔っ払っていて 耳も聞こえていなかった
    *chupar : 吸う・しゃぶる・飲むの意味だが、俗語的にアルコール系の飲みものを沢山飲むこと
    *gatillo : gato の縮小辞 gato は“猫”の他に“つまらない・金欠男”“泥棒”そして女性に用いると“夜の女”
    街の女の群れの顔ぶれは メンディエタ館の女たち 
    痩せのパニョレータ パハ・ブラ―バ* 
    チーナにピチョータにゴロンドリーナ 
    万引き女のエンカルナシオン 倉庫から来たデブ女
    サリータは狭い露地から プニャラーダ館のグレーラに 大通りから来た浅黒いの
    *paja braba : 品の悪い意味(オナニーなど)がありそうだが大文字なのでそのままにした
    他にも のっぽのソフィーアと 女将(おかみ)のローラにあのラモーナ
    仔鼠ラウチータに あのパトーナ そしておチビのマリアなど
    髭の生えてるルシーアに うるさいラテーラ あのスレーマ
    厚い化粧に晴れ着だけれど ゴミ焼き場*から来たように見えた
    *quema : ゴミを集めて燃やす場所 その近くに住むのは最下層の人々
    動きの激しい踊りの中で 黒人の群れの動きはさらに激しく
    切れの良いcorte* やquebrada* にミロンガ*の夜は更けて行く
    黒人の女がひとり 間抜けな男と踊っていたが 気違いフアンを
    踏んづけた まさしく足の親指を サンティジャンが停めなかったら
    気違いフアンはその女に 一発喰らわせたことだろう
    *corte : 古いタンゴ特有の、動きを唐突に切る荒っぽいステップ (高場将美さんのサイトから)
    *quebrada :これも急に停止して崩れるステップ 普通cortes y quebradas と一語のように用いられる(同上)
    *このミロンガはもちろんタンゴを踊る場所
    そして その間抜け男もとても強気で 気違いフアンを平手打ち
    フアンはまるで蛙みたいに 音を立てて床に倒れて頭をぶつけた
    この場をなんとか円く収めようと パニョレータが割って入り
    間抜けな男を片隅にやり 皆は逃げ出したかったのだけれど
    パンタレオンがそいつを殴り 滅茶苦茶騒ぎにしてしまった

    すぐに喧嘩*が始まって 殴り合い*に取っ組み合い 入り乱れての大騒ぎ*
    サンティジャンは 持っていたピストルを一発ぶっ放す
    みんなは駆け出し そこは空っぽになってしまった
    徹夜騒ぎの終りには 俺はバンドネオンを一台くすね
    残っていたのは 道案内のパンタレオンと 顔に怪我した気違いフアン
    *一行目のpodrida, piña, trompada と tortazo は全てが“喧嘩・殴り合い・大騒動”の意

    邦訳:大澤 寛 


    大澤 寛
    参加者

    「Un boliche」(酒場)
    Letra : Tito Cabano (1928-88)
    Música : Carlos Acuña (1915-99) 

    どこにもありそうな街角の
    珍しくもない酒場がひとつ
    酔っ払いがひとり グラスの夢を壊している
    私服がひとり現れて 小銭はなしでただ酒一杯
    小銭は泥棒が持って行く 置きっぱなしのカニャ酒一杯
    四人の手練(てだれ)がカードのゲーム 
    ナイペをやったりトスカナをして
    年金は全部すってしまう
    大理石に肘をつき 留め金みたいにしがみつき
    夜な夜な懺悔の酔っ払い

    若者がひとり忍び込み
    店の主人が怒り出す
    ギターを持った流しがひとり
    ごめんを蒙り 弦を調律
    こんな風に 
    カードと酔いとタンゴの坩堝
    それは日常(まいど)茶飯のことなのだけれど
    小さな女の子の声が聞こえる
    “父さん もう帰ろ 母さんが呼んでるから”

    どこにもありそうな街角の
    珍しくもない酒場がひとつ
    街灯がひとつ灯って 夜の唄を聴いている
    この街に似つかわしくない女と
    どこかのドアから大股で出てきた伊達男のお喋り

    警官がひとり現れて この場の空気を目茶目茶に
    街路(とおり)にはもう誰も居なくなり カードは誰かがひとり勝ち
    一杯奢ると誘われて 直ぐにゲームに駆け戻る
    勝った男が勘定場(カウンター)の前で 支払いに難儀をしてる間に 

    邦訳 大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Un copetín」(もう一杯)
    Letra : José Fernández Perrusine (n/d)
    Música : Juan Maglio (Pacho) (1880-1934)

    一杯やるんだ あの娘(こ)のために
    俺が一番愛したあの娘(こ)
    俺はどれほど夢見たことか
    乾杯するんだ あの娘(こ)のために
    全てが終わって 人は去り
    今俺は ほんの昨日の影法師
    もう一杯やるしか能はない

    何処に居るんだ? あのバスカ*
    俺が愛した女の中で 
    一番気風(きっぷ)が良かったな
    お前が愛した若い日の俺に 
    わき目もふらずについて来た
    想い出しても悲しくなるぜ
    もはや昔のあの頃の
    日々が戻って来るじゃなし
    俺が酔うのはそういう理由(わけ)さ
    さあ! ボーイ!
    もう一杯だ

                 *Vasca はバスク人の女性の意味だが、ここではその娘の仇名でもあったのだろう。

    邦訳:大澤 寛

    Copetín は小さいグラス=ショットグラスやリキュールグラスのこと。ここでは歌詞の内容から “もう一杯” としておいた。


    大澤 寛
    参加者

    「Una canción」(唄ひとつ)
    Letra : Cátulo Castillo (1906-75)                    
    Música : Aníbal Troilo (1914-75)

    アルコールのグラスを最後まで飲みほして
    そして最後は 霧と居酒屋の影
    素朴な物悲しいアコーディオンが
    俺に悪さをするタンゴで 湯気のように俺を包む
    “さあ、お前”もっと唄えよ あの癖のある鼻声で
    お前のキャラコのガウンには ラム酒の匂いがする
    そしてお前の心には蜜の味

    唄がひとつ
    悲しくて死にたくなるような
    俺を眠らせ ぼうっとさせてくれるような
    そしてこの冷たいテーブルには
    お前と俺 酔った二人
    俺は酔うと涙もろくなって
    お前に頼むんだ さあ 昔のように唄ってくれよ
    静かに 静かに お前の歌をもう一度

    俺たち二人のひどい不幸は 俺たちを
    同じところに連れて行く いつも同じところに
    そして そこにあるのは狂った嵐
    お前の声は風のように 最後の苦しみを吹き鳴らす
    “さあ、お前”ラム酒をもう少しどうだ
    そして キャラコのガウンの前を閉めろよ
    この歌を聴いて震えている お前の裸の心が
    鏡に映っているのが見えたから

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Una lágrima tuya」(君の涙の一(ひと)滴(しずく))
    Letra : Homero Manzi (1907-51)   Música : Mariano Mores (1918-2016)

    (この歌を聴いたら
    多分お前は判るだろう
    お前の涙を
    私が忘れなかったことを
    私が忘れなかったことを)

    君の涙の一(ひと)滴(しずく)
    私の心を濡らしてる
    月が山の端(は)辿るころ
    お前は悲しみこらえつつ
    ハンカチ濡らして泣いたのか
    私の名前を呼びながら
    私の名前を呼びながら

    あの世からお前の唄の
    悲しく想いの籠った声が
    私にさよなら告げに来る
    鐘の音の震えの中でその声は
    お前の唄のその声は
    お前と過ごしたいつもの朝の
    光に満ちた青空を
    私に思い起こさせる
    otra vida : あの世、来世
    君の涙の一(ひと)滴(しずく)
    私の心を濡らしてる
    ギターの絃が嘆く間も
    私の唇(くち)は閉ざされて
    お前の髪の傍らで
    もう唄い出すことはない
    お前に愛を告げながら
    お前に愛を告げながら

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Una limosna, por Dios」(どうか お恵みを)
    Letra : Francisco García Jiménez (1899-1983)              
    Música : Luis Bernstein (1888-1966)

    俺は あの頃貧乏だった
    貧しさが 俺の代名詞
    住む家も 食べ物も無く                ここでのmesa は“食べ物”のこと
    夢のかけらも無かったな
    俺より貧しい奴がいたか
    しかし 俺の心の奥底の
    強い想いを 消せるのは
    金なんかではなかったぜ
    孤独な俺が求めたものは
    ひとつの愛 本物の
    女の優しい愛だった

    華やぐ豊かな家の扉(と)で
    飢えと寒さの夜を過ごす
    冨など蔑む眼差しで
    羨む気など更に無く
    只一人 俺の悩みに気がついた
    行きずりの美しい女(ひと)よ
    俺の心は呼びかけた
    “助けてくれ お願いだ”

    美しく品のあるその女(ひと)は
    俺が隠した言葉に気付き
    愛という金を 恵んでくれたが
    あっという間に忘れてしまった
    貧しい俺がいたことなどは
    昨日の愛の花畑には
    忘れ草という雑草が芽を出し
    過ごした愛の夜に築いた
    俺の夢の国は 二度と帰らない

    俺は今 以前(まえ)よりもずっと貧しい
    それは 幸福の値打ちを知ったから
    それは 愛の唇付けを失くしたから
    それは 想い出は次の苦しみだから
    そしてもう 血を流す俺の胸は
    愛が授けてくれるものを受け付けず
    忘れっぽい人たちに近づいて言う
    “助けてくれ お願いだ”

    邦訳:大澤 寛

    Blasón : 紋章、 栄光・名誉、  pl. 高貴な家柄・由緒ある先祖
    Fastuoso : 華やかな・華麗な
    Altivo : 傲慢な・横柄な、  聳え立つ・非常に高い
    Desdeñoso : 軽蔑した・馬鹿にするような
    Vergel : 果樹園・花畑、畑
    Don : 2, 天賦の才能、 魅力、 (お伽噺の中の)望みのもの、天の恵み・授かりもの
    Implorer : 懇願する・哀願する・嘆願する


    大澤 寛
    参加者

    「Uno」(男は)
    Letra :Enrique Santos Discépolo (1901-51)
    Música :Mariano Mores (1918-2016)

    男は 希望に満ちて 夢が約束してくれた
    自分の願いがかなう道を探し求める
    戦いが過酷で繰り返されるものだと知りながら
    取り付かれた思いのために 戦い 血を流す
    男は 棘の間を這いずり回って 愛を捧げたい一心で
    自分を失くしていることに気付くまで
    悩んで ずたずたに引き裂かれる
    それが 届かぬ唇づけや 裏切られた愛に
    男が支払う代償(つけ)なのだ
    愛することも ひどい裏切りを嘆くことも
    もう空しいだけだ

    お前に捧げたあの心が 今の俺にあるなら
    昔のように素直(すなお)に愛することが出来るなら
    俺に愛を告げるお前の瞳を 俺の唇づけで
    閉じてやることが出来るのだが
    俺の人生を台無しにした 他の女の邪悪な瞳の数々も
    こんなふうだったと考えることも無しに
    失くしてしまったのと同じ心が 今の俺にあるなら
    その心を打ち砕いた昔の女を忘れることが出来るなら
    そして お前を愛することが出来るなら
    お前の愛のために泣けるように 
    お前の幻にしがみつくのだが 

    だけど神は もう遅いこと 
    俺がどうすればお前を愛せるか判らないことなど
    考えもしないで 運命のままにお前を連れて来た
    俺を泣かせてくれ 生きたまま己の死を嘆くという
    拷問に苛まれる男のように
    純粋(うぶ)なお前は お前の愛で俺の希望を実らせてくれただろう
    男が悩むときは あれほど孤独なのだ
    男が苦しむときは あれほど盲目なのだ
    しかし憎しみより深い無慈悲な冷酷さが 心の行き詰まりは
    愛を埋める恐ろしい墓だと 俺を永遠に呪い 
    俺から全ての夢を奪い去った                    

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Vamos, che」(さあ 行こうぜ)
    Letra :Alberto Peyrano
    Música :Carlos Buedo

    Vamos, ¡che!. No te detengas. さあ 行こう 愚図愚図すんなよ
    El porqué ya te lo he dicho. 理由(わけ)はもうお前に言ったろう
    Vale más cualquier bachicha* どんな移民の屑でも 
    que esa mujer que te engañó. お前を騙したあの女よりマシなんだ

    Vamos, ¡che! No te detengas. さあ 行こう 愚図愚図すんなよ
    ¿No miras? No vale nada. 判らんのか あの女は屑なんだ
    Déjala, que ella comprenda que あいつなんか放っとけ そしたら
    para ti no existirá jamás. あいつもお前に捨てられたと判るだろう

    邦訳:大澤 寛

    *は歌詞の聞き取り難いところ箇所。*bachicha なのか machicha なのか。ここでは複数のルンファルドの辞書に項目として掲載されているbachicha を採用する。意味は1.イタリア人 2.小柄で太った人 3.さらに馬鹿(= tonto)の意味にも使われる。
    またルンファルドのmacha には酔っ払い(=borracho)の意があり、machicha にはこれとの関連も考えられる。いずれにせよ bachicha はイタリア系の移民を悪く言うときに用いられたとされる。
    さらに当時は移民の男女比では圧倒的に女性が少なかったことから、ブスなのに鼻持ちならないのもいた筈で、この歌詞は「あんな女は諦めろ・手を引け」という内容で使われているのではないか。
    余談。日本の流行歌なら、ディック・ミネの“おい、もうよせよ”で始まる「雨の酒場で」を思い出す。


    大澤 寛
    参加者

    「Ventanita de arrabal」(場末の小窓)
    Letra : Pascual Contursi (1888-1932)                         
    Música : Antonio Scatasso (1886-1958)

    カフェラータ*という町の          
    床には煉瓦を敷いた
    間仕切りのドアのない
    古いコンベンティージョ*には
    手回しのオルガンの嘆き節
    そこでは娘があの青年(おとこ)の
    通りがかるのを待っている
    *カフェラータCaferata : チクラーナ(Chiclana)にある町 同名のタンゴ「Caferata」がこの作詞・作曲コンビにある
            *コンベンティージョConventillo : 移民などが住んだ集合住宅  
    栗色の帽子
    光った革の半長靴
    人々の視線を浴びながら
    ひとりでコンベンティージョに
    やって来てギターを貸りると
    その娘に歌ってやった

    とある日曜日にその娘と
    タンゴを踊ったあの青年
    その娘に“君が好きで死にそうだ”と告げて
    娘の心を泥沼に引きずり込んだ あの青年
    コンベンティージョの入り口*に
    二度と戻って来なかった
    *入り口と訳したがreja は花を飾ったりすることと防犯というふたつの目的を持った鉄格子
    その娘の部屋のあの小窓
    あの日から見捨てられて
    しおれた花があるばかり
    誰も居ない小窓に霧が降り
    花に宿った露は悲しんで
    溜息をついたものだから
    花の細い幹も折れて崩れた

    邦訳:大澤 寛

    Minga : (南米)手伝い仕事、共同作業、共同作業員
          ケチュア語のminka = 無償(或いは極く些少の報酬での)の共同作業・互助的な作業
          (ル)1.強い否定=”No” rotundo 2.Nada 3.Sin
    Cancel : 雨戸・内扉、 衝立・仕切り
    Funyi : (ル)=sombrero
    Echado en los ojos echar un ojo a ~ ~ に注意する・~を見張る・見る
    Botín : (ス)1.ゲートル・スパッツ 2.半長靴 3.ソックス・靴下 (軍)戦利品・分捕り品
          (ル)
    Botín enterezo : botín fino para hombre, de cabritilla(子山羊・子山羊の革・キッド革), entero, sin cordones, que llevaba en sus costados(=lados) cintas elásticas. Las cintas se estiraban al poner el pie y luego volvían a su anterior estado para sostener ajustado el calzado. Se usaba en las primeras décadas del 1900.

    Fango : 泥沼、恥・不名誉
    Cotorro : (ル)   起源は(ス)のcotarro =簡易宿泊所
    Garúa : (ラ米)霧=llovisna
    Tronco : (ル・俗語)torpe, inhábil, pesado, lento


    大澤 寛
    参加者

    「Ventarrón」 (つむじ風)
    Letra : José Horacio Staffolani (1898-1968)   Música : Pedro Maffia (1900-67)

    噂に聞いても 姿を見ても
    闇の世界で知られたやくざ者
    賭けごとをやらせりゃ 並ぶものなし
    お前はまさに つむじ風
    たとえ機会が与えられても
    誰がお前に敵うだろうか
    カンジェンゲ風にタンゴを踊ることで
    人の心を捉えることで

    やくざ仲間の仲間内では
    お前を つむじ風と呼ぶ
    お前の度胸と 勝った喧嘩の数々で
    皆がお前を つむじ風と囃す
    それなのに
    つむじ風は Pompeya を捨てて
    運命の星を追って 去って行った

    何年もの時が過ぎた
    伊達男ぶりも 色恋沙汰も
    居酒屋の隅に置いて行った
    神に咎められたもののように
    孤独(ひとり)で 淋しく 病人のように
    心を蝕む挫折の思いを抱えて
    あのやくざ者は戻って来た
    もう他人に とって代わられた
    昔の名声(なまえ)を求めて

    お前はもう あの頃のつむじ風じゃない
    仲間には “役立たず” だ
    いかさま師には 哀れなキリストなのだ
    チンピラ風の 不平たらしいタンゴを聴いて 
    あの昔を つむじ風の輝いた日々を 
    思い出すのだ                                          邦訳:大澤 寛

    Hampa : (ルではない)暗黒街、悪の世界、下層社会
    Mentado : (ルではない)1.前述の、前期の、先ほどの  2.有名な、広く知られた
            (ル)でmenta = fama, renombre, celebridad
    Taura : persona valiente, audaz apostador decidido y audaz en el juego
    Berretín : capricho/fantasía // deseo vehemente
    // pasión/enamoramiento intenso // ilusión/esperanza
    Cartón : tonto, bobo, crédulo, gil // persona, hombre, mujer
    Maula : (ス)ペテン師、支払いの悪い人、 役立たず
    (ル)= miedoso, cobarde // engaño, artificio encubierto // persona tramposa, mal
    Pagadora // haragán, perezoso
    Retobado : Dícese de lo que está forrado o revestido con cuero // enojado // porfiado

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