大澤寛のタンゴ訳詞集

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  • 大澤 寛
    参加者

    「Sombras nada más」(暗闇ばかり)
    Letra: José María Contursi (1911-72)
    Música : Francisco Lomuto (1893-1950)

    俺の血管を ゆっくりと切って
    俺の血を全部 お前の足元にぶちまけたい
    こうするより他に 愛する方法(すべ)がないことを
    お前に分からせるために
    そしてその後で 死にたいものだ
    それなのに 空と海の青さの
    お前の青い瞳は 俺には閉ざされたままだ
    孤独に打ち沈んだ俺の姿を見ることもせずに

    暗闇、、、 ただそれだけが
    俺の手を愛撫(なで)てくれる
    暗闇、、、 ただそれだけが
    俺の震える声の中で
    俺は幸せになれた
    今は 生きながら死にかけている
    この 終わりのないドラマの 一番恐ろしい場面を
    泣きながら生きている
    暗闇、、、 ただそれだけが
    お前の人生と 俺の人生の間に
    暗闇、、、 ただそれだけが
    お前の愛と 俺の愛の間に

    俺の疲れた心に 何と短い間しか 
    お前はいなかったことか
    お前の手も声も 何とよそよそしかったことか
    お前の光は 蛍のように現れて
    俺の部屋の片隅の暗闇を消した
    そして俺は 震える子鬼のようだった
    俺には閉ざされたままで
    孤独に打ち沈んだ俺の姿を見ることもしない
    海の青さのお前の瞳は無いままに
    邦訳:大澤 寛
    Sombras : (主に複数形で)闇・暗がり
    Tibio : 2.冷めた・熱意のない、冷たい・よそよそしい、煮え切らない


    大澤 寛
    参加者

    「Soñar y nada más」(夢だけを見よう)
    Letra: Ivo Pelay (1893-1959)
    Música: Francisco Canaro (1888-1964)

    愛の夢を見ているのなら 眼を覚まさないで 
    綺麗なお嬢さん 愛することは 夢見ることなのだから

    眼を覚ますのは 夢を壊して 闇の中に 
    苦い現実を見つけるだけ
    夢見て生きているのなら 眼を覚まさないで
    貴女の夢に 嘆息(といき)が近付いて 貴女を黙らせても
    貴女の心には 太陽がいっぱいあるのだから

    夢だけを見よう 夢の世界では
    夢だけを見よう うっとりした愛の世界では
    彼は貴女のものだと 
    貴女のために生きているのだと夢見て
    いつも夢だけを夢見よう
    愛の世界では 目覚めは悲しいと言うから
    夢だけを見よう 静かな夜には
    愛と幸せとが 不思議に溶け合って
    素敵に輝く星の世界へ飛んで行くから
    そこには永遠(とわ)に変わらぬ理想が住むのだから
    夢だけを見よう

    愛を夢見るなら 眼を覚まさないで
    間違いなく 夢見ることは生きること
    貴女の心が優しさを垣間見る間 綺麗なお嬢さん
    世の中は幸せなのだから
    眼を覚ますのは 希望を殺すこと そして
    酷い現実に立ち向かうこと
    だから私は 貴女に夢を見ていて欲しい
    決して 夢で泣くことはないのだから

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Sonaste, viejo」(狂っちまったねえ あんた)
    Letra : Francisco Bastardi
    Música : Antonio Cipolla

    どうやら運が尽きたねえ あんた
    ミロンガに行くにも 誰も付き合ってくれないよ
    狂っちまったねえ あんた
    恰好付ようたって もう駄目だよ
    ごたごたに巻き込まれる度に
    あんたには裏目が出るだけだよ
    威張り散らそうとして大声出しても
    どんな相手にもやられちゃうんだ

    狂っちまったねえ あんた
    もう どうしようもないよ
    だけど思い出すよ 
    昔は あんた好い男だった
    度胸があって 怖かったよ
    女に惚れたら 虎みたいだった
    男ぶりが良くて 威張ってたねえ
    金持ちの女たち*が あんたがよくしてやると
    狂ったみたいに 天に昇るような気になったものさ
    *mujeres “de alto vuelo” “裾の拡がるスカートをはいた”女性 =上流の・金持ちの

    あんたに構ってくれるような女の子は もう居ないさ
    あんたの家の前で途方に暮れるような子もね
    狂っちまったねえ あんた
    もう どうしようもないよ
    年齢(とし)が ものを言い始めたんだよ
    どこへ行ったって あんた独りだよ
    昔の一番の仲間だって 振り向いてもくれないさ
    あんたが嘆き悲しんで 泣いてるのを見たって 
    誰も助けてもくれないし 同情もしないよ

    狂っちまったねえ あんた
    運が付いてたときは あんたにはお手柄話が
    沢山あったそうだねえ
    そして今でも ひとは覚えているんだよ
    あの外人*の娘(こ) あんなに綺麗で あんたに惚れてた
    だけど可哀そうに とうとうあんたに振られて
    毒を飲んだ あの娘のことを

    *inglesa は“イギリス人女性”だが、ここでは“外国人”として置く

    邦訳:大澤 寛

    sonar : (ル) enloquecer, rayarse, chifrarse // perder // enfermarse gravemente // morir
    tener dudas sobre algo o alguien // tener un leve recuerdo de alguien o de alguna cosa
    entrevero : riña, pelea, duelo
    apabullar : = aplastar, 押しつぶす・ぺしゃんこにする、 圧倒する・沈黙させる・ぎゃふんと参らせる
    fulero : この場合 ordinario, de baja categoría
    compadrear : alardear, jactarse, bravuconear, dares corte
    empuje : impulso, ímpetu, energía, decision, fuerza, brio, coraje, vigor
    corte : dar corte = atención que se presta a alguien
    no dar corte = no prestarle ninguna atención a nadie
    darse corte = darse tono 威張る・うぬぼれる // aparentar más de lo que se es o se tiene
    tallar : destacarse, predominar en medio de otros, // dominar, imponer a otros // tener poder de decision e imponerlo
    roncha : apariencia ostentosa // alarde, pedantería, farolería
    // buscar impresionar, llamar la atención
    hacer roncha =darse corte, alardear
    vuelo : 4.= falda falda con vuelo
    de altos vuelos = importante, trascendiente
    apuntar :
    apunte : llevar el apunte = atender a alguien, prestarle atención, hacerle caso
    cacarear : hablar sin parar // decir ciertas cosas, provocando // ponderar, alabar con exceso las cosas propias
    pellejo : prostituta, // piel, cuero, epidermis // borracho, ebrio


    大澤 寛
    参加者

    「Sonata」(1937)
    Letra : Enrique Lary (n/d-1970)
    Música : Agustín Magaldi (1898-1938)

    Llueve y el agua al canturrear    雨が降っている そして雨だれが 
    su sonata en mi balcón         私のバルコニーで ソナタをハミングして
    trae su tristón tic tac.          ポツンポツンと淋しげな音を立てる
    Honda desesperación,          私は深い絶望に沈む
    yo sentado en mi sillón,         古いストーブの
    frente al fuego lento            弱い火の前で
    de la vieja estufa.              肘掛椅子に座って
    Me muero pensando en ti        お前を思うと死にそうになる
    y tu visión junto a mí           私の傍で お前の幻が
    acompaña mi sufrir.            私の苦しさに寄り添って来る

    Que fatal melancolía            なんと酷い憂鬱な気分にさせるのだろう
    trae esta cruel melodía,          この残酷なメロディーは
    tal vez su monotonía            多分その単調さで
    viene a mi vida burlándose.       私の命を嘲笑(からかい)に来るのだ
    Tiemblo al pensar si me mata      この呪われたソナタが
    esta maldita sonata,             私を殺すと思うと 震えが来る
    su canto es dolor, desdén,         その歌は 悩み 軽蔑
    son lágrimas de mi corazón,        私の心の涙なのだ

    Sigue la lluvia en el cristal,        雨は窓に降り続く
    repiquetea la canción            雨だれの歌は しつこく
    su persistente tic tac.            ポツン ポツンと音を立てる
    Dice tu nombre, mi amor,          その歌はお前の名を呼ぶ お前の
    amor, amor que perdí,            お前 私が失くしたお前の
    cuando tan cobarde llegó          あの午後 あんなにもひっそりと
    aquella tarde la muerte           死が お前の声を押し殺しに
    ahogando tu voz                やって来た時に
    y la lluvia igual que hoy           そして雨が 今日と同じように
    más volcaba su oración.           激しく祈りを吐きだしていた

    邦訳:大澤寛

    canturrear : ハミングする・鼻歌を歌う
    tristón : 少し悲しそうな、淋しがり屋の
    tic tac : ここでは時計のチクタクではなく、雨音のポタリポタリ、ポタポタ、ポツリポツリ
    vision : ここでは幻影・幻覚
    desdén : 見下した無関心・軽蔑


    大澤 寛
    参加者

    「Sorbos amargos」(苦い酒の滴(しずく))
    Letra y música : Agustín Irusta, Roberto Fugazot y Lucio Demare 3人の合作
    (sorbo はチビチビと飲む・啜る量、一口で飲む量を指す。 訳し難いので “滴” として置いた)

    なあ、おい!
    お前に分かるかなあ
    あの娘(こ)があの日の午後 出て行ったドアを
    夜になるといつも 俺が 胸を絞るように
    見つめていることが
    あの娘は愛想よく ひとつキスをして
    散歩に行くと嘘をついて
    さよならと言って出て行った

    これまでには無かったぜ!
    あの夜みたいに俺が悩んだことは
    俺の心は あの娘を空しく待った
    なあ お前
    お前は俺があの娘を可愛がるのを見た
    古い仲間よ
    俺が悩んだのが分かるだろう

    どんなことでも思い出になる
    どんな思い出も涙になる
    俺はあの娘を愛している
    血管の中に入れてもいいくらいに
    もしも血が泣くことがあるなら
    十分に気をつけて取り出そう
    俺を食い尽くすこの苦しさを

    夜明けになると いつも俺は
    死にそうな顔をして
    瞳には願いを込めて
    唇は 思い出の苦しみを取り去ってくれる
    愛の言葉を呟いた

    あのドアを通って あの娘が戻って来るなら
    そんなことは決してあり得ないけれど
    そうしたら俺の心は もう一度この世で 
    あの娘が愛して呉れる喜びの数々を 
    汲み尽くしたいと願うだろう

    現実には不可能な夢さ
    古い仲間よ
    そしてこの悩みの十字架は重いぜ
    優しいお袋には 決して知られたくない
    人生が俺に呉れたものが
    苦しみの愛撫だったことは

    邦訳:大澤 寛

    Con cien ojos : estar(se) con ~ andar(se) con ~ 注意して・警戒して・用心して・監視して
    Sembrante : 1.顔つき・表情   2.(物事の)局面・様相
    Sinsabores : 悩み・不快


    大澤 寛
    参加者

    「Soy del noventa」(俺は90年代の男)(1943)
    Letra : Carlos Waiss (n/d-1966)
    Música : Tito Ribero (1915-84)

    俺は あの真っ当な時代の男さ
    隅っこのカウンターで
    強いカニャ酒を飲むのに 
    誰もケチったりはしなかった
    昔も今もいつも俺は 頑固で
    まっ正直で ダンディで 折り目正しい人間なのだ
    ぶきっちょで 正直で 裏切らない
    何故なら 俺の生き方には 
    昔のことの味わいと
    下町の気分が 映し出されているからさ

    俺は昔の遊び人
    90年代*の男さ                          *1890年代を指しているもの
    あんたがそれを知りたければ
    俺の噂を聞けばいい
    良い時代だったなあ
    今じゃ昔話になったものが未だあった
    俺は本物の遊び人
    昔者(むかしもん)だよ
    90年代の男さ

    俺は良い時代に生まれたんだ
    俺は小銭みたいな身分さ
    金持ちでも貧乏でもどっちでもいい
    いつも俺は落ちぶれたって
    他人(ひと)を羨んで生きることの
    毒は知らない
    運に見放されても
    縮こまったりはしない
    飲むのが好きな人たちの
    古い守り神さ
    邦訳:大澤 寛
    entero 3)清廉な・公明正大な、 意思の固い・気丈な・一徹な
    mezquinar mezquino : ケチな・しみったれた・さもしい、 狭量な 卑俗な
    tosco : 垢ぬけない・洗練されていない・粗野な・教養の無い
    menta : 2) (ラ米)評判・名声、 (pl.)噂・噂話
    ir a menos : (地位や重要度が)下がる・落ちぶれる
    Esa familia ha ido a menos.
    mandar : (ル)でbeber


    大澤 寛
    参加者

    「Suburbio」(場末)
    Letra : Enrique Cadícamo (1900-99)              
    Música : Juan Carlos Cobián (1896-1953)

    帰ってこいよ 昔のタンゴ
    昔のように聴かせてくれよ
    ゆったりとしたお前のリズム
    遠い昔の香りがするよ
    お前の見事な振り付けは
    まぎれも無く エル・モチョ*のものだった
    そしてエル・モローチョ*が 唇に乗せたら
    お前は唄と想いそのものだった
    *El Mocho = 20世紀初頭に活躍したタンゴダンサー カップルを組んだのはLa Brasilera
    *El Morocho = Carlos Gardel のあだ名
    古い場末のタンゴよ
    ここまで来なよ お前の悲しいリズムは
    重くゆっくりした 蛇腹から出たものだ
    場末の幽霊を連れて来るバンドネオンの
    町外れ 深い溝
    愛のもつれの人殺し
    街灯の眼の下で
    ナイフの刃先が光る

    昔のメロディー
    趣のある水彩画
    マルドナドの小川*
    悪い奴らと大騒ぎ
    “鳩のカフェー*”では
    パチョ*がゆっくりした
    バンドネオンで有名だった
    その想いを風が運んで来る
    *Arroyo Maldonado という地名(現在のAvenida Juan B. Justo)
    *多分店主の女性のあだ名がLa Paloma = 鳩だったのだろう
    *Pacho = Juan Maglio “Pacho” 

    邦訳:大澤 寛
    Acompasado : リズミカルな  2.ゆっくりした・ゆったりした
    Pintoresco : 1. 一風変わった・変てこな 2.絵になる・趣のある  3.精彩に富む
    Gresca : 大騒ぎ・騒動  喧嘩
    Brumoso : もやの掛った・ぼんやりした・漠然とした


    大澤 寛
    参加者

    「Sueño de barrilete」(凧の夢)(1960)
    Letra y música : Eladia Blázquez (1931-2005)
    小さいときから 私は 
    あの狂ったような夢を見ていました
    子供の夢でした それは凧になること
    凧になって 希望の風に乗って
    雲の高みに登って行く 登って行く夢
    私はこんな夢の世界で育って
    ただ私の心の声だけを聴いていました
    だけど 人生は玩具ではありません
    夢を見ることなど 一文のお金にもなりません

    私は 凧になりたかった
    理想を高く求めながら 人生ってものは
    食べるために全てを捧げ尽くすよりも
    もう少し値打ちのあるものだと思いたくて
    そして 今でも私は凧みたいなものです
    意地悪な風に 糸を切られた凧
    私は信心が足りなかったのか 
    意志が弱かったのか それは判りません
    多分私には もともと糸が付いてなかったのかも知れません

    幾つも恋はしましたが がっかりするだけでした
    与えるものは与えました 心までは売らないように
    詩も書きました
    人生って より良いものを苦しめて 傷跡をえぐり出す 
    苦い散文でしかないことを忘れて ああ 人生って!
    もう今では 私は この果ても無い退屈さが怖い
    私は 微笑みも理想も 粉々にしてしまった
    凧を見るたびに 自分に問いかけるのです
    あの子供 何処へ行ったのかしら?
    邦訳:大澤 寛

    社会に鋭い批判の目を向けた詩人・作曲家・歌い手であるEladia Blázquezの傑作のひとつ。 原詩にはchicoやpurrete (いずれも子供・男の子の意) が使われているが、作詞・作曲・歌が女性なので敢えて女性の語り口で訳したみたもの。


    大澤 寛
    参加者

    「Sueño de juventud」(若い日の夢)
    Letra y música : Enrique Santos Discépolo (1901-51)

    お前が悩む理由(わけ)は 私がお前のためだけに
    懸命に探し求めている 朝の誓いのようなものが  (この部分のun mañana のunは不明)
    私から遠ざかるからだ

    こんなに私のことを泣いてくれるお前の美しい目が
    ゆっくりとほどいて行く それは星の首飾り

    若い日の夢 それはお前が告げる別れの中に消えて行く
    私が後になって懐かしく思うだろう遠慮がちな思い出なのだ
    それは私が孤独の中で お前の心を優しく撫でながら
    胸に秘めた希望の唄なのだ

    私の哀れな心には判らなくて お前から引き離されるとき
    お前の告げる別れの中に消えるとき 血を流してただ泣くだけ 
    ひたすら呻くだけなのだ

    夢のような初恋 愛の仕草と責め苦 罰と私の目覚めの甘さ
    お前の限りない優しさを 私は揺りかごに入れて唄おう
    昔のお前の姿を 天空(そら)に探し求めながら

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Sueño querido」 (愛しい夢)
    Letra : Mario Battistella (1893-1968)
    Música : Ángel Maffia (1903-71)

    俺は二十歳になっていた
    夢をくれる世界を
    駆け廻りたいとだけ希っていた
    不幸で哀れなお袋は
    悲しんで泣いたが
    夢の翼に乗って 
    俺は家を捨てた
    俺の将来はどうなるだろうかと問うた
    見込みはないと言う人はいたが
    構わずに突き進んだ
    若さの歌に合わせて
    幻滅に出会うことも無く 夢を見ていた
    “だけど 眼が覚めた”

    愛しい夢よ 優しく美しい俺の青春の
    お前は 暗い裏切りに驚かされた
    お前の魔法のような輝きから
    俺に残されたのは 悲しく夢を見る男の 壊れた兜だけだ
    だから 俺の心に あの暗い鐘の音が届くとき 
    俺は祈りたくなる
    愛しい夢よ
    お前の棺を乗せた車が行った
    お前は永久に去(い)ってしまって 戻っては来ない

    おれは真人間(まとも)になりたかったが
    世間の物笑いになる ロマンチックな
    ドンキホーテに過ぎなかった
    友人にも 恋人にも 
    裏切られた
    そして 俺の胸の底には 苦しみが突き刺さっている
    何もかも 夜明けの一番星に消される
    夢に過ぎなかった
    高い空を夢見た あの暗い夜に
    自分を見失いそうになる
    “だけど 眼が覚めた”
    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Sur」(南)
    Letra : Homero Manzi(1907-51)                    
    Música : Aníbal Troilo (1914-75)

    サン・ホアン ボエドの旧い街 そして果てしない空
    ポンページャ その先は豊かな水の流れ(*1)
    思い出の中の お前の花嫁姿の長い髪
    別れの言葉に浮かぶ(*2) お前の名前
    鍛冶屋の角 ぬかるみと草原
    お前の家 小道と深い溝
    そして 再た俺の心に満ちてくる
    野の草とうまごやしの匂い
    (*1) リアチュエロ河を指す
    (*2) 原詩はflorando en el adios とflotando en el adios との二通りに歌われる

    南へ 大きな壁とその向こう
    南へ 倉庫の明かりがひとつ
    お前は 昔の俺を見ることはもうない
    ガラス戸にもたれてお前を待っていた俺を
    夜のポンページャを仲良く歩いた俺たちの姿が
    もう決して 星に照らされることはない
    街の通りも 場末の月も 俺の愛も お前の家の窓も
    何もかも死んでしまったのは もう分かっている

    サン・ホアン ボエドの旧い街 失われた空
    ポンページャ そして鉄道の盛り土まで来ると
    あのとき俺が奪った唇つけのせいで
    愛に震えていた二十歳のお前(*3)
    過ぎ去った物ごとや 人生が運び去った舞台の懐かしさ
    変わってしまった街の嘆き そして壊れた夢の苦さ

             (*3) 「お前がいるようだ」「お前に会えそうな気がする」という気持ちだろう

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Sus ojos se cerraron」(閉ざされし瞳) 映画“El día que me quieras”挿入歌のひとつ

    Letra : Alfredo Le Pera (1904-1935)
    Música : Carlos Gardel (1890-1935)

    あの娘(こ)の瞳は閉じられた
    しかしこの世は何事(こと)も無く
    私のものだった あの唇は
    もう私に唇付(くちづ)けをしてくれない
    良く通るあの笑い声の木霊は消えて
    この沈黙の苦しみは私には耐え難い
    私のものだった あの手の優しい温もりは
    悩む私を慰めてくれた
    そして今 嘆きに沈む私には
    涙も縺れて 流れようとしない*注記参照       
    泣くことで慰められることも無い

    人生は何故 残酷にあの娘の翼を焼いたのか
    死神(しにがみ)の あの気味の悪い渋面(しかめつら)
    私はあの娘を守りたかったが 死神の力に負けたのだ
    私は嘆き 心の傷は深くなる
    やがて見知らぬ人々が 私の傷みを慰めに来るだろう
    みんな嘘だ そんな慰めは
    今あるのは 私の真心だけだ         

    私を裏切る苦しみは あの娘の愛を羨んで
    獲物を追う犬のように 私の後を追って来る
    あの娘の優しい瞳の奥に隠れ潜んだ死神は
    ひそかに時を刻んでいたのだ
    私の熱い願いは空しく 
    死神は 私にその鉤爪を打ちこんだ
    街では 訳の分らぬ叫び声を挙げて
    カーニバルの群衆が はしゃぎ笑い続けていた間に
    運命は 嘲り笑いながら 私からあの娘の愛を奪ったのだ

    邦訳 大澤 寛
    *注 
    この部分の原詩が2種類ある。
    一つが las lágrimas trenzadas se niegan a brotar (代表例 O. Del Priore & I.Amchástegui 「Cien tangos fundamentales」)で、訳すと “涙はもつれて 流れようとしない”
    もう一つが las lágrimas pensadas se niegan a brotar (代表例Eduardo Romano 「Las letras del Tango, antología cronológica 1900-1980」やtodotango に掲載されている歌詞)で、訳すと “泣こうとしても 涙は出て来ない”

     ガルデルがどう歌っているか? 
    1935年のニューヨーク録音ではっきりと trenzadas と歌っているので邦訳にはこちらを採用した。 しかしpensadasの持つ味わい “泣こうとしても・泣きたいのに、、、” は捨て難い。


    大澤 寛
    参加者

    「Tabaco」(煙草)
    Letra : José María Contursi (1911-72)
    Música : Armando Pontier (1917-83)

    お前の声が 闇から響く
    遠くから 俺を咎めるように
    泣いて 俺を呼ぶ声が
    今夜も現れる亡霊たちさえも怯えさせて
    俺は目を閉じている 沈黙の怖さに
    俺の心は引き裂かれている
    俺は自分を未だ許してはいないのだから
    俺がお前に引き起こした不幸の全てを

    もっと強く 前よりもっとずっと強く
    俺の手は お前の優しい手を欲しがる
    もっと強く 前よりもっとずっと強く
    俺はぼんやりしている 
    お前がこれほど近くにも 遠くにも居る気がして
    煙草を吸うと 煙がお前の姿になる
    煙草の香りに お前の匂いがして
    その匂いが俺に語りかける
    お前の忘却と 俺の狂気の隔たりを
    お前は幸せに暮らしていて
    多分今夜は 俺を思い出すかな

    震えながら目覚める 苦しい夢のようだ
    苦しみの菫の花は ちぎられて萎れている
    俺の眼からは涙が滲み出る
    哀れな俺の眼は 沈黙の怖さに閉じたままで
    俺は自分を未だ許してはいないのだから
    俺がお前に引き起こした不幸の全てを
    邦訳:大澤 寛

    とても詩的な内容で、男歌にも女歌にも出来る。男性歌手なら “俺” “お前” で、女性が歌うなら “私” “あなた” という気持ちにすればいい。「お前が(あなたが)俺を(私を)忘れていることと、俺が(私)が狂ったようにお前を(あなたを)求める気持ちとの隔たりの大きさを、煙草の香りで気付かされる」


    大澤 寛
    参加者

    「Tabernero」(居酒屋の親爺)
    Letra: Raúl Héctor Costa Olibieri (1897-1968)
    Música : Miguel Cafre (1881-1936)+ Fausto Frontera (1898-1982)

    喉を焼くような安酒で
    人を馬鹿にする親爺よ
    お前の呪われた毒で
    俺のグラスを満たし続けてくれ
    俺が気狂いみたいに床に転がるまで
    俺のグラスを満たし続けてくれ
    良き友である親爺よ

    俺が酔っぱらって 
    神を穢す言葉やら嘲り笑いやらの
    淫らなタンゴを口ずさみながら
    酔っ払いどもに喧嘩をしかけても
    通りに放り出したりしないでくれ
    良き友である親爺よ
    俺はお前の呪われた毒で酔うことを
    覚えて置いてくれ

    俺は頭では馬鹿にしている心を
    殺したいのだ
    大抵の奴らは酒に酔う
    他の奴らは唇づけに酔う
    俺にはもう色恋はないし
    昔あったのは死んでしまった
    だから俺には親爺の注いでくれる
    酒にしか楽しみはないのだ

    (語り)
        酔っ払いってものは 皆が皆
        酔っ払いたくて呑むんじゃない
        酔うたび毎に心が震えるのを
        判ってくれるのは神様だけさ
        俺のグラス 空っぽだぜ
        注いでくれよ 親爺
        お前の呪われた毒で
        俺は満足するんだ

    俺のグラスを満たし続けてくれ
    俺は他にどうすることも出来ないのだから

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Taconeando」 (響く靴音) 1931
    Letra : José Horacio Staffolani (1898-1968)
    Música : Pedro Maffia (1900-67)

    (1931年のカーニバルにサン・マルティン劇場で催されたダンス・パーティーでPedro Maffia 楽団によって初演されたもの)

    見にお出でなさい、、、
    古い街灯に照らされて
    踊りの場所(*1)がしっかりと(*2)    
    出来上がったのを
    町の衆は全部(みんな)
    あの大きな屋敷の
    葡萄棚の下に
    踊りに集まった
    そして バンドネオンが嘆くとき
    タンゴがひとつ 悲しい歌を聴かせた
    愛を 女を 裏切りを歌う
    悪い奴らと浮気な男の
    血で汚されたミロンガ(*3)を歌う
                         
    全てのしきたりに従って(*4)
    町の衆は去(い)ってしまった
    町の衆が語るのは 多分
    ナイフで出来た十字架(*5)のこと
               
    愛を語っていた
    町の衆は去(い)ってしまった
    そしてあの靴音も
    消えてしまった

    誰が感じないでいられただろうか
    心を動かす靴音を
    バンドネオンが泣いて呼び起こす
    あの情熱を
    下町の粗っぽいタンゴを
    悲しい音色を
    愛の祈りの中で
    やくざな男が夢見る恋の中で
    揺れ動く音色を
    その歌を
    我々が 多分 身の奥に
    心の一番深いところに秘めている
    情熱を吐きだすとき
    その恋の動機(ときめき)で肉を噛むその歌を

    邦訳:大澤 寛
    (*1) bailongo には“踊り手”の意味と“踊る場所”の意味がある。ここは後者を採る
    (*2) en su ley 固有の・伝統や習慣に従って  やや意訳だが “しっかりと” として置く
    (*3) このmilonga は踊る場所
    (*4) con toda su ley ここも(*2)と同じく ley はreglas, formas, costumbres 規定、規範、習慣などを指す
    (*5) cruz del puñal 刃傷沙汰があったことを指す。
    古くは剣で十字架を象っていた。ここは決闘などで切り結ぶことを示唆しているのだろう

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