大澤寛のタンゴ訳詞集

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  • 大澤 寛
    参加者

    「Al compás del corazón」 (1942)(心のリズムに合わせて)
    Letra :Homero Aldo Expósito (1918-87) Música : Domingo Federico (1916-2000)

    心臓が脈打っている
    打たせて置け
    俺の夢が嘘をつく
    俺にも嘘をつかせろ
    心臓が脈打っている お前に再た会えるのだから
    俺の夢が嘘をつく お前がゆっくりと帰って来るから
    心臓が脈打っている
    お前が別れを連れて帰って来るのに会うのだと思う

    戻って来たらお前は お前の恐れと
    過去と 苦しさと 望郷(ノスタル)の(ジ)念(ー)を叫び出すだろう
    しかし最後に声を低くして
    距離が離れていることへの お前の不安を封じ込めるだろう*
    そして “何と幸せ!”と言うときに
    何故 心臓が脈打つのか 判るだろう
    そしてリズムが 愛のリズムが
    永久に 別れと結び付くだろう

    もう判るだろう なあお前
    お前がどれほど幸せになるか
    あのリズムが聞こえるか?
    それが心臓なんだ
    もう判るだろう 帰って来るときの時間がどれほど甘いものか
    もう判るだろう 後悔と唇付けがどれほど甘いものか
    もう判るだろう なあお前
    心のリズムに合わせる時間が どれほど幸せなものか

    邦訳:大澤 寛

    *Y atarás tu ansiedad de distancias この1行は難解


    大澤 寛
    参加者

    「Al pie de la Santa Cruz」 (1933) (十字架に膝まづいて)
    Letra : Mario Batistella (1893-1968)
    Música : Enrique Delfino (1895-1967)

    ストライキが宣言された
    人々は飢えている
    仕事は辛く
    労賃は安い
    血を流す騒乱の中で
    雇う側を守る法律は
    一人の男を逮捕する

    男の親たちは知らない
    男に罪の宣告があったのを
    哀れな男の妻が 親たちを思って
    嘘をついているから
    奇跡が起きれば
    男は無罪になるだろう
    そして男の家に 昨日の幸せが
    戻って来るだろう

    その一方で
    キリスト像の足元で
    悲しみにくれる老いた母親が
    泣きながらキリストに訴える
    “あなたのその聖い傷にかけて
    私の悩みと苦しみにかけて
    私たちの息子にお情けを
    主よ 息子をお守りください” と

    そして老いたる父親も 祈ることさえ出来ずに
    老いた妻と共に 震える声で訴える 
    “私らは これほどの苦しみを受けるような
    どんな悪いことを あなたにしましたか” と
    老いた妻は言う
    “主よ 息子をお守りください” と

    男は足を縛られて
    囚人を運ぶ船に乗る
    男の妻はそれを見て
    叫び出したくなる
    腕に抱かれた幼子は
    泣きながら叫ぶ
    “パパを返して”
    繋いだロープが解(ほど)かれて
    船が岸を離れる時
    最後の綱が大きく揺れた
    呪われた船が視界から消えて
    哀れな男の妻は
    気を失って倒れる

    邦訳:大澤 寛

    jornal : 日給・日当
    entrevero : 混乱・入り乱れ、 乱闘、 騎馬戦
    llaga : 潰瘍、傷、外傷、創傷   (心の)傷、痛手
    a la par : 一緒に、同時に
    engrillado : engrillar = 足かせをはめる、自由を奪う、拘束する
    planchada : (海)浮き桟橋、船に乗るために岸壁・地面などから船に掛ける橋  
    amarra : (海)船舶用のロープ、 係留綱、 もやい綱
    cabo = cordel (海)綱・ロープ


    大澤 寛
    参加者

    「Alguien」 (1956) (誰か)
    Letra : Eugenio Majul (1921-) Música : Héctor Stamponi (1916-97)

    塩だったのか? 蜜だったのか? 何だったろう?
    お前の唇付けに魅せられた俺の口に
    満たされたものは
    塩だったのか? 蜜だったのか? 分からない
    俺たちの仲は 壊れたのだ
    石膏の偶像のように!                            注:fetiche は「Afiche」の注 1 を参照
    二人が神に召されると思うと辛い
    時は流れる
    祈りのように短く!
    愛して  悩んで  彷徨って
    本当の愛を見つけることもなく
    待つことにも飽きて

    街でお前の暮らしを知った
    お前は独りで 傷ついて暮らしていた
    何故俺はお前を愛したのだろう! 分からない!
    多分俺は 誰かの中に自分を見つけたかったのだ
    誰かに 俺を愛してくれそうな誰かに!
    誰かに 俺を信じてくれそうな誰かに!
    とある街角で お前は不幸を背負って歩いていた
    俺はお前を愛した 宿命の愛だった

    もう分かるだろう つい近頃 お前と俺とは
    あのチュールを引き裂いたのだ
    悲しく虚しいあのチュールを
    もう分かるだろう つい先頃
    青い蝶が飛んだ
    青春を捨て去るのは 無様で残酷なことだ
    そして人生の黄昏に 白い二つの手を探すことも
    生きる  夢見る  感じる
    足元に泥が迫っているのを
    その泥に 足を埋めるのを!
    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Alma de bohemio」 (1914)(ボヘミアンの心)
    Letra : Juan Andrés Caruso (1890-1931) Música : Roberto Firpo (1884-1969)

    俺は 彷徨い 夢見る男
    歌いたい 俺の夢を
    俺の心の 狂った詩(うた)を
    愛と喜びに満たされて
    俺の情熱をぶちまけよう

    いつも俺は感じた
    生きていることの 甘い喜びを
    情熱を
    俺が 夢を生きているのなら
    俺の歌う歌の全てを 夢見る
    だから 俺の喜びは愛
    俺の 哀れな彷徨い人の心は
    愛することを求め
    花のように匂いたがる

    俺の悲しみの夜には
    星たちと語ろう
    そうすると 美しいものを
    覚めながら 夢見ることが出来る
    俺の 愛の渇きの全てを
    星たちに告げるのだから

    いつも俺は感じた
    生きていることの 甘い喜びを
    情熱を
    俺は探す 星たちの眼の中に 
    黒の濃い髪に 真実の情熱と
    甘い想いを
    俺の 夢いっぱいの哀れな放浪の暮らしに
    俺の心の全てを任せるのだ

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Alma de payaso 」(道化師の魂)(1930 ?)
    (L) Antonio Pérez                       
    (M) Raúl Saraceno

    厚い化粧の裏側に しかめっ面も隠してる
    お前の胸であんなにも 悶え苦しむしかめ面
    狂ったような高笑い それはお前の嘆き節
    お前の笑顔とお客の拍手 みんな一緒に鳴り響く
    お前の瞳に張り付いた それら全てがひとつのドラマ
    お客の誰にも判らずに お客は判る由もなく
    道化は笑いのためにあり ただ喝采を受けるだけ
    お前の心の悩みなど 他人(ひと)に知られることもなく

    道化の心よ 判らぬか
    嘆きはこぼれる花のよう お前の夢と同じこと
    さあ笑え 道化よ それがお前の仕事
    心がお前を泣くとても 何の変わりがあるものか

    お前の頬をつたうのは 人目忍んだ涙の滴
    お前の赤子が死んでゆく それがお前の憑かれた思い
    そしてお客は手を叩き 笑い叫んで騒がしく
    お前の嘆きの大きさを 知っているのはお前だけ
    そんな捩じれた思いの中で 心を殺す術(すべ)を知る
    心は狂い壊れてしまい まもなく叫び出すだろう
    お前の喉を締め付ける あの結び目の大きさに
    お前はもっと笑うのだ 泣くことなどは許されず  
    邦訳:大澤 寛

    サーカスやそこで働く道化師・ピエロを扱ったタンゴも多い。
    「Amor de payaso」(道化師の恋)「El circo y los payasos」(サーカスとピエロたち)「Rie, payaso」(笑え、道化師)「Rie, payaso, rie」(笑え、道化師、笑え)等など。


    大澤 寛
    参加者

    「Alma del bandoneón」 (1935) (バンドネオンの心)
    Letra : Enrique Santos Discépolo + Luis César Amadori(1902-77)
    Música : Enrique Santos Discépolo (1901-51)

    俺はお前に嫌気が差した
    お前の言うことが判らなかったし
    お前の悩みも理解出来なかったから
    俺はこんな気がしたんだ
    お前の無情な歌が バンドネオンよ
    お前の悩みを奪い去ったと
    俺はようやく判ったぜ
    お前が呻くとき お前を苦しめている
    あの絶望のことを
    お前は 死ぬ前に
    蝶になりたかった毛虫なんだ!

    お前の声だったんだ バンドネオンよ
    お前の呻きの中にある あの挫折の嘆きを
    俺に打ち明けたのは
    暗い人生の底で 許しを受けることは無く
    飛ぶことを夢見て 
    その夢を泣きながら引き摺るものの声だった

    お前と同じに 俺も夢見た
    お前と同じに 俺も生きた
    望みに辿り着くことはなく
    バンドネオンの心よ
    俺の中に引き摺っている心
    不幸と愛の声で
    死ぬ時はお前を探そう
    別れにお前の名を呼ぼう
    お前に許してもらうために
    そしてお前を腕に抱きしめ
    粉々にした俺の心を
    お前に渡すために
    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Alma en pena」 (1928)(悩む心)
    Letra : Francisco García Jiménez (1899-1983)
    Música : Anselmo Alfredo Aieta (1896-1964)
    時は過ぎたけれど 
    それでもあの娘(こ)の思い出も
    優しさも消えない
    あの娘の手紙が残っているから
    泣きながら何度も読んで
    汚れて色があせた手紙が
    そうだ 俺はあの娘に忘れられた!
    そして今 あの娘の家の前で
    満足気なあの娘の声を聞いている
    あの娘の笑顔を思い浮かべている
    そして あの娘が他の男に 
    嘘をつくのを聞いている
    俺についたのと同じ嘘を
    心よ 苦しみに迷う心よ
    あの娘の家の門に近づいて
    泣いてあの娘に請い希うのだ
    なあ お前を気楽にしている忘れる術(すべ)のかけらを
    俺に呉れとお前に求めても 勘弁しろよ
    お前は俺に愛を教え 俺は愛を知った
    愛を知ってしまったことで 愛に殺されることも
    そして お前を憎むことまで学ぼうとしている俺だが
    只ひとつ学び切れないのは お前を忘れることだけだ
    再た聞こえるあの娘の声は 
    昔は俺のものだった
    だけど今日 あの娘の家のバルコニーの下で
    倒れて死んでゆく
    哀れな俺の心が聞くのは 
    空しい木霊だけなのだ
    俺が悪態ついたあの声が 今 別の男に
    恋の栄光を約束しているのが聞こえる
    俺は眼を閉じる 
    俺の心が拾い上げるのは 
    愛の施しものだ                       邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Almagro」 (1930) (アルマグロ 街区の名前)
    Letra : Antonio Timarni Música : Vicente San Lorenzo

    思い出すなあ 懐かしい町よ
    あの子供の頃の日々
    私が生まれたところ
    正直に生きろと教わった揺り籠
    心の町よ お前の街角で
    私は青春を楽しんだ
    愛の夜を過ごし
    若い情熱で夢を見た
    花に囲まれて泣きもした
    想い出は 何と悲しいことか!
    心が痛む
    私のアルマグロよ
    今 私はひどく病んでいる!

    アルマグロよ 私の命のアルマグロ
    お前は 私の夢の真ん中に居た
    月の出た 安らかな夜を幾たび
    お前に守られて 愛を知ったことか
    アルマグロよ 粋な若者たちの輝く町
    恋の詩の生まれるところ
    私の髪は白くなり
    喜びは もう去って行った
    陽の光が過ぎ去るように

    意地悪な時が 私の背中を丸くした
    私の微笑みも 冷たいものになった
    私は老いて 疑いと孤独を一杯に詰めた
    荷物のようだ
    私のアルマグロよ みんな無くなってしまった
    残っているのは 昔あったものの燃えかすだ
    心の恋人
    尽きない愛のアルマグロよ
    私はそこで生まれ そこで死ぬのだ
    アルマグロ 優しい町
    お前に私の心を置いて行く
    私の愛の想い出に

    邦訳:大澤 寛

    poema は個々の詩作品 poesía はジャンルとしての詩
    ceniza : (主に複数形で)遺骸・遺灰


    大澤 寛
    参加者

    「Altar sin luz」 (灯の無い祭壇)(年代不詳)
    Letra : Iván Diez (1897-1960)
    Música : Guillermo Vilar (1919-)

    木の葉が黄ばんで来たら
    私はあなたに 夢の日射しで 城をひとつ作ろう
    それはあの日の午後 あなたに約束したこと
    あなたの夢に 星を与えながら
    小道に 秋の色が深まり
    私は好きなあの公園に 心地よく辿り着いた
    浮き立つ心で口笛を吹きながら 幾晩も待った
    あなたに会うことも 声を聞くこともなしに

    あの意地悪な 運命を決める夜が
    私の不運を嘲りながら
    私を あの公園から遠ざけた
    影が 嘆きの声をあげて
    私に あなたの冷たい仕打ちに
    気付かせてくれた

    私はあなたの名を呼んだ
    あなたのいないことを嘆いて泣いた
    純粋な愛を無邪気に信じていた
    “青春の夢をあなたはどうしてしまったのか?”
    私の祭壇には もう灯(あかり)はなくて
    あなたの別れの言葉を眠らせるばかり

    木の葉は全て黄色に染まったけど
    あなたは来なかった どうしてなのか
    私の歌の全てを
    あの公園で あなたに差し出した
    私の心の鍵を

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    Amar y callar (1972)(愛と沈黙)
    Letra y Música : Nelly Omar (1913-) + José Canet (1915-84)

    いつまでも俺の命はお前のもの
    いつまでも俺の命はお前にやる
    そんなことは出来っこないと言われても
    いつまでも俺の命はお前にやる
    海辺に唇づける波のように
    花に唇づける微風(そよかぜ)のように
    お前が何処へ行こうと
    俺は必ずお前を愛して 
    お前の悩みを和らげよう

    お節介な誰かが お前に
    俺を愛しているのかと尋ねたら
    口では違うと言えよ 俺なんかを愛してはいないと
    だけど心の中では繰り返してくれ 愛していると
    だけど心の中では繰り返してくれ 愛していると

    こうした愛のもつれの中へ 二人はいつも
    二人の間の秘密を隠し持って行った
    俺が悩んでいるかいないかを 誰にも知られないように
    惚れているのが誰なのかを 誰にも知られないように
    心の奥にしっかりと隠しているのが とても素敵なことだから
    お前に対するこの俺の愛を
    深い悩みであるこの俺の愛を

    邦訳:大澤 寛

    この歌は「Que nadie sepa mi sufrir」(知られたくない私の悩み)に何となく似ている気がする。


    大澤 寛
    参加者

    「Amargura」 (1934)(苦い思い出)
    Letra : Alfredo Le Pera (1904-1935)                   
    Música : Carlos Gardel (1890-35)

    あの娘(こ)が笑う唇が 容赦なく俺に付き纏う 
    あの残酷な思い出が 眠れぬ俺を待ち伏せる
    俺のこの目で見たものは カーネーションの赤色の
    あの娘(こ)の赤い唇が 彼に捧げた唇(くち)付けだ

    狂気を運ぶ風が吹き 俺の心を通り過ぎ
    苦しみに 打ちのめされたこの俺は
    復讐したいと思ったが 俺の両手は打ち震え
    心は両手を押し留め 笑うあの娘の唇を
    殺すことなど出来なんだ

    つかの間のあの娘の愛が
    俺の幸運(つき)の全てだった
    俺の喜びを野原や月に告げた
    あの娘を愛する喜びを
    あの娘を信じる喜びを
    今日俺が歩く足跡には
    涙と嘆きがあるばかり

    苦しんで 打ちひしがれて 俺の古傷が血を流す
    もう一杯飲もう 俺は忘れたい
    だけど 愛と幻滅のこの深い傷は
    しぶとい雑草のように根こそぎにするのは難しい

    グラスの底から あの娘の面影が俺に付き纏う
    いつも変わらぬあの娘の笑いは 俺を咎めているようだ
    浮気で情の無い あの娘の唇が 俺を鎖に繋ぎとめる
    あの恩知らずがグラスの中で 死ぬまで俺を揶揄(わら)っている

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Amarras」 (1944)(もやい綱) 
    Letra y Música : Carlos Marchisio(不明) + Carmelo Santiago (!915-93)

    俺はさ迷い歩いてる
    Recova の寒い空の下
    嘆き苦しむ影のよう
    どんなに思い返しても
    何も残らぬ俺の身は
    岸に繋がれ濡れそぼつ
    石炭運びの船のよう
    俺も過去(むかし)に繋がれて
    錨下ろした船なのだ
    俺の身をあの娘(こ)が繋いだもやい綱
    獣の爪か 鉤爪か
    二度と帰らぬあの頃を
    嘆いて俺は夢見てる
    二度と帰らぬ唇づけを
    岸に繋がれそのままに
    もう船出することのない
    石炭運びの船が俺

    もう愛されぬと気が付いて
    俺が失くした唇づけは
    慄く俺には悩みの責め苦
    今の俺には何もなく
    ひたすら思い知ることは
    悩み躓き 不幸が待つ
    奈落へ転げ落ちたこと
    ひたすら思い知ることは
    お前が告げたさよならは
    俺を嘲る苦しみで
    いつも足元について来る
    お前はもはや戻らぬと
    知りつつ俺はさ迷い歩く
    Recova 辺りをあてもなく
    遠く旅立つ理由(わけ)を探して
    こうして俺は憑き物を落とし
    お前から離れて 死ねるだろう
    それでもお前の思い出は
    過去(むかし)に繋がれ生きている
    俺を鎖につなぐのだ
    錨を下ろした船は俺
    苦しみを終わらせるのも
    不幸な運命(さだめ)に別れるのも
    死ぬことだけと判ってる
    深い憂いに包まれて
    暗くて寒い夜を行く
    俺の身をあの娘(こ)が繋いだもやい綱
    獣の爪か 鉤爪か
    酷い嘆きに包まれて
    慰めなどは何もなく
    わびしい心を道連れに
    俺は独りで去ってゆく
    岸に繋がれそのままに
    もう船出することのない
    石炭運びの船が俺

    邦訳:大澤 寛


    大澤 寛
    参加者

    「Amor de payaso」 (1931 ?)(道化師の恋)
    Letra y Música : Antonio Sureda (1904-51)

    哀れな道化よ 笑いなよ 作り笑いをみせながら
    見ろよ お客は料金(かね)払い 笑いたくって来てるのだ
    お前の心はばらばらに あとで楽屋で泣いたって
    誰も気になどしないのだ
    可笑しな色を塗りたくられて お前の顔は照(ひか)ってる
    見ろよ お客は待ちくたびれて 舞台もお前を呼んでいる
    哀れな道化よ 泣くんじゃないぞ
    判るだろう お前が泣くのはみっともない

    そして楽屋で あの道化
    とうとう想いを吐き出した 辛いみじめな胸の内
    胸は悩みで塞がれて そして再た読むあの手紙
    あの娘が書いた白い紙 

    “私の道化よ さようなら もう愛してはおりません
    私は 私の愛を連れて 安らぎを求めて立ち去ります”

    読み終えて 涙がふた筋 頬を伝う
    笑おうとする顰め面 膝まづいては祈りを捧げ
    実らなかった恋の相手の 写真を傍に引きよせて
    仲間は古いトランクだけか 腰を下ろして鏡に向かい
    道化は気持ちを取り直す
    そしてその夜のサーカスは 愛を求めた道化のために
    悲しい嘆きを泣いたのだ

    邦訳:大澤 寛

    この曲と同様にpayaso (道化師・ピエロ)を歌ったものには「Alma de payaso」(道化師の心)「Ríe, payaso」(笑えよ、道化)などがある。


    大澤 寛
    参加者

    「Amurado」 (1927)(捨てられた男)
    Letra : José De Grandis Música : Pedro Maffia + Pedro Laurenz
    ふと見れば 俺のベッドは荒れている
    その部屋にある小さな絵は 想い出の中に残るだけ
    古い衣装と古傷と そして苦しむ俺の心
    あの娘(こ)はここから出て行った
    残っているのはこれだけだ
    今でも俺を苦しめる 
    とても寂しい昼下がり 荷物を纏め 俺を捨て
    出て行くあの娘を見つめては
    俺は何にも言わなんだ 恨みつらみは言わなんだ
    みな終わった!と思ってた

    今もし俺を見るならば 
    俺は白髪で年老いて
    暗い孤独のせいだろう                                                                                                                                                                                                                                                      
    余りに醜(ひど)い気まぐれが
    俺を襲って来るからだ
    俺が安らぎ求めては
    安い酒場へ向かうのは
    注1fulero はfeo と同じ意味で“醜い”“ひどい”
    注2berretín はラプラタで“熱中”“頑固”“気まぐれ”
    俺の持つ苦い不幸を知っている
    小さな部屋よ驚くな 俺の独り言に驚くな
    それほどに俺の悩みは深いのだ
    あの娘の愛も慰めも 優しさも俺には無いのなら
    この年齢(とし)の俺に何が残る
    俺の人生はあの娘の愛にあるのなら
    苦しみ悩み声も無く 幾夜彷徨(さまよ)い歩いても
    想い出してる昔には 女も夢もあったのだ
    酔ってることは判ってる ひどい恥だと言うことも
    それでも俺は連れて行く 哀れな俺の心を
    もっと深い酔いの中へ
    邦訳:大澤 寛
    タンゴには女に捨てられて嘆き、酒に憂さを晴らす男の歌が圧倒的に多い。このカテゴリーはこれからどんどん出てくる。


    大澤 寛
    参加者

    「Anclao en París」 (1931) (パリに繋がれて)
    Letra : Enrique Cadícamo (1900-99)                       
    Música : Guillermo Barbieri (1894-77)

    さすらい人の暮らしに浸って
    俺は ブエノスアイレスよ 
    不運続きで銭(かね)がなく パリに根を下ろしている
    こんなに遠いところから お前を想い出している
    通りに面した俺の部屋の窓から
    柔らかく降る雪を見つめている
    赤みがかった消えそうな街灯は
    不思議な眼差しの瞳に見える

    遠いブエノスアイレスよ 綺麗だろうなあ
    俺が船で旅立ってから もう10年になるぜ
    ここで このモンマルトルの センチメンタルな下町で
    その短剣(ナイフ)で 想い出が釘付けにされているのを感じる

    コリエンテス通りは どんなに変わったかなあ
    スイパチャも エスメラルダも お前の下町も
    誰かに聞いたよ お前は華やいでいて
    斜めに交差する街角もあるって
    俺がどれほど お前に会いたいか 判らんだろうなあ
    この土地で俺はうらぶれて 銭(かね)も無く 明日の望みもなく
    いつか或る夜 俺が死ぬことは 誰にも判らない
    ブエノスアイレスよ もうお前に会うことはない

    邦訳:大澤 寛

    Errante : さすらう・放浪する   judío errante
    Bandear : (ラ米)横切る(=pasar, atravesar)、貫通する
    Apremio : 欠如・逼迫(=penuria)、 督促・催促、 (法的な)強制・令状
    Rojizo : 赤みがかった
    Faubourg : (仏)場末、(パリ等の大都会で)昔城郭外にあった地区
    Puñal : 短剣
    Dares juego (dares el juego) : suceder, ocurrir, producirse algo
    Darse juego de buena suerte / darse el juego de garufa
    En diagonal : 斜めに
    Varado/a : (ラ米)職にあぶれた・金づまりの
    Varar : 座礁する、 投錨する、 行き詰まる・頓挫する
    Encanar : (泣き過ぎて・笑い過ぎて)息が詰まる  (ラ米)刑務所に入る

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