大澤寛のタンゴ訳詞集

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    「No me pregunten por qué」(俺に訊くなよその理由(わけ)を)
    Letra : Reinaldo Pignataro (-1947)
    Música : Carlos Di Sarli (1903-60)

    仲間たちよ
    近頃 夜になって
    狂ったように ふらつきながら
    涎垂らして 独り言
    俺がカフェに入るのを見ても
    俺に訊くなよ その理由(わけ)を
    酔ってるんだ
    髪はぼさぼさ ネクタイは
    緩み解(ほど)けて 恨めしそうな
    俺に訊くなよ 仲間たち
    酔って入って来た理由(わけ)を
    ただ憐れんで欲しいのだ

    素敵な瞳の輝きに
    俺の心も信心も
    ただ酔い痴れていたものだ
    唇付けの 蜜の杯(グラス)に
    ほんの昨日(まえ)まで この俺は
    ひたすら熱に浮かされて
    今日は再び闇の中
    愛の光を恋い焦がれ
    己を消してしまいたい
    だから俺には酒が要る

    仲間たちよ
    近頃 夜になって
    狂ったように ふらつきながら
    涎垂らして 独り言
    俺がカフェに入るのを見ても
    俺に訊くなよ その理由(わけ)を
    酔ってるんだ
    甘くて温い安酒が
    くれる安らぎに遁れつつ
    昨日まで 俺に輝く星だった
    今日は死ぬほど苦しめる
    あいつを忘れられるだろう
    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「No nos veremos más」 (もう会うことはない)
    Letra : Alfredo Navarrine (1894-1979)
    Música : Lucio Demare (1906-74) +A.Irusta (1902-87) + R.Fugazot (1902-71)

    晴れやかな笑顔を作って
    別れることも出来る
    人生の全ての夢が死ぬのを
    見ていることも出来る
    二人を傷つける悩みを
    声を殺して 噛み締めることも
    その後に来る 別れも
    薔薇園の心が死んで行くのも

    もう一度 口付けが欲しい
    これでもう 会えないと思うから
    霧が晴れても 夢は
    もう決して帰らない
    二人の間の暗闇は
    激しい悩みが晴れぬから
    愛は互いに刺し抜かれ
    全ての星の光りの箭に

    今 運命は二人を
    異なる径に差し招く
    忘れ得ぬ愛は
    泣くことも出来ず
    もう一度 口付けが欲しい
    これでもう 会えないと思うから
    霧が晴れても 夢は
    もう決して帰らない

    邦訳:大澤 寛

    Cerrazón : 4.(ラ米・ラプラタ)霧、 1.一面に広がった暗雲・黒雲、2.愚鈍、頑固・強情
    Tornar : = devolver, regresar,
    En cruz : 十文字型に・交差して、  両腕を広げて、 胸の前で両腕を十字型に合わせて
    Puñal : ドス・匕首・短剣

    匿名
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    「No nos veremos nunca」(二度と逢瀬のないふたり)
    Letra : Carlos Waiss (1909-1966)  
    Música : Juan D’Arienzo (1900-76)

    まるで光の箭のように 俺の暗い人生で
    どうしてあれほど早くお前を失ったのだろうか? 
    どうしてだ?
    お前の跡を追って さすらうことに疲れたが
    それでもお前には会えない
    哀れな盲いた俺の眼が お前を探しに行こうとする
    暗闇の中で泣きながら お前の名前を呼んでいる
    まるで光の箭のように 過ぎた後には俺の背中に
    大きな十字架の重みを 背負わせるだけ

    俺の胸には 気懸りがひとつ
    苦しげに俺に告げるのだ
    打ちのめされるあの言葉
    “私たちもう二度と会えないわ”
    それは俺に教えている 俺の運命の中で
    沈黙は死の世界 昨日が俺にくれる答えだと
    それは 夜の闇の中で繰り返す
    咎めの味のする木魂
    “私たちもう二度と会えないわ”
    それは怯える過去なのだ 戻って来ては俺に言う
    “行っちまったぜ”と

    まるで光の箭のように 女の名前がひとつ
    昨日の青空を噛み切るように
    なんて短い時間だったことか しかしそこで俺は
    お前に命を捧げた 命と一緒に祈りさえも
    俺の叫びにも俺の足音にも 答えるものは沈黙
    それは多分 お前を腕に抱くのを運命が認めてないのだろう
    まるで光の箭のように 過ぎた後には俺の背中に
    大きな十字架の重みを 背負わせるだけ

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「No salgas de tu barrio」 (お前の町から出るんじゃないよ)
    Letra : Arturo J. Rodríguez Bustamante (1890-1962)          
    Música : Enrique Delfino (1895-1967)

    下町の可愛い娘さん
    小さな灯油の灯の下の
    お針子の仕事をやめないでね
    お袋さんを見捨てないでね
    あんたの街角も 安アパートも
    あんたを好きな あのとても気のいい男の子も

    浮気な恋は捨てなさい
    バンドネオンの音色に乗せて
    お前にきざなことをしかけて来る
    見せかけだけの恋人たちを

    あんたの町から出るんじゃないよ 言うことを聞いて 娘さん
    結婚するんだよ あんたと似たような男と
    そしたら惨めな暮らしをしても 苦しみに勝てるようになる
    そしてすぐに 神様があんたを助けてくれる日が来るよ

    わたしもねえ 娘さん あんたみたいに
    昔は綺麗で 好い女だった
    つつましく あんたみたいに 工場で働いたものさ
    そんな私を認めて 優しく愛してくれていた恋人を捨てたのさ
    ポマードで髪を撫でつけて あたしをキャバレーに連れて行った男のせいで
    そいつはあたしに 悪いことを全て教えたのさ
    あたしの夢を踏みにじって あたしをねえ 娘さん
    こんなぼろ屑にしてしまったのさ

    邦訳:大澤 寛

    Costura : 針仕事・裁縫
    Kerosén : = kerosín 灯油
    Conventillo : 共同(集合)住宅・安アパート
    Berretín : capricho, fantasia
    Rezongo : Dícese del sonar lento y cadencioso del bandoneón en la interpretación de un tango (ス)不平・不満・愚痴、  非難
    Chiqué : ostentación, alarde afectación = 見せかけ・装い・気どり・きざ
    Pisotear : 踏みつける・踏みにじる、   (法律などを)無視する・犯す

    匿名
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    「No te engañes, corazón」(騙されちゃ駄目だぞ 心よ)
    Letra y música : Rodolfo Sciamarella (1902-73)

    騙されるままになってちゃ駄目だぞ、お前
    あいつの愛にも あいつの嘘にも
    忘れるなよ あいつが女だってことを
    生まれた時から 騙すのは上手いんだ
    泣くのも嘘 笑うのも嘘
    悩むのも 愛するのも みんな嘘
    偽りの愛を誓うのも嘘
    騙されるなよ お前

    俺は辛くなる
    お前があいつと腕を組んでるのを見ると
    あいつは俺を振ったのだから
    お前を振らないわけがない
    俺の言うことを聞けよ
    古い友達の俺が良い忠告をするんだ
    あいつから離れろ そしたらうまく行くだろう
    多分あいつは泣いて 自棄(やけ)になって
    お前を愛してると言うさ 女の古い術(て)だ
    信用するなよ
    あいつがお前を愛するわけがない
    あいつは昔 死ぬまで俺のものだと誓ったんだ

    騙されるままになってちゃ駄目だぞ、お前
    あいつの愛にも あいつの嘘にも
    忘れるなよ あいつが俺のものだったことを
    いつかお前は後悔するし 悩みに悩んで泣くことになる
    お前の愛なんて 他人(ひと)から笑われるさ
    忘れるなよ あいつが女だってことを
    言いくるめられてちゃ駄目だぞ

    思わないでくれよ
    俺がこうしてお前に話すのは お前を羨ましがってるからだとか
    あいつから受けた仕打ちを恨んでのことだと
    よく判るだろう
    俺は羨ましがってはいない 俺は真っすぐな人間だ
    いつもそうだったように

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「No te quiero más」(もうお前を愛さない)
    Letra : Juan Antonio Estape (1899-1957)                
    Música : Juan Bauer (1897-1952)

    もうお前を愛しはしない 会うこともない 
    俺は遊びに耽るんだ もう別の恋人が居るんだ
    人生ってのはそんなもの そんな人生をどうするんだ
    これ以上悩むのはご免だよ 女のせいで

    もう俺は気にしない お前がどんなに騒ごうと
    お前の愛は金次第だと言っても
    お前が明け方にやって来て“あれは友達なの 
    ついて行かなきゃいけないの”って言っても
    すっかり忘れてしまいなよ 俺が居たことなんか
    大騒ぎしてキャバレーに行ったら そこで俺に会うだろう
    お前を愛することはできないと いつも考えている俺に

    もうお前を愛しはしない 昔 愛したようには
    何処へ行ったか判らんよ 昔の俺の気まぐれは
    俺の幸せが戻って来る 今 俺の心は静かだなあ!
    もうひとを愛することはないから
    なあ お前はとても悪い道を歩いているよ
    しまいにはお前を破滅に導く道を
    “悪に染まれば末路は哀れ”
    お前の運命がお前を目茶目茶にする お前の哀れな心を
    いつかお前は愛に泣くことになる お高くとまって見捨てた愛に
    昔お前を愛してたけど 今はもう愛さない男のことを
    考えることもなく

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「No tengo la culpa」(俺のせいじゃない)
    Letra : Artulo de la Torre (1929- )
    Música : Carlos Olmedo (1921-76)

    判ってるさ 酔ってるよ 酔って帰って来たんだ
    黙っててくれ 理由(わけ)を言うから
    俺は根無し草で 酒が好きなんだ
    酒と バンドネオンが泣かせるタンゴが

    俺が身を持ち崩しているのも 俺のせいじゃない
    人生に弄ばれて 夢を失くしたのも
    愛を殺して 街をほっつき歩いたのも
    判るだろう 俺は花の咲かない木の実なんだ

    これで行ってしまうけど 俺の帰りを待つなよ
    どこかの立ち飲みバーの カウンターにもたれて
    タンゴを口ずさみながら 大ぼらを吹いて
    やがて人生に別れを告げるのさ            de a poco = lentamente

    お前が良い女なのは判ってるさ 泣いたり悩んだりするなよ
    行かせてくれ お前には運が付いている 
    星が一杯の空は綺麗だぜ
    俺は地獄へ行く そこでは酒を売っている
    皆が俺を待っている 飲み代は払ってある
    悪い方に引っ張られるのが俺の癖だ
    馬鹿騒ぎを続けろと 俺の血が騒ぐんだ
    全部 殆ど残さないで カーニバルは過ぎて行く
    邦訳:大澤 寛
    escabio : (L) bebida alcoholic (n) ebrio, borracho
    estaño : mostrador en el que se toman bebidas alcohólicas, de pie,
    que eran corrientes en los bares antaños
    canturreo : 鼻歌、ハミング
    bolazo : (L y L.P.) : mentira grande
    batir : (L) decir, contar, referir algo
    farra : diversión, orgía
    “Quien no gusta del vino tiene otros peores vicios”

    匿名
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    「Nobleza de arrabal」(下町の心意気)
    Letra : Homero Manzi (1907-51)                          
    Música :Francisco Canaro (1888-1964)

    Alsina にある私の小さな農場には
    私の一生の住み家がある
    シナシナ* の囲いと藤の回廊がある *Cinacina : 南米産の灌木で黄色と赤い花をつける  マメ科
    薔薇色になった葡萄の棚の下には
    色を塗った水溜めがある
    そしてミモザ色の椿が
    井戸の縁石の上で揺れている
    そしてそこにはフリソン*もいる *Frisón : フリジア産の馬、足が大きくて強い
    あいつは私の贅沢な引き馬なのだ
    この辺りでは有名な 
    青いたてがみの私の愛馬*          *Rocín : やせ馬、 (ラ米・特にアルゼンチンで)乗馬用の馬
    日曜日に太陽が差して来ると
    することも無い私は 井戸からバケツで水を汲んで
    回廊に水を撒き ひんやりすると 藤棚の下に座って
    ギターを弾きながら 愛の唄*を歌う *Décimas : 各行が8音節の10行詩

    Alsina にある私の小さな農場では
    私は静かに時を過ごす
    私を慕い 私のことが大好きな
    愛しい女性の愛とともに
    その愛と 私の運命の全てを取り巻くものたちの間で
    私が ひたすら恐れるのは 
    この農場の片隅から 死が私を連れ去ること

    訳:大澤 寛

    Rancho : (ラ米)農場
    Cerco : 窓枠、(農業)囲い・柵
    Cinacina : 南米産の灌木で黄色と赤い花をつける  マメ科
    Glicina : 藤
    Aljibe : 水溜め(特に雨水を溜める)
    Parral : 葡萄棚・葡萄園
    Camelia : (植物)椿、 (中南米)ヒナゲシ
    Brocal : (井戸の)井筒・縁石
    Frisón : フリジア人・フリジア語  同じく形容詞、 フリジア産の馬、足が大きくて強い
    Cuarteador : (アルゼンチン)=encuarte encuartar=(ラ米)(車などに補助として)馬を繋ぐ
        Cuarta :(ラ米)鞭、 (ラプラタ)(引き馬・牛を助ける)補助馬・牛、馬車の引き綱
    Rocín : やせ馬、 (ラ米・特にアルゼンチン)乗馬用の馬
    Crin : (馬などの)たてがみ
    Balde : 手桶・バケツ   de balde 無料で・只で   en balde = en vano
    Parra : ブドウのつる
    Décimas : 各行が8音節の10行詩

    匿名
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    「Noche de reyes」 (公現節の夜)
    Letra : Jorge Curi (1895-1972)
    Música : Pedro Maffia (1900-67)
    他の誰も出来なかったほどに 俺はあの娘を愛した
    あの娘に嫉妬を感じるまでに愛したものだった
    あの娘のお陰で 俺は善良で 真っ当な 良い亭主になった
    俺は生き方を変えて 働き者になった
    あの娘と俺の運命が結ばれてから暫らくして
    男の子が生まれたんだ 俺の家の宝物みたいな
    俺はとても幸せだった 人生の行く道ははっきりして
    真っ当な 働き者の 一家の父親であることで

    だけど 或る公現節*の夜
    家に帰りつこうとした時
    あの娘が俺の親友と
    浮気をしているのを見た
    自分の愛情を傷つけられて
    俺はこの屈辱に復讐したかった
    そして怒りに駆られて*      *coraje には “怒り” の意味がある。同義語ira と重ねることで “怒り” を強調したもの
    容赦なく二人を殺した

    何と言う光景だったろう 聞いてくれよ 思い出したくもない
    俺の胸を 恥と憎しみと恨みで一杯にする
    善人であることに 何の価値(ねうち)がある 俺に復讐するだけでなく
    俺の胸に苦しみの矢を撃ちこんだのだ
    だから なあ 今日は公現節で
    俺の子供は家の外に靴を出した
    贈り物を入れてもらおうと その子は知らないんだ 母親を
    不実で 行いの悪い*母親を 父親が殺したことを!      *falsa と canallaはほぼ同じ内容の語の反復

    邦訳:大澤 寛

    *公現節:キリスト教世界で1月6日は el día de los Reyes Magos という祝日であり、子供たちに玩具などの贈り物をする習慣になっている。(詳しくは「Chiquilín de Bachín」の解説を参照)
    *最後の行の por falsa y por canalla は por ser falsa y canalla と ser を補えばよいと解釈した。
    同じような少々怖い内容のものに 「A la luz del candil」 や 「Dicen que dicen」 などがある。

    匿名
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    「Noches de cabaret」 (キャバレーの夜)
    Letra : Antonio Fiasche (n/d)                       
    Música : Alberto San Miguel (1915-n/d)

    澱んだタバコの煙に包まれて
    バンドネオンの嘆き節を聴く
    何杯も飲むことで 俺はひどい渇きを和らげる
    新しい愛に誘われて 裏切られたのを忘れるのだ
    サロンには とても綺麗な女たちが
    酒を奢ってくれそうな男を探し廻っている
    あんなに華奢で品のいい あのフランス人の娘は
    帰って来なかった男を思って すすり泣いている

    キャバレーの夜
    心の波止場
    俺は夢をなくして
    そこに錨を下ろした
    キャバレーの夜
    そこで俺は酒を飲む
    俺を好きだと言いながら
    後になって見捨てた
    俺を騙した女を忘れようと

    綺麗なテレシータ
    ぼんやりした夢を追う
    キャラコ*の着物を脱ぎ捨てて          *percal : キャラコに似た綿の衣類 貧しい家庭で使われる
    ピガルの豪華な雰囲気を求め
    家も町もすっかり捨てる夢

    マリアには息子が一人いて
    お祖母さんが育てている
    マリアは時々 明け方は寝ずに起きている
    学校に行く息子をただ眺めるだけのために
    泣いて 口紅で息子を汚したくないから

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Nocturno a mi barrio」(わが町に捧げるノクターン)(1968)
    作詞・作曲・語り・バンドネオン:Aníbal Troilo (CD : RCA VICTOR 100 AÑOSから)

    (歌詞:聞き取り)
    Mi barrio era así, así, , , , así. Es decir, ¿qué sé yo? Sí, era así.
    ¡Pero yo me lo acuerdo así! Con Giacumín, del carbuña de la esquina, que tenía las hornallas llenas de hollín, y que jugó siempre de “jas” izquierdo al lado mío, ¡siempre! ¡siempre! Tal vez pa’estar más cerca de mi corazón.
    Alguien dijo una vez que yo me fui de mi barrio. ¿Cuándo? Pero, ¿Cuándo?
    ¡Si siempre estoy llegando! Y si una vez me olvidé, las estrellas de la esquina de la casa de mi vieja, titilando como si fueran manos amigas, me dijeron : ¡Gordo! ¡Gordo! Quédate aquí, quédate aquí.

    注:jas は英語のhalf (因みにoffside はorsái) MFを指して言ったもの
    注:carbuña = carbonero = 炭屋
    注:hornalla = nariz = 鼻

     俺が住んでいた町はなあ こんな風だったよ
    こんな つまり 何と言ったらいいか こんな風だったんだ
    俺が覚えている町は
     ジャクミンの野郎 角の炭屋の 鼻を煤で真っ黒にして
    いつも俺の左側で球を蹴りやがった いつも いつも! 
    奴はきっと 俺の心に一番近いところに居たかったんだ
     誰かに一度言われたことがある 俺がこの町を捨てたと
    何時だ? 何時のことだ? 俺はいつも戻って来ているのに!
     何時のことだったか忘れたけど 一度 お袋*の家のある街角で
    優しい女の手のようにちらちらと瞬いている星に言われたよ
    “Gordo, Gordo*, ここに居て ここに居てよ”って

    *vieja は“恋人”“隠している愛人”“母親”などと解釈は別れる
    *gordo は太った人への愛称“太っちょ”“デブちゃん”

    聞き取り・邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「Nostalgias」(郷愁)1935
    Letra: Enrique Cadícamo (1900-99)
    Música : Juan Carlos Cobián (1896-1953)

    俺は心を酔わせたい 
    狂った愛を消すために
    過剰(よぶん)な愛は 苦しみだから
    ここへ来たのはそのためだ
    古い昔の唇付けを 
    別の唇に埋めて 消すために
    あいつの愛が ひとときの花だったなら
    この惨い取り憑かれた不安な気持ち*が      *obstinación は“強迫観念”だがそのままでは訳にならない
    何故 いつまでも俺に着いて来るのだ
    二人のために乾杯したい
    俺のしつこい思いを忘れるために
    そして 再たあいつを強く思い出すために

    思い出すぜ
    あいつの狂った笑いを聴くのを
    あいつの火のような喘ぎを
    俺の口元に感じるのを

    辛いことだぜ
    捨てられたことを感じるのは
    他の男があいつの傍に居て
    すぐに、、、すぐに愛を語らうと思うと

    仲間よ!
    俺は へりくだってあいつに懇願(たのん)だり
    あいつのせいで泣いたりはしたくない
    もうこれ以上生きて行けないなどとは
    あいつに言いたくない
    俺は悲しく孤独(ひとり)で 俺の青春の薔薇が
    枯れ落ちるのを眺めよう

    バンドネオンよ お前の暗いタンゴを弾いてくれ
    多分お前も 似たようなセンチメタルな愛に
    傷ついているのだろう 
    泣けよ 操り人形みたいな俺の心
    独りで 悲しく この夜に
    この暗い 星の無い夜に

    グラスの酒が慰めになるのなら
    俺は眠れずにここにいて 俺の
    眠れぬ悩みを 一息に飲み下そう
    俺は心を酔わせたい そしたらその後で
    壊れた愛に乾杯出来るだろう

    邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「Nubes de humo」(煙草の煙)
    Letra : Manuel Romero (1891-1954)                  
    Música : Manuel Jovés (1886-1927)

    煙草吸いなよ 友よ
    吸って 喋ろう
    そして 吸いながら 覚えておこう
    煙草の煙みたいに 青春(わかさ)が 俺たちから
    逃げてゆくのを
    煙草吸いなよ 友よ
    吸って 覚えておいてくれ
    俺も覚えておくから
    俺が 心の底から あの娘(こ)が好きでいて
    それなのに ある暗い日に 
    あの娘を捨てたことを

    あの娘を忘れられずに
    苦しさに苛まれながら 俺は行く
    あの娘は純潔を誓ったけど
    俺は聞く耳を持たなかった
    上辺を繕っても仕方が無いのさ
    深い愛があるのに
    可哀相なあの娘 俺は一生
    あの娘を想って泣くのだろう

    そして今 友よ 俺は後悔して
    あの娘を忘れたいのだけど 忘れない
    煙草の青い煙の中に あの娘が
    揺れて見えるほどだ
    煙草呼いなよ 友よ
    吸って 夢を見よう
    俺が悪かったことを忘れたい
    煙草の煙りみたいに 青春(わかさ)が
    消えてゆくとき

    邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「Nunca tuvo novio」 (あの娘(こ)は一生恋人がなかった)
    Letra : Enrique Cadícamo (1900-99)
    Música : Agustín Bardi (1884-1941)

    哀れな独身女(としま)になったなあ
    夢を失くして 神を信じることもなく
    悩む心は病んでいて
    お前の挫けた人生は もう落日(おしまい)を迎える
    今も 昔のように 
    恋にやつれた女の子が空しく待っているという
    安っぽくてセンチな小説をずっと読んでいるな

    お前の淋しい独り暮らしの部屋には
    嘆きが住んでいる
    悲しい現実だよ
    お前の愛の無い人生が終わるのは
    お前は泣いて 泣くと
    涙が気持ちを鎮めてくれる
    古い三文小説の頁に
    お前は力なく胸をときめかせる
    王子様を夢見て泣くのは止めな
    お前が心に溜まった歌を歌うのに 
    王子様は 一緒に来てはくれなかった
    霧雨が窓のガラスを濡らす時
    窓の向こうに お前は涙にぬれた眼で
    愛の姿を夢見るのだ

    一生 恋人が無かった 可哀そうに!
    何故 愛はあの娘の 慎ましい乙女の庭に来て
    花の歳月(ころ)を 元気づけてやらなかったのか?
    俺も幻滅を積み重ねて
    お前と同じ 暗い生活(くらし)をしている
    苦しみを忘れさせてくれるような
    優しい愛撫を受けることも無しに!

    邦訳:大澤 寛

    Truncar : 削除する、 挫折させる、 刈り取る・切り取る   truncar la vida = 殺す
    Novelón : 安っぽい・価値の無い小説、三文小説
    Consumido/a : 衰弱した・やつれた
    Aguardar : 待つ= esperar,  待ち受ける、  猶予を与える・期限を延ばす
    Jornada : ここでは“生涯・一生”の意味
    Templar : 基本は“和らげる・緩和する・静める・宥める”  抑制する、  
    薄める・割る = templar wisky con agua
    酒が効き始める Con tres copas ya está templado (三杯でご機嫌になっている)
    Rimero : 山積み・山積みの状態、 本や紙などの山
    Desengaño : 1.(迷いや騙されている状態からの)目覚め・悟り・気付き
    2.幻滅・失望・落胆
    3.(複数形で) (苦い経験から得た)教訓
    Cruz : ここでは“苦痛・苦難、受難”の意

    匿名
    無効

    「Organito de la tarde」(黄昏のオルガニート)
    Letra : José González Castillo (1885-1937)
    Música : Cátulo Castillo (1906-75)

    哀れな老人のゆっくりした歩みに合わせて
    飾りガラスの壊れた手回しオルガンが
    黄昏時の下町に 
    音楽(うた)を届ける
    オルガンの取(ハン)手(ドル)を回しながら
    足の悪い男が一人 その後をついて行く
    固い木の義足が
    タンゴのリズムを刻んでいる

    その音楽(うた)の調子には
    何か不思議な感じがあって
    町の人たち皆(みんな)の心に
    沁みわたるのだ
    そして その歩みが呼び醒まして行く
    思い出が多過ぎて
    人たちの心を
    ひどく泣きたい気持ちで埋めるのだ

    その歌の
    悲しい調子に合わせて
    手回しオルガンのゆっくりした歩みが続く
    その歩みに合わせて まるで
    思い出の辛さと 落日の痛みを
    増やす種を蒔くかのように
    そして通り過ぎて行く
    そのタンゴの音(ね)に合わせて まるで
    その歌を終わらせる夜を
    探し求めるかのように

    老女(おんな)たちは語る 全てを知っているから
    ピアノの音につられて 喋りに集まって来たのだ
    あの老人には 娘がいたのだと
    その娘は 町の華だったのだと
    あの足の悪い男はその恋人だったのだと
    並ぶもののない踊り手だったのだと
    ミロンガでは あの娘とあのタンゴを踊って
    喝采を浴びたのだと

    ところが或る日 踊り手で 好い男で 喧嘩好きな
    他所者(よそもの)がひとり現れて 
    或るミロンガで
    恋人だった男から その娘と 片方の足を奪ったのだと
    その時から 娘の父親の老人と 恋人だった男は
    薄情な娘を探して
    あの運命のタンゴのリズムに合わせて
    町を探し回っているのだと

    邦訳:大澤 寛
    この曲はSebastián Piana に捧げられたものだと言う。 劇場での初演はAzucena Maisani によるもので1925年にSan Martín 劇場で行われた。(Eduardo Romano 「Las letras del tango」 Antología Cronológica 1900-80からA)

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