大澤寛のタンゴ訳詞集

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    「Justicia criolla」 (クリオージョの裁き)
    Letra : Francisco Brancatti (1890-1980) Música : Rafael Iriarte (1890-1961)

    俺を捕まえに来なすったんですね? いいですよ
    刑務所(むしょ)は人に悪いことはしないんでしょう
    このとおり 抵抗はしませんよ
    やられたんですな 俺は罪人ですよ
    これでやっと俺の深い苦しみに封をすることが出来たんだ
    もうこれ以上苦しみに出会ったって構うもんですか
    良い時もあったと嘆くこともないですよ
    悪い時だって やって来たように逃げて行くんですから

    それじゃあ 哀れな俺の娘に唇づけさせてくださいよ
    誰もいない家の中で 孤児(みなしご)みたいなもんでした
    さあ 抱っこしよう 隣の伯母さんと一緒に居な 
    父さんは そこの角まで行って直ぐに帰るんだから

    早く行きやしょう お巡りさん そして俺の目に
    泪が浮かんでるのを見て驚かないでくださいよ
    刑務所(むしょ)は人のためにあるってさっき言いました
    行きますよ たとえそこで死ぬことになっても
    天使みたいなこの子を置いて行くと思うと
    ひとりでに泪が出るんですよ
    この子の他には そうですよ 俺の運命なんてね
    けちなもんで 何の値打ちも無いのは よく判ってるんでさ

    いつか大きくなったら 母さんがどうなったのか
    判るだろう そして 父さんが酔いどれで罪人だったと
    思わんでくれ 
    いつかあの子に話して欲しい 父さんが母さんを殺したんだと
    それは母さんが浮気だったからだと

    お願いしますよ お隣の女(ひと)
    さあ 行きやしょう お巡りの旦那

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「La abandoné y no sabía」 (愛していたのに気が付かないで)
    Letra y música : José Canet (1915-84)

    金と銀 セレナーデとファンダンゴを混ぜ合わせて
    バンドネオンの音色であやされて
    このタンゴは生まれた
    俺の運が尽きる 恐ろしいこの世で 
    俺が悩むのを眺めるために生まれたのだ
    このタンゴを聴くとき 踊りに行くとき
    俺は死を身近に感じる
    そうなのだ だから今夜は心が俺を責める

    俺はあの娘(こ)を捨てたのだ なのに
    あの娘を愛していたのに気が付いていなかった
    あの娘が去(い)ってしまってから 信じる心は挫けて
    死んで行く 死んで行く
    俺はあの娘(こ)を捨てたのだ なのに
    俺の心が俺を騙していたのに気がついていなかった
    そして今 あの娘を探しに来て 見付けられない
    あの娘の愛なしに俺は何処へ行くのか?

    バイオリンの嘆きに乗せて 踊り手たちは
    吐息を洩らす
    誰もが 連れと一緒に 古い悲しみを
    次々と思い出す
    不運な俺もまた 俺の腕にあの娘を抱けないという
    ひどい苦しみを嘆くのだ
    今 あの娘に会いたい 口付けがしたい
    疲れた心を受け留めて欲しい
    しかしそんな願いは無駄なこと もうそれは無理なのだ
    俺は影の中で 夢を見るだけだ

    邦訳:大澤 寛

    amasar : こねる・練る、 パン生地をこねる、 雑多なものを取りまとめる・ひとつにする
    fandango : l.p. 大騒ぎ・大混乱、 (中南米)どんちゃん騒ぎ
    reproche : 非難・叱責、 非難・叱責の表現
    truncar : 切り取る・奪う・削除する、 削除する・未完に終わらせる、 挫く・挫折させる
    a pedazos : caerse a pedazos = l.p. ぼろぼろになる、 疲れ果てる

    匿名
    無効

    「La calesita」 (回転木馬)1954
    Letra : Cátulo Castillo (1906-75)
    Música : Mariano Mores (1918-2016)

    暗い小さな町角の 回転木馬が泣いている
    昔は薔薇のようだった 物事が全部(みな)血を流す
    喧嘩っ早い男たち 俺を愛した女の子
    男らしくて一徹な 俺の心よりずっと
    下町風なあのタンゴ
    泣き続けているあのタンゴ
    そしてまたあの町角で
    泥沼のような苦しみで
    回転木馬が呼吸(いき)をする

    カランカンフン* もう一度踊るのだ
    派手なステップを思い出すと
    俺はあの若者に戻るのだ
    めかし込んだお前のペチコートの中で
    カランカンフンと お前に叫んだあの若者に 
    踵の高い靴をはき
    パンタロン姿で 昔流行ったステップで
    お前の傍にいれば
    何も無くても 俺の心は満ち足りていた
    *carancanfún = carancanfunfa*タンゴの下町風の踊り それを上手く踊る人を指す仇名 El choclo の歌詞にも出て来る

    回転木馬が叫んでる 長い不幸の物語
    Balvaneraの家並みへ 二人の逢瀬(デート)の約束の
    もう一度行こうよ アミーガ*      *古い女友達への呼びかけ “さあ姉ちゃん” という感じか
    お前と踊り続けるために
    行こうよ 古い町角が 
    いつものように 俺を呼んでるから
    行こうよ 俺たちを待ってるから
    お前が古いスカートをはいていても
    回転木馬を動かしているあの歌が

    邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「La calle sin sueño」(夢のない町)
    Letra : Enrique Cadícamo (1900-99)
    Música : Lucio Demare (1906-74)


    私はそれを失くしたが それでも探し続けてる
    私の傷む身体には 今でもそれは生きている
    それが私の血の中で 燃えているのが分かるのだ
    あの人が 私のグラスに浮かんでくる
    微笑んでいる あの顔が
     
    そんな姿に唇(くち)を寄せ 唇付けをして吸い取れば 
    あの人は 夢見心地になってゆく
    あの酒場では売っている
    喉の渇きと苦しみを 癒してくれる
    毒のある 黄色い酒(注1)を売っている

    夢のない町という名のそこで
    通りすがりに探してる
    少しの酒と 酒場のカウンターに繋がれた夢を


    狂った幻の奇跡のように あの人に会う夢
    あの人に愛されて 二人を引き離すものはないという
    夢を見るのだ もう一度
    だけど直ぐに あの狂った幻は
    嘲りながら 姿を消すのだ
    そして再た全てが 奈落へ転がり落ちる
    そして私は飲みながら
    酒場で悲しさをつのらせる

    邦訳:大澤 寛

    注1.Un rubio veneno “rubio” は形容詞で“金髪の・黄金色の”、名詞で“金髪の男・黄金色”などと訳される。もちろん”rubia”という形での“金髪の女性”が一般的。ここでのrubio veneno は“金色の毒””で具体的には白ワイン・ラム・ウイスキーなど黄色みががった飲み物を指し、同時に金髪の女性を連想させるのだろう。

    匿名
    無効

    「La cantina」(小さな酒場)
    Letra : Cátulo Castillo (1906-75) Música : Aníbal Troilo (1914-75)
    月に染められて銀色のリアチュエロ川に
    海から戻った船がひとつ
    空の甘さのかけらと
    一掴みの塩の香りを連れて

    風に流されて消えた燕は
    何処の遠い街をさまようのだろう
    とある酒場の曇ったガラスの影で
    グラスの酒に不安を紛らせて

    酒場よ
    イタリア人のアコ弾きが
    小さく小さく弾いて
    お前を呼ぶたびに 泣いてくれよな

    酒場よ
    そこは暮らしのひとかけら
    そこにお前は隠れていた
    俺の手のくぼみの影に 
    静かにお前を呼ぶ俺の手の

    蝶がひとつ飛び立って
    俺の唇に置いて行った そう
    俺の唇に置いて行った
    塩辛い海の味を

    もやい綱に月は沈んで
    タンゴが悲しい詩(うた)を泣く
    少し風が出て水面(みなも)が泡立つ中を
    お前の声が木霊してくる
    イタリアの船の*タランテッラが聞こえて *イタリア南部のテンポの速い踊り(の音楽)       
    酒場は賑やかになったけれど 俺には
    お前の思い出が灰色の衣装を着けて
    遠くで泣いているのが分かる             邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「La casita de mis viejos」(父母(おや)の家)1931
    Letra : Enrique Cadícamo (1900-99)  Música : Juan Carlos Cobián (1896-1953)

    俺が昔住んでいた 静かな町の街角へ
    年老いた俺は 悲しい夕暮れの様に戻って来た
    ひどく年老いて戻って来た
    人生は俺を変えてしまった
    髪には少し白いものも混じっている
    俺は悩める旅人だった
    夢みて彷徨い歩きながら
    この世の俺の不幸に気が付いた
    唇付けは酒に埋めて
    女にはいつも夢を砕かれた

    打ちひしがれて戻って来た 親の家に
    何もかもが想い出となり 俺の記憶をかき立てる
    二十年遠く離れていた 
    若さに狂い 諫めてくれる人も無く
    家には 深く残酷な 人を近づけない沈黙があった
    他人がするように戸をたたくと
    古くからの使用人が出て来た
    俺はすっかり変わっていたのだろう
    声を聴いてやっと俺だと判ってくれた

    お袋がいた 哀れな病人になって
    声をかけたら こちらを見た
    涙で潤んだその眼で
    “どうしてこんなに遅くなったの?”と言うように
    もう俺は離れない お袋の傍に居て
    大きな愛の暖かさを感じるのだ
    この世で許してくれるのは母親だけだ
    それが只一つの真実なのだ
    それ以外はみな嘘っぱちだ

    邦訳:大澤 寛
    「Los mareados」「Nostalgias」など数々の名曲を生んだCadícamo+Cobián コンビの第1作。
    Huraño : 人嫌いな・ひどく内気な、 misántropo, insociable, esquivo
    Criado : 召使い・下男・女中、爺や・婆や  現代語でどう訳すか

    1943年のPedro Pablo Ramírez 政権下の検閲でタイトルを「La casita de mis padres」に変更し、歌詞の一部も入れ替えている

    匿名
    無効

    「La copa del olvido」 (忘却の盃)
    Letra : Alberto Vacarezza (1888-1959)
    Música : Enrique Delfino (1895-1967)

    兄ちゃん! もう一杯持って来てくれよ
    そして飲みたい奴にはなにか飲ませてくれ
    俺は あの残酷な事実を知ってからは
    ひどく孤独だし とても悲しいんだから
    兄ちゃん! もう一杯持って来てくれよ
    昨夜(ゆうべ) あいつらが二人一緒にいるのを見たんだ
    復讐したかったぜ あの女を殺したかった
    だけど 何かの弾みで思いとどまったんだ

    街へ出たんだ どうしようもなくて
    どうやってかは判らんけど ここまで来たんだ
    賢い人たちに訊いてみるために
    俺はどうしたらいいかを
    忘れなさいよと言う人たちもいるだろう
    だけどあの女を忘れるなんて 出来っこない
    もしあいつを殺したら あいつの居ない暮らしなんて
    あいつの居ない暮らしなんて 俺には駄目だ

    兄ちゃん! もう一杯持ってきてくれよ
    そして飲みたい奴にはなにか飲ませてくれ
    俺は この酒で酔いたいんだ
    この酒が忘れさせてくれるかどうか
    兄ちゃん! もう一杯持ってきてくれよ
    そして飲みたい奴にはなにか飲ませてくれ

    邦訳:大澤 寛

    自分を裏切った女を殺したかったけれど何故か思いとどまったというテーマもタンゴには多い。
    「La gayola」「Tomo y obligo」など。

    匿名
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    「La cumparsita Ⅰ」
    Letra : Pascual Contursi (1888-1932)+ Enrique Pedro Maroni (1887-1857)
    Música : Geraldo Hernán Matos Rodríguez (1897-1948)

    お前に判るかなあ 今も俺は心の中に
    昔お前に抱いた愛を温めていることを
    俺が決してお前を忘れていないことを
    判らんなあ お前が昔を思い出して 俺を覚えているかどうかは

    友達(ダチこう)はもうやって来ない
    俺のことを訪ねもしない
    誰も俺を慰めようとしない
    俺が苦しんでいるのに
    お前が去(い)っちまった日から
    俺の胸は苦しいんだ
    言ってくれ クソ女(あま) 何をしたんだ?
    俺の哀れな心に

    だけどなあ 俺はいつもお前を思い出すぜ
    俺がお前に抱いた あの清い愛をこめて
    そしてお前は 俺の心の中にいる 俺の命の一片(かけら)なのだ
    俺が決して忘れない 懐かしい夢の中の

    放ったらかされた俺の部屋には
    お前が居た頃のように
    窓から 朝の光が差すことも無い 
    そして 一緒に飼ってたあの子犬
    お前が居ないと何も喰わなかったが
    或る日 俺が独りなのを見ると
    あいつも俺を捨てて去(い)った

    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「La cumparsita Ⅱ」
    Letra y música : Geraldo Hernán Matos Rodríguez ()1897-1948
    (1925年に作曲者Matos Rodríguez 自身による歌詞が付けられたもの。
    Alfredo De Ángelis 楽団Néstor Rodi によるrecitadoが有名)

    終わりの無い惨めさが
    行列を作って
    あの病んだ男の周りを
    踊り狂っている
    その男はもうすぐに
    苦しんで死ぬんだ
    だからその男は心の中で
    苦しみ抜いてすすり泣いている
    自分を傷つけた過去を
    想い出しながら

    あいつはお袋さんを捨てたんだ
    お袋は身寄りもなく残された
    あいつは熱に浮かされ
    恋に目がくらんで
    女の後を追った
    その女は綺麗だった 魔物だったんだ
    淫らな罪の花だった
    飽きが来るまで
    あいつの愛を弄(もてあそ)んだあげくに
    あいつを捨てて
    別の男の許へ去(い)った

    長い年月(とき)が過ぎて
    その男は母親の許へ帰りついた
    病気と傷ついた心を癒すことが出来るかと
    そして判ったのは
    自分が捨てた 
    あの優しいお袋さんが
    去年の冬に
    凍えて死んだことだ
    その男は 今は独り見捨てられて
    運命の淋しさに
    苛々して 死を待っている
    まもなくやって来る死を
    他人(ひと)の冷淡(つめた)さが 悲しく
    ゆっくりと心を浸して来る中で
    自分が悪かったことへの
    残酷な自責の念を
    感じていた

    影の中で
    死を前にしたその男の
    苦しい喘ぎが聞こえる
    その男は微笑んでいる
    甘い安らぎが訪れるから
    あの優しいお袋さんが 天国から
    苦しみを和らげてくれるように
    その男の罪を許してくれたのを
    感じたから

    邦訳:大澤 寛

    匿名
    無効

    「ラ・クンパルシータ・Ⅲ(語り)」
    (出だしの唄)
    終わりの無い不幸が 行列をつくって
    後悔に打ちひしがれて もうすぐ死ぬ筈の
    あの病んだ男の周りを 通り過ぎる
    死の床で 今なお彼を苦しめる過去を思い出して
    嘆きながら すすり泣く男の周りを

    (語り)
    俺は このタンゴ唄えるぜ
    そこの*揺りかごで生まれたんだから *そういうタンゴの世界の
    餓鬼の頃に タンゴをどう唄うか覚えたんだ
    同じ泥濘(ぬかるみ)の生まれよ 死ぬのもその泥濘の中さ
    俺がタンゴを知ったのは 手回しオルガンのお陰だよ
    俺の辛かった餓鬼の頃の 場末の昼下がりによくやって来た
    手回しオルガンから聞こえるメロディーで 覚えたんだ
    その頃の俺には 玩具なんか無かったから そのオルガンの飾りの人形がふたつ
    タンゴのリズムに合わせて動くのを眺めて 喜んでいたものだ
    “ちょっとだけ弾かせてくれない?”って 
    俺は 何度あの義足の男に頼んだことだろう
    あの男は 皆が思っていたような悪い人間じゃなかった
    俺を横目でじろっと睨みながら まるで怒ってるみたいな返事が
    いつも返ってきたものだ
    “いいよ だけどしっかり弾くんだぞ”
    俺は 子供の夢が叶ったものだから もう夢中になって
    オルガンのハンドルに食らいついたものさ
    あの安っぽいふたつの人形と
    場末のタンゴの ヤクザっぽいリズムが
    いつも俺をうっとりさせたもんだ

    (終わりの唄)
    お前に判って欲しいものだ 俺が今でも 昔持っていた お前に対する愛を
    心に秘めていることを 
    俺がお前を忘れたことが無いことが お前に判っているかなあ お前が昔に戻って
    俺のことを思い出すかも知れないことも 
    邦訳:大澤 寛

    匿名
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    「La gayola」(刑務所)
    Letra : Armando Tagini (1906-62)
    Música : Rafael Tuegols (1889-1960)
    驚いて逃げたりすんなよ 復讐しに来たんじゃないから
    そう 丁度明日 俺は去っちまってもう戻らないんだ
    別れの挨拶に来たんだ お前を真っ直ぐに見て
    お前の瞳の奥を 静かにゆっくりと見つめて満足したいんだ
    昔 そうしたようにな

    一緒に昔を思い出そうと やって来たんだ
    長いこと会ってない親友の二人みたいに
    そして思い出したい 俺がまともな男だったあの頃を
    世間の冷たさに耐えていた俺の 汚れてない善良な心に
    着せかけてくれたポンチョみたいな お袋の優しさを 

    或る晩 悩む俺の心に 訪ねてきたのは死だった
    俺のあの優しいお袋が 天に召されたと
    それからは夢を見ると お袋が天国から
    お前のことを良い娘(こ)だ 何時もお前を信じろと言っているようだった

    だけどお前は俺に酷いことをしたなあ  俺は復讐したくなって
    そのときは心に ナイフを忍ばせたものだ
    後になって正気に戻ると 俺のたった一つの希望を失くして
    どうしようもない涙を 安酒場でぬぐったものさ  

    俺は何年もの間 汚ない刑務所(むしょ)にぶち込まれていたんだ
    或る日の午後 出してくれた それが俺には良かったのか 悪かったのか
    当てもなくうろついた ボールみたいに転がり歩いた
    パンの欠片の施しを受けに 何度も列に並んだものさ!
    朝になって 何処かの家の前でのびて寝ていたこともあった

    今はもう 俺には何も無い 逃げ込む場所もない それほど貧乏なんだ!
    お前に会いに来たのは お前を許すためだけさ
    誓って言うが お前があり余るほど幸せでいることで俺は満足なんだ
    遠い所へ働きに行くさ 小銭を稼ぐために
    棺桶に飾る花が無いと困るからさ                                邦訳:大澤 寛
    desdén : (見下した)無関心、 蔑視
    sediento :1.喉が渇いた   2. + de ~ ~を渇望した・に飢えた・に取りつかれた
    envainar : 剣をさやに収める、  ~se = 悶着を起こす
    sórdido : 汚れた、貧しい、さもしい
    mendrugo : 固くなったパンの欠片

    匿名
    無効

    「La limosna」(施し)
    Letra : Horacio Basterra (Horacio Sanguinetti) (1914-57)
    Música : Juan José Guichandut (1909-79)

    お城みたいな家の前 施しを乞う男の子
    “お腹が空いて寒いのです どうか私にお恵みを”
    8月の冬の最中(さなか)のこの雨は(*) か弱い孤児の肌を刺す    
    (*)アルゼンチンなど南半球の7~8月は冬の最中
    この夜ここでは舞踏会 華やぐ宴に集い来る
    富める男とその連れの とても綺麗な女たち
    襤褸(ぼろ)を纏(まと)った天使のような 金髪の智天使ケルビム思わせる
    哀れな子には目もくれず 心冷たく歩み去る

    パンのかけらの硬いのを 苦い心で噛みながら
    哀しみこめて繰り返す “どうか小銭のお恵みを”
    耳をつんざく樂の音は この子の胸には鞭のよう

    通りがかったもうひとり 世間を知った年老いた
    物乞いの術(すべ)を心得た
    この子に心動かされ 酒臭い息で語るのは
    こんな言葉でありました
     
    “華やぐ宴のある場所で 物乞いするなど無駄なこと 
    浮かれ楽しむ人たちに 苦しみの判る筈も無い 
    善い人や 憐憫(あわれみ)を知る人びとは みなが悲しむ墓場とか 
    教会にこそ居るものだ”
    “今夜のここに集うのは 金持ちばかりなのだから
    お前に言って聞かせよう こんなところに居ても無駄
    早くここから離れなよ”
    “今日は誰にも見向きもされぬ お前にはほらこれやるよ
    この小銭でもなあお前 パン買う足しになるだろう”
    邦訳:大澤 寛
    カトリックの世界では貧しい人たちでも、より貧しい人たちに施しをするのだろう。過去にそうした施しをすることが出来なかった人たちが、豊かになってからそれを悔いて改めて施しをするテーマもタンゴには多い。「Chiquilín de Bachín」(バチンの少年)「El bazar de los juguetes」など。

    匿名
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    「La misma pena」(同じ苦しみ)
    Letra : Homero Expósito (1924-97)
    Música : Ástor Piazzolla (1924-92)

    以前(まえ)にあったことだ
    そして今 もう一度
    同じ苦しみ
    同じ渇き
    だが愛は不思議に似てるものだな
    もう一度色を変えて
    もう一度
    そしてまたもう一度
    同じ苦しみ
    それはお前が居ないことだ
    アーモンドの花の咲く国の
    ドア*の蔭の 愛に死にそうな唇付け        *cancel : (二重扉の)内側或いは外側のドアー  puerta cancel

    それは
    歌の調べのようなお前の細い身体*の震えだった *gacela 1.(動物)ガゼル、2.すらりとした女性
    それは
    シナモンとラムの香りがするお前の口だった
    それがお前だった
    愛を告げるのは
    それがお前だった 心からの
    あったのは 光りと 花と お前と 愛と
    ああ 今あるのは悩み!

    何時も泣くのだ
    何時も泣くのだ
    同じ苦しみを
    同じ不幸を
    沈黙に 定(き)まった音*がある時 もっと恐ろしい *impostar : (音楽)声を一定の高さで発する
    俺の孤独は 神を信じることはない
    もう一度
    そしてまたもう一度
    同じ苦しみ
    それはお前が居ないことだ
    アーモンドの花の咲く国も無い
    ドアの蔭の 愛に死にそうな唇付けもない

    邦訳:大澤 寛

    Pena : 苦悩・悲嘆、 (複数)苦労・労力・困難、 罰・刑罰  
    (中南米:México, Costa Rica, Venezuela, Colombia)羞恥・気後れ
    Dolor : 苦痛・痛み、 (精神的な)苦しみ・苦悩・嘆き
    Mimetismo :(生物)擬態、 (表情・意見・態度などの) 物まね、 (無意識の)模倣  
    Mimesis =mimesis (f) 模倣、 物まね
    Cancel : (二重扉の)内側或いは外側のドアー  puerta cancel
    (木製などの)ついたて・屏風・衝立
    Tiemblo : (ポプラに似た植物)ヨーロッパヤマナラシ・山鳴
    Gacela : 1.(動物)ガゼル、2.すらりとした女性
    Son : 1.(音楽的な心地よい)音  2.やり方・流儀  3.噂・風聞  4.キューバの民族舞踊・音楽
    Impostar : (音楽)声を一定の高さで発する
      

    匿名
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    「La mulateada」(ムラテアーダ)
    Letra : Carlos Pesce (1901-75)     
    Música : Julio Eduardo Del Puerto (?-1964)

    ムラテアーダ :黒人や混血の人たちが持つ“敏捷な”“活発な”“刺激的な”動作をいう

    モンセラット(地区の名前)のマソルケーロ*たちは
    長い通りで祭りの最中
    ラ・ピエダー(地区の名前)の黒人たちも
    松明の灯りの中で踊ってる
    カンドンベ(黒人の踊り、リズム)の王様のパンチョは
    生粋の連邦派*のムラータ(白人と黒人の間の混血の女性)と抱き合って
    そして市場の辺りでは
    感傷的なムラート(上記の混血の男性)が夢を見ている

    綺麗なムラータよ満月の下で踊りなさい
    太鼓掛りのニグロがチネスコ(トルコ起源の打楽器)の
    チ、キ、チ、に合わせて歌うから
    赤いリボンの綺麗なムラータよ踊りなさい
    お偉い人*が観てるから

    玉蜀黍の粥はもう出来ている
    そしていつものチョコレートも
    お気に入りの肉ジャガ料理も
    連邦派の良い料理人が作ってくれた
    小太鼓の陽気なリズムに合わせて
    恋人たちはラ・コンセプシオン(地区の名前)へ
    歩くリズムでムラテアーダ*を見せてくれる
    聖なる連邦のために
    邦訳:大澤 寛

    *マソルケーロ(Mazorquero):ロサス大統領(Juan Manuel de Rosas)が政権を保持するために組織した秘密警察員
    *連邦派 :スペイン(ラプラタ副王領)から独立後のアルゼンチンで、国家体制をブエノスアイレスを中心とするか連邦形式とするかで長期間対立があった
    *お偉い人(Restaurador):原文は大文字になっているので、ロサス大統領を指す

    匿名
    無効

    「La novia del mar」 (海の恋人)
    Letra : Horacio Sanguinetti (1914-57)         
    Música : Elías Randal (1921-2005) y José Ranieri Magarotti (n/d)

    そうだった
    綺麗な金髪の居酒屋の娘だった
    そうだった
    悲しい俺に歌をくれた
    あの娘(こ)のせいで 俺は海辺に錨を下ろし
    あの娘のせいで 俺の心はいつも弾んだ
    あの娘は 運命の星に導びかれて
    あの娘は 南十字星を捨てたのだ
    多分あの娘は海の霧の中に暮して
    波立つ青い海の夢を見ていたのだ

    海の恋人
    船員たちは あの娘をそう呼んだ
    あの娘は旅することを夢見ていた
    そして 運命に従って
    ひとりの船長に恋をして
    あの海辺を捨てたのだ
    俺の命も捨て 俺の願いも捨てたのだ
    海の恋人
    俺の希望もさらって行った
    いつか或る日 海はあの娘を
    俺に返してくれるだろうか

    邦訳:大澤 寛

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