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匿名
無効

「ラ・クンパルシータ・Ⅲ(語り)」
(出だしの唄)
終わりの無い不幸が 行列をつくって
後悔に打ちひしがれて もうすぐ死ぬ筈の
あの病んだ男の周りを 通り過ぎる
死の床で 今なお彼を苦しめる過去を思い出して
嘆きながら すすり泣く男の周りを

(語り)
俺は このタンゴ唄えるぜ
そこの*揺りかごで生まれたんだから *そういうタンゴの世界の
餓鬼の頃に タンゴをどう唄うか覚えたんだ
同じ泥濘(ぬかるみ)の生まれよ 死ぬのもその泥濘の中さ
俺がタンゴを知ったのは 手回しオルガンのお陰だよ
俺の辛かった餓鬼の頃の 場末の昼下がりによくやって来た
手回しオルガンから聞こえるメロディーで 覚えたんだ
その頃の俺には 玩具なんか無かったから そのオルガンの飾りの人形がふたつ
タンゴのリズムに合わせて動くのを眺めて 喜んでいたものだ
“ちょっとだけ弾かせてくれない?”って 
俺は 何度あの義足の男に頼んだことだろう
あの男は 皆が思っていたような悪い人間じゃなかった
俺を横目でじろっと睨みながら まるで怒ってるみたいな返事が
いつも返ってきたものだ
“いいよ だけどしっかり弾くんだぞ”
俺は 子供の夢が叶ったものだから もう夢中になって
オルガンのハンドルに食らいついたものさ
あの安っぽいふたつの人形と
場末のタンゴの ヤクザっぽいリズムが
いつも俺をうっとりさせたもんだ

(終わりの唄)
お前に判って欲しいものだ 俺が今でも 昔持っていた お前に対する愛を
心に秘めていることを 
俺がお前を忘れたことが無いことが お前に判っているかなあ お前が昔に戻って
俺のことを思い出すかも知れないことも 
邦訳:大澤 寛