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匿名
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「Esta noche me emborracho」(今宵我れ酔い痴れて)
Letra y música : Enrique Santos Discépolo (1901-51)
(“今宵我れ酔い痴れて”というこのタイトルもまた先人の名訳のひとつ)
夜明けにあいつがキャバレーを出てくるのを見かけたぜ
独りで 疲れ果てて 傷ついて 
喉の下には痩せ細ったうなじと
しゃれたドレスの襟ぐりが見えたよ
足を引き摺って 小娘みたいに髪を染めて 
身体の線に媚びるような衣装(ふく)を着やがって
使い古した革のジャケットを
格好つけて見せびらかしてるのは
羽をむしられた雄鶏みたいに見えたぜ
あんなあいつを見るに忍びなくて
俺は逃げたんだ 泣くといけねえからな

考えてみると10年前のあいつが 俺を狂わせる女だった
俺が人を裏切りさえするほど あいつは綺麗だった
今はぼろぼろになっちまってるけど 
俺の誇りを捨てさせるほどの 甘い関係だったんだ
あいつに眼が眩んで 年寄りの女からパンを奪うこともした
俺は 卑しいたかり屋になり下がったんだ
あいつがいなくなったときは 俺には一人の友達も無く
膝まづいて物乞いをするような 
意気地の無いひどい暮らしをしたもんだ
夢にも思わなかったぜ あいつに
“安らかに眠れよ”と言いたくなるような
残酷な出会いが今日あるなんて
聞いてくれよ 自殺するのでないのなら
そんな馬鹿げたことのために この俺が生きてるなんて
年月はひどい落とし前をつけるもんだ 
愛した相手のうらぶれた姿を見せるなんて

今日あいつを見たのは 俺にはかなり堪えたんだ
これ以上考えると 毒に当てられて死んじまうぜ
今夜は 俺はしっかり酔っ払うんだ
呑むぜ しっかり呑むんだ 物を考えないようになる        邦訳:大澤 寛