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「Entre curdas」 (酔いどれ仲間)
Letra : Aldo Queirolo (1926-75)
Música : Roberto Morel (1906-91) + Carlos Mayel (1913-84)
(各節の番号は便宜上訳者が付けたもの)
1
昨夜は居酒屋*0“ラ・マロマ”は休み
名うての飲んべえのカルモナが
死んでお通夜が開かれた
貧しい長屋の貧しい通夜に
年金暮らしの酔いどれたちが
棺桶撫でつつ別れの涙
安いワインをがぶ飲みしながら
2
蝿が一匹入って来ていて
知らぬ顔して飛んでいたのが
仏の鼻にとまろうとした
それに気付いたロカタリアタ
悪い野郎で痩せこけた
仏の鼻の蝿を見て
ぴしゃりとやったものだから
カルモナ(ほとけ)も棺桶(おけ)もびっくり仰天
3
しかし棺桶(おけ)には何事も無く
涙を浮かべた*1グラピーニが
仏の近くの椅子に腰掛け
祈りの言葉を捧げてた
その傍らで*2バタラスが
何かを話しかけようとした
一方で肝の座った*3マメルトは
先の尖った短刀で
バタラスを串刺しにしたいと思ってた
悪い目つきで見られたので
4
そして床屋の*4カルベテは
仏の顔の髭を見て
己(おのれ)の生業(なりわい)思い出し
仏の前髪近くまで
すっかり剃ってやりました
そこへ*5フィルレテ顔を出す
どこかのドンちゃん騒ぎから
バンドネオンを小脇に抱え
連れの女(こ)たちは安価(やす)っぽそう
酔いどれ仲間と女たちとで
その場は華やぐ*6.ミロンガに
5
踊りの好きなレネときたら
酔っ払いだと間違えて
コーヒーを出してやろうとし
仏をすっかり驚かす
メレナと*7ヤカレはトランプの賭け
そして間抜けなベンベヌートは
ここの長屋の管理人
長いシャツ着て困り果て
*8 32番地へ駆け込んだ
たちまちこの場に現れた
お巡りさんは警察(さつ)の車に
酔いどれたちを送り込む
ガラビートと*9チチャロンは
ワインのお陰で正体が無く
新米のお巡りさんは仕方なく
証言させる必要があり
仏を逮捕連行した
邦訳:大澤 寛
*0.Maroma : maroma馬鹿騒ぎ、大騒動
*1.Grapini : 強い蒸留酒grapaからgrapino/aという形容詞“常習的な酒飲みの”を名詞化。
*2.Bataraz : 古い1ペソ紙幣batarazから。
*3.Mamerto : 形容詞mamerto/a うすのろな、馬鹿な
*4.Calvete : calvete禿げの、髪の薄い
*5.Firulete : firulete 余計なもの・人、余分な飾り、おまけ、ぐずぐずした言い回し
*6.このミロンガは“踊る場所”
*7.Yacaré : yacaré わに
*8.近くの交番の番地? *9.Chicharrón : chicharron 豚の臓物、もつ焼き