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「Duelo curda」 (酔っ払いの通夜)
Letra : Ernesto Cardenal (n/d)
Música : Jaime Vila (n/d -1970)
そんな事件が起きたのは
ヘナロ・ポレンタさんが持つ
安アパートの40号室
そこでイージョの若者が死んだ
頭の先から足の先まで
安ワイン浸りだったのが
これにはみんな驚いた
一昨日の真昼のことだった
冷たいミルクを注文し
ばったり床に崩折れた
ワイン製造組合も
そして区域の酒飲みも
彼の他界*に怒り出し *parca (文語)死
何たる不当な運命か
隣人たちも集まって
グレゴリオの安酒場では
悔やみの言葉の数々も
グラッパ酒も尽きたとき
仕切る女がひとり居て
通夜の準備にとりかかる
さて40号室を出たときは
ドンちゃん騒ぎに千鳥足
酒樽を二つ繋いで遺体を乗せて
しっかりものの未亡人
哀れな夫に祈りを捧げ
故人に対する想いをこめて
遺体の両手に握らせたのは
ギンダ酒*の壜を一本と *チェリー・ブランデーの一種(高場将美さんによる)
もうひと壜は*“8人兄弟” *昔有名だったアニスの銘柄(これも高場将美さんによる)
音に聞えた酒飲みたちも
やはりお義理で顔を出す* *hacer acto de presencia (儀礼的にちょっと顔を出す)
弔問客は次々と
サンホアンからチリーから
メンドーサからもやって来た
親族たちは熱心に
なじみの顔に次々と
安いワインのおもてなし
セミリョンに白にクラレット
赤ん坊がおしゃぶりに飛びつくように
皆は飲むのに忙しい
やがて夜明けが近付いて
酔いに任せた無礼講
大馬鹿騒ぎは文字通り
嘆く涙も哀しみも
ドンちゃん騒ぎに様変わり
余りに騒ぎがひどいので
仏はアタマに来たらしく
酒樽の棺を抜け出して
別のお通夜に出かけたと
邦訳:大澤 寛