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「Aquella cantina de la ribera」(1926)(海辺のあの酒場)
Letra : José González Castillo (1885-1937)              
Música : Cátulo Castillo (1906-75)

寂びれた港の夜を照らしながら
その酒場は古い灯台のよう
航路(ゆくえ)を忘れてしまって 帰る港の無い
魂(こころ)を呼び寄せながら
海や霧が見たように 澤山のそんな魂を見た酒場は
灰色の悩みの色の包まれて
キンケーラ・マルティン* が染めたような
とても変わった とても悲しい織物みたいに見える

乾いた草原の眼を持つ金髪の女たち
ノルウエー産(うまれ)の蒼い肌の狼たち
ジャマイカ生まれの黒い水夫たち
シンガポールから来た銅(あかがね)色の男たち
行く先の無い哀れな小舟たちをみんな
海は浜辺に連れて来る
世界の何処からでも吹きよせる風の中を
ジャズバンドの嵐の中を

そしてあの酒場に夜が来ると
灰色の中の一(ひと)刷(は)けの青のように
ラム酒よりもジンよりもやんちゃで熱い 
元気なイタリア娘の姿がある
海よりも風よりも ずっとずっと暴れん坊な
その娘(こ)の中では何もかも
カプリ島のワインも ソレントの太陽も
瞳を焦がし 声を酔わせる炎になる

悩むタンゴのリズムに乗せて
その娘(こ)がいつも歌うとき
あの酒場の心は揺れる
海に吹く恐ろしい疾風のように

それはあの狼たちが知っているからだ
その娘(こ)の歌の奥底には
心の船を襲う
暴風雨(あらし)の危険があることを
邦訳:大澤 寛

*キンケラ・マルティン Benito Quinquela Martín (1890-1977)
 画家・壁画家。“La Boca の画家たち”の一人。主として船と港湾労働者を描く。少年時代にJuan de Dios Filiberto と知り合った。イタリア滞在時にはムッソリーニに“労働が描ける画家”として気に入られたと言う(Wikipedia から)