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「Viejo baldío」 (古い空き地)
Letra : Víctor Lamanna (1912-n/d)
Música : Roberto Grela ()1913-92

町にあった空き地 あの遠くに離れた俺の下町の
失くした人生のひと断片(かけら)
空き地の周辺(まわり)にあったのは 古い小さな家並みと
町角 沼地 そしてあの柳の木の群れ
町にあった空き地 幼い頃のひと断片(かけら)
空を飛ぶことを夢見た悪戯(わるがき)仲間(たち)
昔の遊びが一杯 遠い夢が一杯
時が流れて あいつらは何処に居るのだろう?

月が縁取りをしたあの町の想い出は
水溜りに浮かんだ光沢(つや)のある目撃者
夜通し灯がついていたあの古い街灯は
絹とキャラコの恋を綯い交ぜにした
タンゴを次々と流していた空き地の回転木馬みたいに
俺の運はいつも当たらない指輪探し*    *sortija = 誰が手に指輪を持っているかを当てる遊び
そして人生の曲がり角をうろつく碌でなしの俺は
今日傷ついた*心で帰って来た *cachuzo/a = ルンファルドで“傷ついた・壊れた・老いた”

町にあった空き地 俺の瞼が濡れて来る
虚ろな心が苦しみで締め付けられる
想い出の楽しさを運んで来る
古い時間の煙に包まれて
町にあった空き地 古い仲間たち
人生は俺たちを何処へ連れて行きたかったのか?
叫び声も ぼんやりと見えた顔も 消えてしまう
何と孤独な俺だろう 空き地よ お前も変わったなあ

邦訳:大澤 寛
「Viejo ciego」(盲目の老人)(1925)

Letra :Homero Manzi (1907-51)
Música : Cátulo Castillo (1906-75) + Sebastián Piana (1903-94)

世話役の子供に手を引かれて 夜毎お前はやって来る 
古いバイオリンの嘆きを道連れに お前の痩せ馬みたいな奇妙(おかし)な影が
煙の中で操り人形みたいに見える

几帳面にやって来るなあ そんなに年をとって目も見えなくなって。
お前の終わりの無い歌が聞こえて来ると 人の心には古い思い出が浮かび
酒には少し苦さが混ざるのだ

いつかお前の愚痴っぽいタンゴが消え去る日
安宿の灯りは濃い煙に包まれ 汚れたカードには不思議な印が浮かび
がさつな心の持ち主たちも 少しは気持ちを動かされるだろう
いつかお前のバイオリンが聴こえなくなる日
お前がとある家の門に屍として横たわるとき
もう唄わなくなった吟遊詩人たちは 
偽りの無い気持ちで小唄をひとつ捧げて 
お前の葬式(とむらい)を出すだろう

お前はあの気狂いカリエゴの詩みたいだ
お前はお前のあのバイオリンの心みたいだ
几帳面にやって来るなあ そんなに年をとって目も見えなくなって
嘆きを一杯抱えて暗い気持ちを一杯抱えて
お前のバイオリンの音色を聴いていると
昔のあの娘の思い出が押し寄せてくるぜ

どうだい爺さん! 
ゆっくりしたタンゴをひとつ演ってくれよ
ひどくゆっくりで ひどく悲しい 
泣きたくなるようなやつをな!
邦訳:大澤 寛