解説とナマ演奏で聴くタンゴ教室

解説とナマ演奏で聴くタンゴ教室

 

 最近雑司ヶ谷の「エル・チョクロ」で毎月NTA役員の西村秀人主宰の「PaPiTa MuSiCa」と題する一種のタンゴセミナーが開催されている。これは西村秀人が自ら構成するもので、選曲から曲目解説まで自ら手掛け、その選曲に適ってコンフントが演奏を聴かせるものであるが、実際のところは中身の濃い「解説付きライブ」とでも言った方が当たっているのではないかと思われる。

 既に4回いつもエル・チョクロで開催されているが、その中、第3回の11月6日には“Tributo a Enrique Mario Francini” と題して、エンリケ・フランチーニが得意としていた曲や自作曲を取り上げ、これを柴田奈穂(Vn)青木菜穂子(Pf)鈴木崇朗(Bn)の3人がトリオで演奏したが、曲目毎にその曲の背景やフランチーニの人となりなどを西村が解説した上で、フランチーニを彷彿させる演奏を披露したところが、このライブの醍醐味であった。

 第4回の11月20日は2部構成で、“Tributo a los fueyes ciudadanos” と題して、先ず第1部はシリアコ・オルティスへのトリビュートとして、オルティスの自作曲と共に、オルティスのバンドネオンで有名になったフランシスコ・カナロの曲など8曲を北村聡(Bn)福井浩気(Gt)清水悠(ギタロン)のトリオで披露し、続く第2部は嘗て日本に滞在して日本のバンドネオン奏者に直接手ほどきをしていたフェルナンド・テルへのトリビュートとして、テルが自ら演奏して日本のタンゴファンに訴えた8曲を、今度は北村聡、福井浩気に田辺和弘(Cb)を加えたトリオで披露した。

 このPaPiTa MuSiCa の解説付きライブは一般のライブとは異なり、必ずテーマが示され、それに副った西村自身の選曲を予め西村から演奏家に編曲依頼して仕上げたものをライブとして披露するもので、極めて中身の濃い一種のセミナーである。この第4回でも、シリアコ・オルティスの音源はあっても楽譜のないものもあったそうで、それを演奏家に耳コピして貰ったうえで、オルティス風に編曲を仕上げて貰うなど言ってみれば「西村秀人先生から北村聡生徒への宿題」が事前に出されていたことになり、主宰者・演奏家双方の大変な苦労が偲ばれる力作を聴いたことになった。

 つまり「タンゴを聴く」と言っても、レココンで一般に行われているような、作曲・作詞家や曲目の時代的背景などの解説を聞いてから、その曲目の「音源」を耳にするのではなく、何十年も前の楽曲を「再現してナマで聴かせる」ところがPaPiTa MuSiCa ならではの将に「これがタンゴだ!」と言えるライブである。

 コロナ禍の所為で、どこのライブハウスも開催を手控え、開催しても人数を半減以下に制限している昨今、ライブへの出足は鈍っているが、その中でも、雑司ヶ谷の「エル・チョクロ」では15名に限定してライブを開催している。そのさなか、折角NTAの西村役員が苦労してこうした画期的なセミナーライブというか「タンゴ教室」を主宰しても満席の盛況になる訳でもないのは実に勿体ない気がしてならない。