生音で聴く会田桃子クアトロシエントス

生音で聴く会田桃子 ”クアトロシエントス”

 

 2019年12月13日、永福町「ソノリウム」で会田桃子率いるクアトロシエントス四重奏のライブが開催された。当初は前宣伝も殆どなかったため、「入りが悪い」のではないかと懸念されたが、蓋を開けてみると100席の会場はほぼ満席に近い盛況で、さすがCUATROCIENTOS であった。

「ソノリウム」という会場は板張り床なので、タンゴのように弦楽器主体の楽器編成の演奏には、そのままの生音が生かされるので、この日もバイオリン(会田桃子)ピアノ(林正樹)バンドネオン(北村聡)コントラバス(西嶋徹)の4名ともマイクは1本も使用せず、将にナマオトを堪能することができた。

冒頭に会田桃子自作の“AL CIELO DESIERTO”が演奏された後、2曲目の“LIBERTANGO”に続いて3曲目に“LA CUMPARSITA”を持って来た辺りがクアトロシエントス流なのかも知れない。つまり、他の楽団のライブやコンサートではプログラム最後の1曲とかアンコール曲として演奏されるこの名曲もタンゴの1曲として取り扱っている訳である。決して特別扱いはせず、寧ろ編曲の妙を訴えているようである。確かに、有名曲でも料理の仕方というか編曲が凝ってくれば、何か別の曲が演奏されているような気分になることもある訳で、この辺に創意工夫があると言える。

よく、クアトロシエントスのライブは最近発表された新曲や演奏家の自作曲が多いと敬遠する向きもあるが、この日は全15曲中8曲は本来的なタンゴで、演奏者各自の自作曲は5曲、それに時節柄クリスマスソングのタンゴバージョン2曲といった構成で、中々面白い企画構成であった。自作曲の中にはピアノの林正樹が作曲した“サバ”(鯖)という曲が披露された。これはアストル・ピアソラの名曲“サメ”(ESCUALO)の向こうを張ったそうであるが、題名の張合いではなく、中身でピアソラに対抗できる要素を備えていたと感じられた。この数十年間、日本人演奏家が多くの新曲を発表しているが、残念乍ら、その多くは殆ど顧みられることがなく、CD化されても相手にされることは少ないのが実情である。

この日の東京は実に寒く、出足が鈍るのはやむを得ないとしても、9割方の席は普段タンゴのレココンなどで見かける顔ぶれではなく、会田、北村、林、西嶋の四重奏だから、という訳で来た人が多かったようで、必ずしもタンゴだけを聴きにきたのではなさそうであった。一方、本来的なタンゴ人の姿があまり見当たらなかったのは誠に残念であったが、多分「クアトロシエントスでは古典曲はやらないだろう」という先入観から敬遠して仕舞ったのではないかと危惧している。これが実に大問題と言えば大袈裟かも知れないが、4拍子の古典曲を従来通りのスタイルで演奏するのがタンゴであって、ピアソラ以降の新曲は元より、日本人の自作自演など興味がない、などと言っているうちに、時代はどんどん新しい方向に向かって動いていることは間違いない。「日本は世界第2のタンゴ国なり」などと勝手に解釈しているが、韓国でも台湾でもタンゴ人口は増えているようで、それも決して所謂古典曲に拘っているのではないそうである。会田桃子自身12月下旬にはクリスマスコンサートで訪韓するが、ソウルに2千名の集客がある由である。日本では最早果たせそうもない規模のタンゴのコンサートが隣国では実現可能というのは何かお恥ずかしいような気分である。

現在の時流を認識せずに、新しい潮流には耳を傾けず、日本のタンゴ界全体がまさしく“GUARDIA VIEJA”になって仕舞いはしないかと案じている。

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