大塚「グレコ」で会田桃子トリオを聴く

大塚「グレコ」で会田桃子トリオを聴く

 

2019年4月20日JR山手線と都電荒川線大塚駅から徒歩数分の所にある「GRECO」というライブハウスで会田桃子トリオのライブが開催された。会田桃子は以前にもここでライブを演ったことがあるが、住宅街であまり人目につかない場所にあるため、余程前もって宣伝しておかないと中々人が集まらない難点があり、会田本人も集客には苦労したようである。

今回のトリオはバイオリン会田桃子、バンドネオン鈴木崇朗、ピアノ三枝伸太郎で、常日頃から一緒に演っている所為もあり、息の合った演奏を披露してくれた。この3人はいずれも自ら作曲、編曲しているので、演奏が始まるまではどんな音が出てくるのか分からない処が面白かった。

最近、会田桃子のライブは最初に古典(といっても他の楽団とは異なる少々凝った編曲なので、出だしだけでは何の曲か分からないことがある)、続いてアストル・ピアソラの作品、そして仕上げは自作曲という3部構成となっている。つまり、古典もやるが、目新しいものも演るので、嫌わずに聴いてくれという訳である。

今回、古典曲の中から“CANARO EN PARÍS”や“POR UNA CABEZA”を演奏したが、他とは異なる料理の仕方で一工夫していたのが印象的であった。こういう誰でも知っている曲は、誰でもが知っている通りに演奏するのも一方であるが、会田桃子の場合はそれに定着せず、新しい息吹を吹き込む工夫が織り込まれている処が面白い。

ピアソラ曲からは“ESCUALO”(鮫)を取り上げたが、これは会田自身のバイオリンであの細かい旋律を弾いて、鈴木崇朗のバンドネオンとの掛け合いが見事であった。また、“MARÍA DE BUENOS AIRES”は会田が自ら歌ったが、歌手としての会田桃子もこの日のライブのもう一つの華となったことは確かである。

後半のオリジナルコーナーでは、先ずワルツ曲の“DESAYUNO CON VOS”(あなたと朝ごはん、というやや意味深な曲)で始まり、”MILONGA SEPTIMA“など普段聴く機会の少ない自作曲のミロンガを披露してくれた。ピアノの三枝伸太郎はミロンガを手掛けては、そのリズムの刻み方やテンポの呼吸の妙が見事であった。

古典至上主義の高老年ファンには、兎角、若手演奏家の自作自演を敬遠する向きもあるが、こうしたライブの醍醐味は、聴きなれない曲を耳にすることではないかという気がする。殊に、この20-30年の間に登場してきた優秀な日本人演奏家が手掛けた楽曲は、まだまだ大多数の人気を博する処まで行っていないのは当然ではあるが、嘗てのアストル・ピアソラが経験したように、最初は相手にされなくとも時を経る裡に、徐々に理解され、やがて高い評価を得るようになるのではないかと期待している。

最後の演奏が終わったところで、当然「オートラ!」となり、MCの会田自身が「勿論アンコールは用意してあります。タンゴを聴きに来られて、アレが出なかったと言われては困りますから」と前置きして、矢張り“LA CUMPARSITA”で締め括った辺りは、将に会田桃子のサービス精神が現れており、よく誤解されているような高騰的な演奏家ではないことが証明されている。タンゴは本来的に庶民の音楽であって、難しい学究的な音楽ではないのであるから、演奏する方も、聴く方も、気軽に楽しむことが肝心であると思い起こされたライブであった。

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