中田智也とシン・ノンブレ七重奏団ライブを聴いて

中田智也とシン・ノンブレ七重奏団・ライブを聴いて

(2019年5月26日@雑司ヶ谷「エル・チョクロ」)

齋藤 冨士郎

中田智也とシン・ノンブレ七重奏団はライブ公演を年2回雑司ヶ谷の「エル・チョクロ」で行うだけであるが、それにもかかわらず公演の数か月前には予約がほぼ満席(会場の席数が30名強とすくないことにもよるが)になってしまうという隠れた人気楽団である。そういう状況は今回も同様で早い人は3月末、私もその頃予約を入れたが、それでも早すぎるということはなかった。

人気の秘密は何といってもマエストロである中田智也、通称「チャーさん」、のバイオリンとその独特の語り口にある。彼のバイオリンは決してビルトゥオーソ的バイオリンではない。バイオリンの演奏技術だけに注目すれば彼を上回る演奏技術の持ち主はいくらもいるであろう。しかし彼のバイオリンは文字通り「余人をもって代えがたい」独特の味を持っている。一言で言えば「乞食節」である。誤解のないように言っておくが、「乞食節」という言葉は故大岩祥浩氏が言い出した言葉で、最近では知らない人も多いかもしれないが、日本のタンゴ界では最高の誉め言葉である。決してアカデミックなバイオリンではないが、そのタンゴ表現は「これぞタンゴ!」というに相応しい。

中田智也は1936年1月の生まれで、若い時は日大作曲科で現代音楽の作曲の勉強をしていたそうである。昭和30年代~40年代は中田修とオルケスタ・ティピカ・アルヘンティーナやその他のタンゴ楽団のバイオリン奏者として活躍した。そういう経歴もあって、古い話にも詳しい。更に彼は、芸大学生時代にアルバイトとしてオルケスタ・ティピカ・アルヘンティーナのピアニストを務め、その後日本のクラシック音楽界の重鎮となり、「尾高賞」にも輝いた平吉毅州氏(故人)の友人であると同時に、氏を深く尊敬もしている。それで、今回もそうであるが、中田智也とシン・ノンブレ七重奏団の公演プログラムの最後は必ず平吉毅州作曲のLa Siluetaで終わるのを習わしとしている。更に、この楽団はライブ公演に平吉氏の夫人を毎回招いており、今回もそうであった。

中田智也とシン・ノンブレ七重奏団のメンバーは編曲・バイオリン:中田智也、バンドネオン:大原一駒、バイオリン:関由美、宮越建政、岩楯麻里、ピアノ:丸野綾子、ベース:松原正樹である。大原一駒は中田智也の古くからの盟友。宮越建政は最近はキンテート・メンターオのメンバーとしても活躍している。丸野綾子は2016年にAndrés Linetzkyとのピアノ連弾ドゥオのCDを出した。

当日のプログラムは第1部 Felicia, Jueves, Taquito Militar , Fuimos, Comme Il Faut, El Último Café, Canaro En París、第2部 Malena(これは中田智也と丸野綾子のドゥオ), Pajaro Azul(原曲はNueve Puntos), Nunca Tuvo Novio, Ole Guapa, On The Sunny Side Of The Street, Nocturna, Nonino, La Silueta。アンコールは A Media LuzとLa Cumparsita。古典曲、現代曲、ヨーロッパや米国の曲、など多彩な組み合わせであるが、散漫にはならず、中田智也の筋の通った編曲で纏め上げられていた。

繰り返しになるが、この楽団はライブ情報を見てから予約を入れても先ず取れない。何らかの手段でいち早く公演スケジュールをキャッチして予約を入れることが必須である。

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